51 炎魔塔の破壊(3)

 

 ダイは身動きも出来ず、バダックはザボエラの呪文のせいで死の寸前に追い詰められている時、彼らは強烈な爆音を聞いている。
 何が起こったか分からずに戸惑うダイに、ザボエラはそれがハドラーの最強呪文……極大閃熱呪文(ベギラゴン)だと見抜き、そう教えている。

 ところでこの戦いの最中、ザボエラはダイの疑問に答える形でいちいちその度に蘊蓄を披露している。

 相手に自分達の恐ろしさを見せつけることにより威嚇する目的がメインと思えるが、教えたところで対して特に意味が無いようなことまで教えているので、結構語りたがりというか、ザボエラは自分の知識をひけらかすのを好むようである。

 余談だが、彼のこの癖は息子のザムザにもしっかりと受け継がれている。変なところで親子の繋がりを感じさせるものである。

 ポップ達のピンチを悟ったダイはなんとか闘魔傀儡掌を振り切ろうとするが、ミストバーンの術の前には手も足も出ない。
 絶体絶命のダイ達を救ってくれたのは、ゴメちゃんだ。

 彼がミストバーンの顔に突進のをきっかけに術が破れ、ダイは身体の自由を取り戻している。ところでこの時のゴメちゃんが『神の涙』としての力を使ったのか、あるいはゴメちゃん本来のスライムとしての行動だったのかは明らかにされていない。

 しかし、基本的にゴメちゃんが奇蹟の力を発揮する際は、その身体が発光するという描写があるので、ここはスライムとしての勇気のおかげだと信じたい。
 ミストバーンの放つ電撃じみた魔法にダメージを受けたのか、ゴメちゃんはすぐにぽとんと地面に落とされてしまうが、彼の行動には大きな意味があった。

 自由になった途端、ダイは即座にミストバーンの間合いから離れている。この時のダイの判断は素早く、正確だ。

 妖魔士が襲ってくるのを見て、ダイはまず彼を蹴飛ばして吹っ飛ばし、その背後にいたザボエラまでダメージを与えている。その衝突でザボエラは集中を乱し、ザラキの呪文は中断されたバダックは助かった。そのバダックに声をかけた時、ダイはすでに剣を拾っている。

 闘魔傀儡掌をかけられた瞬間にダイは剣を取り落としているのだが、再び戦うために剣は必須と考えたのだろう。しかし、バダックを助けるのは剣を拾うよりも優先した方がいいと判断したダイの咄嗟の機転には惚れ惚れするぐらいだ。

 だが、ピンチは切り抜けたとはいえ、まだまだダイ達の劣勢は続く。
 ゴメちゃんやバダックをかばう様に剣を構えるダイの前に、妖魔士と彷徨う鎧の軍勢が勢揃いし、ザボエラの号令で攻撃準備を整えている。
 この時のダイの台詞が、印象的だ。

『ゴメちゃん……バダックさん……、もしかしたらおれ一人の力じゃ、みんなを守りきれないかもしれない……。そしたら……ゴメンね……!!』

 この台詞には、ダイの責任感の強さと素直さがよく現れている。
 ゴメちゃんにしろ、バダックにしろ、彼らは自分の意思で志願してこの戦いに参加した。つまり、彼らが戦いでどうなろうとも自分の意思の結果であり、自分の責任だ。本来なら、ダイがそれを気に病む必要はない。

 だが、ダイはみんなを守るのが自分の――というよりも、勇者の役目だと考えている。
 そして役目という以上に、ダイはみんなを守りたいのである。だからこそそのために全力を尽くすのだが、ダイは自分の力の限界もちゃんと見切っている。本人が意識しているかどうかは微妙だが、ダイは相手の実力を察する力に長けている。

 自分や敵の実力を客観的に判断する冷静さを、生まれながらに身に備えているといっていいかも知れない。しかし、本人が経験や知識によって築き上げた冷静さではないため、実際に敵と相対する実戦の中でなければ発揮出来ないのがなによりの弱点だ。

 ダイは、予め作戦を練るのは不得手だ。
 戦場では本能的な鋭さで瞬間的に冷静な判断が行えるとしても、作戦実行前に敵の戦力を頭の中で分析して、味方の力がこれだけでは勝ち目はない、と冷静に計算するのは無理なのである。言わば、完全実戦タイプの人間だ。

 だからこそダイには、ゴメちゃん達の安全を考えるのなら本人達が嫌がってでもおいてきた方がよかった、とは思い付かなかった。
 しかし、ゴメちゃんもバダックもダイを責めず、運命を共にしようと覚悟を固めている。


 そんな覚悟を決めた三人(正確には、二人と一匹)に向かって、ザボエラが突撃の号令をかけた瞬間、彼らの上に黒い影が差す。
 その直後大岩が降ってきて、妖魔士団を押し潰す。

 それを実行したのは、獣王クロコダインだ。これより長きに亘ってダイ達の心強い味方になってくれる彼の、華麗なる復活シーンである。
 クロコダインの登場をダイは歓喜して、ザボエラは驚いて見つめている。

 ザボエラは、利用価値がなくなったと考えるものに対しては非常にシビアだ。クロコダイン戦で彼が敗北して以来、ザボエラはクロコダインにはさしたる関心を見せないままだった。

 ハドラーはヒュンケルにクロコダインが行方不明になったことが行く先は知らないかと尋ねているが、ザボエラはそんなことは聞きさえしていない。というよりも、クロコダインが何を考え、どう動くかなどまるっきり気にさえしていないのだ。
 一時は手を組んだとは思えない冷遇っぷりである。

 ザボエラにしてみれば、魔王軍を裏切ってダイ達につくという発想自体が有り得ないものだったらしくひどく仰天している。
 ところでザボエラはひどく感情的な性格だが、彼は特に強靭な戦士に対してある種のコンプレックスを持っているのではないかと筆者は疑っている。

 クロコダインの些細な言葉に対して過敏に反応し、部下達に彼を抹殺を命じた辺りにザボエラのヒステリックさが現れている。

 実は、ここでクロコダイン抹殺を優先しなければならない理由など、一つもない。裏切り者の処分はザボエラの仕事ではないし、そもそもダイを抹殺することこそが今回の作戦の第一前提だ。

 それを後回しにしてまでクロコダインを殺そうと考える辺り、ザボエラは戦場における優先順位がなっていない。……やはり、彼の軍師としての才能には疑いを感じずにはいられない。

 ところでそれとは逆に、クロコダインの戦いっぷりは見事だ。
 彼は真っ先にザボエラを――この場において指揮をしているリーダーを狙って行動している。集団戦闘において真っ先に司令塔を潰すのは、基本中の基本だ。ましてや少人数で大多数と戦うのならば、なおさらである。

 豪快な戦士としての印象が強いクロコダインだが、彼の戦闘プランは定石に則った手堅いものであり、それだけに手強いと言える。

 

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