43 マトリフの修行(1) |
マァムの機転と判断により、辛うじてフレイザードから逃げることに成功した勇者一行。 正直な話、これは当たり前の展開だろう。フレイザードにしてみれば、せっかく結界を張り人質までとって足止めしようとした獲物をむざむざと逃がす理由がない。飛行能力を持った配下がいるなら、追っ手が来ない方がおかしい。 その点で、この時もポップは油断しきっている。 戦いの場では頼りなかった彼女のこの反応の早さの裏には、パプニカ襲撃の経験があるのではないかと思える。直接話には出てこないものの、レオナは三賢者と共に城を落ち延びたと説明されている。つまり、追っ手を迎撃しながら逃げ切った経験がエイミにはあると推測されるのだ。そのせいか、この場のエイミはずいぶんと頼もしい。 それとは逆に、この時のポップは頼りないにも程がある。 ここでマァムが動いていないのは、魔弾銃の中身の問題ではないかと思っている。マァム本人は攻撃魔法は一切使えないので、魔法でしか対処出来ない自体には弱いのである。 バダックが必死に気球船を操っているものの、敵の攻撃の前に大渦に落ちそうになってしまう。……ところでここで一つ疑問なのだが、フレイム達が受けた命令は『そいつらを落とせ。島から出すな』なのだが、どうもこのフレイム達は深く考えずに盲目的に命令に従っているように思える。 この時点で、すでに勇者一行の乗った気球船は明らかに島からは脱している。 大渦に気球船が落ちそうになった時、パプニカ海岸側の岩山がずれるように横に動き、中から杖が差し出され凄まじい魔法を放つ。 魔法の援護によりなんとか浅瀬に落ちた勇者一行は、とりあえず助けてくれた人がいると思われる洞窟へと向かう。そこで彼がアバンの仲間であり、凄腕の魔法使いであるとマァムやバダックの証言で判明するわけだが、マトリフはかなりのスケベであり同時に偏屈者だ。 エイミやバダックが礼儀をつくし、必死に救援を頼んでいるのにあっさりと断っている。 パプニカ王国の紋章を大きく掲げた気球船が、王国に深く関わるものだとマトリフに分からないわけがない。なにしろ彼は過去にパプニカ王国に仕えていたのだ、自国の紋章も知らないはずがない。 手を出せば王国の者と関わるのが分かっていても、やはり目の前で人が死ぬのを見捨てられず手助けをした――だが、自分が先頭に立って人を救う程の積極性はマトリフにはないのだ。 それに、ここが最大の問題なのだが、エイミにしろマァムやバダックにしろマトリフの名や実績に縋り、全面的に頼ることを前提にした救援を求めている。だが、自力で戦うことを考えるより先に、他人に頼ればいいと考える者に手を貸すのは、双方にとって益になるまい。 これも後半で明らかになるが、マトリフは自分の意思で行動する者に対しては助力を惜しまない。単に助けを求めるだけでなく、自分の力でなんとかしようと頑張っている者に対してなら、彼は手を差し伸べてもよいと考えている。 マトリフがここで断ったのは、駆け引きの意味が大きいだろう。 そんな人間ばかりじゃないと強く主張するダイにアバンの面影を感じたマトリフは、一行への助力を思い直したのだから。 ダイはエイミと同じように力を貸してほしいと頼んでいるが、彼女と大きく違うのは自分自身が戦うという意思を強く前に出して宣言している点だ。そのやる気が、マトリフの心を変えたといっていい。 その際、素直に助けを約束するのではなく『……話してみろ……』といっている点が、マトリフらしいと言うべきか。まず、状況を確認しようとする実際性と、見通しの出来ない時には確約しない慎重さが、彼の思考能力の高さを表している。
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