46 ダイとマァムの修行

 

 ポップがマトリフの修行を受けている間、ダイもまた自主特訓に励む。目隠しをしたまま、洞窟内で武器を持ったマァムと打ち合い続ける実践形式の稽古だ。
 この修行は、マトリフの指示により行われている。

 この特訓の主旨は明白で、ダイにアバンの最大の奥義、アバンストラッシュを会得させるための布石だろう。

 マトリフ自身は剣を使える描写はないが、アバンの仲間だっただけに彼の技についての知識もある上、ダイ達から今までの戦況や戦力を聞いたのであればダイに欠けているものがなになのか、すぐに理解した。

 空の技を身に付けさせるため、目を封じて気配だけで敵の攻撃を読ませるための稽古が最適だと判断したマトリフは、マァムをダイの相手に選んでいる。
 この選択は、妥当なものだろう。

 なにしろパプニカ残党のほとんどは僧侶系の職業であり、しかも重傷を負っているものが多い。ダイの剣の稽古の相手としては、もの足りない。その点、マァムならばそこそこ攻撃力もあり、なおかつ回復魔法も使えるだけにいざとなれば治療もできる。

 この組み合いの特訓はあくまでダイに対する特訓であり、マァムはそれにつきあっているだけだ。
 その証拠に、ダイが手にしているのは武器ではなく、ただの木の棒である。

 相手を攻撃するのが目的なのではなく、見えない相手の動きをいかに察知できるようになるかに眼目が置かれた修行だからだろう。

 つまり、どんなに熱心にこの特訓に付き合ったところで、マァムの力のパワーアップには繋がりにくいのだが、彼女はそれに不満を感じる様子もなくダイのサポートに専念している。

 唯一の難点は、優しすぎるマァムがダイに手加減をする可能性だ。実際にマァムはダイの身体を気遣って、途中で特訓を取りやめるようにと申し出ている。
 だが、レオナ奪還に燃えるダイは、自分から望んで特訓を続けている。

 ダイのこのやる気は見事なもので、これほどのやる気があるなら自主特訓で充分に効果がでる。……しっかりと見張っていて、なおかつ厳しく説教した上でギリギリまで追い詰めなければ特訓さえする気にならなかったポップとは、えらい違いである(笑)

 会ってから間もないのに、ダイとポップ、それぞれの性格を見切って、それぞれに相応しい特訓を与えたマトリフの慧眼には感服する。
 ついでにいうのなら、二人が特訓している場所にも注目したい。

 マァムとダイは、洞窟の中で稽古を行っている。
 しかし、いかにマトリフの洞窟が意外と広いとはいえ、すぐ近くに怪我人が寝ている場所で剣の稽古をするだなんて迷惑な話である。洞窟の外には広い砂浜が幾らでもあるのだし、そちらで修行させた方がいいように思える。

 だが、目的を思えば洞窟の中で行った方が、効果は高いのだ。
 一言で気配を感じるというが、実際には人間は五感を使用して周囲の情報を得ようとするものだ。特に視覚は人間の感覚の中では、最も上位に位置する感覚だ。

 目が見えていれば大抵の状況判断に対してことが足りてしまうため、同時に五感を使用した場合、他の感覚が多少鈍る傾向がある。
 そのため、集中する際にわざと目を封じるのは、有効な五感の鍛え方だ。

 目を開けて音楽を聞いているのと、目を閉じて聞くのとでは、視覚からの情報が遮断される後者の方がより聴覚を強く感じることができる。目隠しをしたダイも、最初は人の気配という漠然としたものではなく、彼女が立てる槍をふるう音や足音などの物音が、最大の情報として感じ取れただろう。

 そこで問題となるのが、砂浜の特質だ。
 砂は音を吸収する性質を持ち、踏んでも足音が立ちにくい。しかも波打ち際は波の音や海鳥の声など、余計な雑音が聞こえやすい場所だ。

 長期計画としての修行ならばそれでもいいかもしれないが、短期間でダイに気配を察知できる術を獲得するためには、いささか難度が高い。
 手っ取り早くダイにコツを身に付けさせるためにも、音がよく聞こえ、なおかつ外部からの雑音が聞こえにくい洞窟内で特訓させるのは理に適っている。

 さらに言うのなら、敵の目を気にしているのも理由の一つだろう。
 フレイザードからの呼び掛けにダイが洞窟から飛び出しそうになった時、マトリフはそれを押しとどめている。

 無差別の呼び声をかけてくる時点で、敵が自分達の居場所を掴んでいないのは明白なのだから、余計な情報を与える必要はないと用心する当たりがさすがだ。


《おまけ♪》


 さて、本筋にはあまり関係なのだが、ここでダイ大の名脇役の一人、自称パプニカ一の剣豪にしてパプニカ一の発明王、バダックの作成した爆弾に対して検証してみたい。
 彼が自称している程の実力はないのではないかというのは、素直さではトップクラスのダイやマァムですら感じている疑問である(笑)

 実際に戦闘シーンでもさして活躍はしていないし、発明王と言える程の実力があるかどうかも大いに疑問を感じるのだが、ここで問題にしたいのは彼の才能についてではなく、彼が作ったとされている爆弾である。

 炎魔塔と氷魔塔を壊すために、爆弾が必要だと言ったのはマトリフである。
 それに応じて、バダックが爆弾作りなら任せてほしいと申し出ている。それに対して、マトリフは材料はその辺に転がっているから適当に使ってくれと部屋の一角を指差している。

 しかも、そうやって作らせた爆弾を、マトリフは一目見ただけで『ボツ! デザインがださい!!』とけなしている。
 そのくせ、結局は戦いに行くダイ達にその爆弾を持たせている……このエピソードは、大魔道士マトリフのわがままさやいい加減さを際立たせるエピソードといった印象がある。
 だがこのエピソードはちょっと見方を変えると、ガラリと印象が変わるキャラクターがいるのである。

 ここで、マトリフの洞窟のシーンをよく見直してもらいたい。
 それがまあ、凄まじいと言うべきか、巻き物はいいとしても人間以外の生き物のしゃれこうべだの、トカゲやコウモリ、ネズミやトリを干したものや、怪物の入った瓶詰、髑髏マークのついた瓶が数本など、怪しげなものばかりが並んでいる。

 だが、よくよく見てみると雑多な品の中には爆弾が二つ、最初から存在しているのである!
 導火線がやや長めであると言う差はあるが、この爆弾はバダックが『作った』とされる爆弾と同じ形であり、大きさも数も一致している。

 まさかとは思うのだが――バダックはマトリフの爆弾に、上から適当に張り紙を張ってそれっぽく見せ、導火線を短くしただけで『作った』と言い張っているのではないかとの疑問が拭いされない。そうだとすれば、爆弾を一目見ただけでマトリフが文句を言ったのも頷けるというものだ。

 しかも、文句を言った割にはマトリフは結局その爆弾をそのまま彼らに持たせている。中身が自分の作成した爆弾と分かっていれば、見た目がどうだろうと威力は問題がないわけだ。

 さて、いい加減なのはマトリフなのか、あるいはバダックなのか――解釈次第で両者の評価が逆転し合う面白いエピソードである。

 

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