44 マトリフの修行(2) |
一行に協力をすると決めた際、マトリフはダイ達は車座になって話し合っている。目立ちにくいシーンだが、マトリフの協力姿勢や周囲への配慮が見て取れるシーンだ。 マトリフの知識の高さや実力を考えれば、彼が教えを授ける形の配置でもよかったはずだ。だが、マトリフは一行を導く立場としてではなく、あくまで対等な立場での協力者という姿勢でダイ達に接している。 また、彼は戦闘員と非戦闘員の区別のつけ方がしっかりしている。 だが、戦闘の主力となるダイ、ポップ、マァム、エイミ、バダックの5人は話し合いに参加している。マァムやエイミの治療能力の高さや本人達の資質を思えば手当てを優先したがりそうなものだが、マトリフは優先順位を間違えない。
ここでちょっと注目したいのが、ポップの座っている位置だ。 言うまでもなく、真正面にいる人間というのは注目しやすい。 本来なら、戦いの場で作戦を立てる際、魔法使いは立案の中心となるべき存在だ。 この時、マトリフのあげた作戦――二つの塔の外側を回り込んで近付き、爆弾で破壊するという作戦にダイ達は全面に賛成しているが、その中でポップだけがえらく気楽な反対意見をあげている。爆弾なんかなくても呪文で吹き飛ばすなどといってのけるお気楽さは呆れたものだが、その発言でマトリフが彼に注目したのは間違いがないだろう。 魔法の才能や潜在能力について、他者が感じ取れるかどうかについては原作では触れられていないので、ここはマトリフが目を留めたのが彼の性格の方だと仮定して話を進めたい。 自分自身も魔法使いであるマトリフは、集団戦闘における魔法使いの役割や効果を熟知している。 勇敢に敵に突っ込んでいく戦士だけでは戦果は上がっても、犠牲も大きい。後方で状況分析をきちんとはたして戦況に合わせて作戦を変えていく参謀がいれば、全員の生存率が格段に上がるのである。 だが、どうみても子供なダイ、よくも悪くも真っ直ぐな性格のマァムには参謀の役割を求めるのには無理がある。職業的にもポップが兼任するのが妥当なところだが、この頃のポップにそんな思慮深さなどまるっきり見られない。 と言うよりも、ついさっき敵の恐ろしさを知っただろうに平気で大口を叩くような考えの軽さに加え、この調子のよさ……マトリフが呆れるのも無理はあるまい。 ポップへの修行の申し出は、ポップ本人の生存のためにも、また一行全体の生存率を上げるためにも、一番効率的な者を鍛えてやろうと考えたマトリフの親切心と言える。……実際に修行を受けたポップには、とてもそうは思えなかっただろうが(笑) ポップの修行に当たって、マトリフは瞬間移動呪文で彼をネイル村へ連れていっている。 単に修行するために場所を必要だというなら、マトリフの洞窟の周囲に幾らでも場所はある。なにせ、マトリフの洞窟の目の前には海があるのだ、水中での修行にも事を欠かない。だが、それなのにわざわざ遠方に飛んで見せたのは、ポップに魔法の力で一瞬で移動することができるのだと理解させるためだ。 その場合、全く見知らぬ場所へ移動させたのでは効果が薄い。 あの状況で細かい旅の話までする暇があったとは思えないから、ネイル村出身のマァムと一緒に来たからには、ポップもそこを知っているとマトリフは推理したに違いない。
だが、敢えて知り合いが近くにいる森へと連れて行った辺りが、マトリフの優しさというべきだろう。……魔物が山のようにうろついている場所ではあるのだが(笑) その際、マトリフは仲間であるレイラにマァムの無事を告げることも忘れていない。傍若無人さとスケベな発言が目立つせいで見過ごされがちだが、彼の気配りな一面が伺えるエピソードだ。
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