42 ダイvsフレイザード(3)

 

 フレイザードの策略のため、ダイ達の力が徹底的に弱体化し不利となった勇者一行。
 攻撃もおぼつかずフレイザードの猛攻を辛うじて躱すのが精一杯という状況で、リーダーシップを取るのはマァムだ。

 戦力の低下、一行の主戦力であるダイでさえ全く敵に歯が立たないこと、道具である魔弾銃も作動しないことを確認したマァムは、エイミに怪我人の容体を確認している。
 怪我人に回復魔法が効かないことにうろたえている辺り、エイミの実戦経験の浅さや緊急時への対処の甘さが見て取れる。

 何度も繰り返す様だが、この場合は怪我人を最悪見殺しにしてしまっても、国の復興の要となるレオナの救出を最優先すべきだろう。
 だが、政治的要人の安全確保よりも身内や親しい人の手当てを優先してしまう辺り、エイミは戦いや政治にはやはり向いていない印象を受ける。

 そして、マァムもまた、思考が軍事や政治向きとは言えない。
 自分達の不利を悟り、生き延びた人々全員で撤退する決意を固めたマァムの判断は、ある意味で正しい。

 マァムの思考は、仲間を守るためという一点に特化されている。そのため、周囲の人を助けるためになら、マァムはなかなか優れた判断力や対処をとることができるのだ。


 だが、マァムの思考は『誰も死なせない様、全員を助けること』が最優先になっている。
 そのため、マァムはダイの心理まで思いやることはできないでいる。おまけに正直で言葉を飾らないマァムが、真っ先に「逃げる」という言葉を口にしてしまったのも、問題だった。

 正直な話、マァムは説得があまりうまいとは言えない。
 交渉するにしても、もう少し話の持ち掛け方を考えられなかったものかと、思わずにはいられない。

 「レオナを助けるために」を何よりも強く訴えかけていればダイももう少しは冷静に聞けたかもしれないが、真っ先に賛成出来ない結論を聞かされたせいで、ダイは反発を強く感じてしまった。

 レオナを助けたいと強く思っている上、フレイザードの卑劣な手に憤っているダイは、明らかに冷静な判断力を失っている。おそらくは、ダイはフレイザードを倒すこととレオナを助けることが同一視してしまっているのだろう。

 ダイにしてみれば、フレイザードから逃げることは即ち、レオナを見捨てるも同然なのだ。
 実は敵を倒すことと仲間の救出は別の問題なのだが、冷静さを失ったダイはその区別がついていない。

 それなのにいきなり「逃げる」と提案され、ダイはマァムの言葉をろくに聞かずに頑なに逃げることを嫌がっている。
 この揉め事を聞きつけたフレイザードは、ダイの逃亡を阻むために倒れたままのレオナを目をつける。

 ところでこの時、フレイザードはポップを掴まえていたところだったのだが、わざわざ彼を投げ捨ててまでレオナを捕らえ、禁呪法で凍りづけにしてしまう。

 殺しこそしないが、フレイザードが死亡しない限り決して溶けない氷で覆い尽くす魔法――手の込んだ術を使ったものだが、フレイザードにしてみればせっかく張った結界から目標が逃げられるのが一番困るのだろう。

 ダイ達にここで逃げられてしまえば、同じ罠にもう一度かかってくれる保証もないし、そもそもこの氷炎結界呪法は予め敵がいる場所を予測しておかなければ用意出来ない罠だ。だからこそ、フレイザードはダイが絶対逃げ出さない様に人質をとり、自分の優位を保とうとしている。

 その際、わざわざレオナを選んで人質にしているところに、フレイザードの人間観察力の薄さや地位に拘る思考がよく現れている。
 ダイは仲間思いだし、別にレオナでなくてもそのままポップを人質にしたとしても、同じ効果が得られただろう。

 育ての親であるブラスを人質にしたザボエラや、兄弟子にあたるヒュンケルを敵としてぶつけたハドラーなら、ダイのその心理を読み取れもしたはずだ。

 だが、人間関係の希薄なフレイザードにとっては、「個人的に大切な人間がいる」という感覚自体、あるかどうか怪しいものだ。地位や肩書きこそがなによりも価値があると考えているからこそ、パプニカ王女を人質に選んでいる。

 自分が六団長の面目や誇りに拘るからこそ、ダイもまた、勇者という看板に拘りを持っていると考えた上で挑発をしかけている。
 それに対し、ダイはレオナを助けたい一心で、フレイザードに無謀な挑戦を闇雲に仕掛けている。

 そのダイの奮闘の間、マァムはポップに脱出するようにと強く呼び掛けている。
 この戦いではほとんど何もしていないポップだが、マァムのこの説得に反論せずにすぐに従った辺りはいい判断である。ダイやエイミがそうしていた様に、感情から反対するよりも即座に行動するのが重要だからだ。

 ポップ本人は逃げるのには反対だと考えていたのだが、それを口に出さずにまずは全員の安全確保への協力を優先したポップの状況判断力は、確かだ。
 フレイザードの注意がダイにだけ向けられている以上、自覚はないままでもダイが結果的に囮となって戦ってくれている間に、仲間達を逃がすのがこの場では最善なのだから。


 もっとも、ダイは仲間達の動きに目を配る余裕もなく、自分の出来る目一杯の力でフレイザードに攻撃を仕掛けている。落ちていたパプニカのナイフを拾い必死に戦っているものの、実力差は明白で到底勝ち目はない有様だった。

 肩で息をしているダイに、全員を脱出させ終えたマァムは再び逃げる様にと説得している。だが、それに耳も貸さずにダイは無理やり戦おうとしている。
 このダイの頑固さは、レオナへの拘りだけでなく無意識のうちに竜の騎士の本能が働いているようにも思える。

 生命の危機に陥れば自然に竜の血が目覚め、炎結界呪法を無効化した可能性は否定出来ない。
 多少博打的ではあるが、それもまた一つの戦法と言えるだろう。

 だが、マァムは実際的な性格だ。
 ダイの中に眠る未知の力に頼るのではなく、自分の力の及ぶ範囲でもっとも現実的と思える作戦を実行している。

 ダイを背後から殴って気絶させ、力づくで脱出するという方法を選んだ。それにはさすがにフレイザードも驚いていたが、そのまま黙って見逃すほど甘くはない。
 火炎系呪文をしかけようとするフレイザードを見て、マァムは魔弾銃の弾を彼に投げ付けている。

 閃熱呪文が詰まっていたため、フレイザードの呪文に触れた途端に誘爆し、大きなダメージを与えている。自分の持っている魔弾銃の弾の性質や中身を、充分に把握していたマァムだからこそできた作戦だ。

 ヒュンケル戦で仲間の犠牲を味わったせいか、マァムは誰も失いたくないという気持ちが以前より強まっている様に見える。ブラスを人質にされた時に比べ、マァムは迷うことなく思い切った手を打つ踏ん切りを手に入れたと言える。

 ダイとマァムの思考のちぐはぐさ、なによりマァムの独断が目立つが、全員生存を目標とした撤退としては見事なものだ。

 

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