52 炎魔塔の破壊(4)

 

 クロコダインとの再会に大喜びしたダイは、すぐに危機に瀕しているはずのポップとマァムのことを心配しているが、クロコダインはその不安をすぐに取り除いてくれた。
 ヒュンケルが助っ人に向かっていることを告げると同時に、氷魔塔が砕ける音が響き渡る。

 ダイ達が二手に分かれて炎魔塔と氷魔塔を破壊する作戦を立てたのと同様に、クロコダインとヒュンケルも同じ計画を立てていたのだと分かるシーンだ。しかも、時間的タイミングまで計算していた辺り、どうみてもクロコダイン組の方が作戦そのものも実行能力も高い。

 ところでダイは不思議にも思っていない様だが、ヒュンケルもクロコダインも情報にやたらと詳しい。
 ダイ達と合流する前から、ダイ達の目的が中央塔にあることを二人とも最初から知っていた理由が疑問だったが、少し考えれば簡単に氷解する疑問だった。

 思えば、フレイザードは堂々と自分がレオナ姫を人質にバルジ島で待っていると広範囲に宣伝しているのである(笑) それを聞いたヒュンケルとクロコダインは、ダイ達を探しすよりもバルジ島での合流を狙った方がいいと判断したのだろう。

 元軍団長の二人ならばフレイザードの必勝の戦法は承知しているだろうし、総攻撃の可能性も最初から考慮に入っていたに違いない。

 それにミストバーンが実力を隠した得体の知れない相手であることも、ザボエラが卑劣で勝利のためならばどんな手でも使ってくることも、クロコダインは知っていた。だが、知った上で彼はダイに先に中央塔に行く様にと促し、後を引き受けている。

 ここで注目すべきは、バダックとクロコダインのコンビ(?)結成のシーンだ。
 バダックは最初、クロコダインをみて大きな怪物だと驚いている。だが、ダイが無邪気に彼に抱き付くのを見て、警戒に当たらない相手だと判断した。兵士の資質には大いに疑問や問題のあるバダックだが、彼の人を見る目の柔軟性は特筆すべきものだ。

 まだ子供にすぎないダイやポップをきちんと勇者一行と認めてくれたように、バダックは人間に味方をしてくれる怪物を素直に信じることができる。

 バダックとゴメちゃんはダイの後をついていかず、クロコダインと共にこの場にとどまるのだが、その後の戦いはクロコダインの独り舞台といって言い。豪腕で大斧を振り回し、ばっさばっさと敵を切り捨てるクロコダインを止められる者などいない。

 不利を悟ったザボエラは、塔にこれ以上近付けるなと部下に指示を出しているが、この指示はどうしようもないぐらい手遅れである。
 妖魔士達が魔法で牽制しようとしているのを見て、クロコダインはバダックに伏せる様に告げ、獣王痛恨撃の大技を放って塔を破壊している。

 クロコダインが遠間からの破壊に向くこの技を持っていることを知っているのなら、ザボエラは完全に指示を間違えているとしか言い様がない。

 むしろ、クロコダインに間合いを与えない様に連続して攻撃を仕掛けさせた方が、まだマシだったと言うものだ。部下の消耗などどうせ気にしないのだから、塔を壊させないのを最優先に作戦を組み立てるべきだった。

 軍師とは大局的に物事を判断し、戦況を自軍の有利になる様へと導く存在だ。
 それが、自分の感情次第でコロコロと命令を変えるとは……間違ってもザボエラの下で働きたくはないものである(笑)

 それはさておき、クロコダインの必殺技の後のバダックの反応は実に素直だ。技の威力に驚きながらも恐れる様子もなく、痛恨撃という名前が物騒だから改名したらどうかと進めている。この気さくな人当たりのよさは、クロコダインにとっては嬉しいものだったようだ。

 クロコダインはダイ達をきっかけに人間を見直したからこそ、彼らに手を貸そうと決めた。つまり、ダイ達個人に対する好意的な感情から、結果的に人間への味方をする立場になったのである。

 だが、バダックと早いうちに出会ったことで、クロコダインは人間そのものに対する見方が大きく変わったはずだ。ダイやポップ達だけが特別なのではなく、人間という種族そのものを受け入れられるようになった意味は大きい。

 改心したとはいえ、人間に自分は受け入れられないだろうと決め付け、自ら心を狭めてしまっているヒュンケルと違い、クロコダインは怪物である自分でも受け入れてくれる人間がいるのだと実感した。そして、クロコダインの素晴らしい点は、受け入れられるだけでなく自分もまた、相手を受け入れた点だ。

 バダックの提案をクロコダインは快諾し、礼を言っている。
 技だけに限らないが、自分の創作物にこだわりを持つのは当然だ。

 自分のものに対して愛着を持ち、他人から見ればそこまでこだわらなくてもと思う程、やたらと変にこだわってしまう人間は少なくはないが、クロコダインはその辺り実におおらかだ。

 相手が自分を認めてくれたから、自分も相手を認める  簡単そうで、なかなかできることではない。ましてや、実力差がかけ離れている異種族ならばなおのことだ。だが、ごく短い間にクロコダインとバダックは打ち解け、互いを仲間と認め合っていると言える。
 その後、クロコダインはバダック達の手を借りるまでもなくその場にいた軍団を片付け、ザボエラとも戦っている。
 だが、これを戦いといっていいものかどうか。

 ザボエラを発見したクロコダインは、そこを動くなと怒鳴りつけて駆け寄っているが――どう考えてもこんな風に追われれば普通は逃げるだろう(笑)
 ザボエラは逃げながら言い訳をしようとしているが、クロコダインは斧を投げ付けて彼を仕留めている。

 唯一の武器を手放すなど思い切ったことをするものだが、クロコダインは素手であっても獣王会心撃が放てる。ザボエラを倒すことをなにより優先した決意の表れ、と取ることが出来るだろう。

 だが、ここはクロコダインはもう少し冷静になってザボエラと会話をするべきだった。ザボエラは平気で嘘をつくためそれを警戒したせいかもしれないが、問答無用で攻撃した結果はあまり芳しくはなかった。

 クロコダインが攻撃した途端、ザボエラの姿は変化して妖魔士に変わってしまう。
 モシャスで騙されたと気がついたクロコダインに、わざわざ種明かしをしたのはザボエラ本人である。

 クロコダインの攻撃がまず届かない様な上空にわざわざ浮かび上がり、言いたいことだけを言って瞬間移動呪文で素早く逃げてしまったザボエラは実にセコいとしか言い様がない。

 全滅を避けるため、指導者だけは逃がそうと部下を犠牲にする手段は、倫理的にはともかくとして戦術としては正統だ。だが、自分が逃げる時間を稼ぐために部下を身代わりにするならまだしも、ザボエラは単独でも逃げる力は十分に持っている。

 クロコダインが気がつかない内に乱戦から抜け出してトベルーラで宙に受けるのであれば、そのまま瞬間移動呪文を唱えることが出来なかったとは思えない。
 つまり、ザボエラの目的は逃走ではなかったということだ。

 自分を驚かせたクロコダインに一泡吹かせ、自分の知恵を見せつけてやりたい――そんな低次元としか呼べない個人的な思惑で、ザボエラは部下に自分の身代わりをやらせている。

 これはやった時だけは自尊心も満たされ満足するかもしれないが、無意味にクロコダインを挑発して警戒心を呼び起こさせるだけであり、長期的に見ればザボエラ自身の危険度を増やしているだけだ。

 負け戦からは、迅速に撤退するのが軍師の基本である。その意味で、いつの間にか消えていたミストバーンの方が正しいが……逆転の一手を持っている彼の場合は、逃げる前にもう少し本気を出して奮闘してもよかったような気がしてならない。

 

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