65 ダイvsフレイザード戦2 (4)

 

 弾丸爆花散――自らの身体を無数の岩に変化させ、それを連続的に敵に叩き付けるフレイザードの最終闘法は常識を裏切る厄介な技だ。
 普通の石礫ならば、一度投げられた後には警戒するには及ばない。

 投げられた勢いを無くせば、石礫は落下するだけのことだ。物理学上の法則に従い、物体は別の物体に一度ぶつかればエネルギーを使い果たして無力化する。
 だが、弾丸爆花散に関してはそうはいかない。

 何かに当たった後も勢いが減じることがないし、フレイザードの意志に従って自由自在に飛び回る。
 たかが石とはいえ、侮ることはできまい。

 なにしろ、人類最古の武器は石ころだ。
 鉄砲が本格化する時代になる前までは、戦争において石は常に重要な役割を果たしている。中世の戦争の記録を紐解いてみると、攻城戦、海戦などで石礫を武器として積極的に活用している例は多い。

 いくらでも簡単に調達できる上、十分な殺傷能力や破壊能力を持つ石礫は、遠い間合いにいる敵に対しては絶好の攻撃手段だったのである。
 ただし、石礫は腕力だけで攻撃しても威力が弱いため、石を投げるための補助的な武器や機械を併用して使われることが多く、その作動に時間や手間が掛かるのが欠点だった。


 だが、弾丸爆花散には石礫特有の致命的欠点はない。
 フレイザードの意志により自在に飛び回る石礫は、準備もためも必要なく即座に攻撃を開始できる。しかも、数や方向まで自在にコントロールできるときている。

 普通の石礫と違っていつまでも勢いの減らない石の攻撃に業を煮やし、クロコダインはマァムを後ろに庇いながら斧を振るって石礫に反撃しているが、これは無意味にもほどのある攻撃だった。

 クロコダインの豪腕から繰り出される斧の風圧に押され、押し返されたように見えた石礫だったが、空中で一度動きを止めたそれらは、次の瞬間クロコダインへの集中攻撃をしかけている。

 巨体に見合った体力や防御力を持つクロコダインを倒しているのだから、弾丸爆花散の威力はたいしたものだ。

 物理的に壊すのは不可能と考えたポップは氷系呪文で凍らせようと考えるが、彼が呪文を放つと同時に氷の岩が素早く集まって盾となる。氷系の岩に氷系呪文をぶつけても全く効果はなく、そのエネルギーを吸収して逆にポップに襲いかかっている。

 氷の石礫を連続的に受けたポップは半ば凍りついて倒れているので、フレイザードは自分の身体である石のエネルギーの放出も自由にできるようだ。
 ポップが倒されたのを見て、ダイは剣を構えてフレイザードに向かっていっている。

 この時、ヒュンケルはクロコダインの二の舞いになるとダイを止めているが、怒りに駆られたダイは戦うことしか考えていない。
 良くも悪くも、ダイはまず感情が先に動くタイプである。戦況を冷静に読み勝率を計算して動くのではなく、感情と本能のままに直観的に動く傾向がある。

 ダイのその直感が戦いを勝利に導くことも多いが、この時はそれが裏目に出ている。
 大地斬で無数の石礫に切りかかったダイだが、クロコダインと全く同じように風圧で一瞬だけ石を散らすことはできても、次の瞬間集中砲火を浴びてしまっている。まさに、ヒュンケルの忠告通りである。

 しかも、フレイザードはダイに対しては全く容赦がない。
 一度バラバラにした身体を大きな尖った岩へと終結し直し、ダイ目掛けて放っている。だが、あわやというところでフレイザードを受け止め、ダイを庇ったのはヒュンケルである。

 弟弟子を庇ったヒュンケルのこの行動に、彼の成長と改心が現れている。
 もし、フレイザードへの攻撃を優先したいと考えるのなら、ヒュンケルはここで大岩に攻撃を打ち込めば良かった。

 彼はフレイザードに生命の源……核があることを知っていたのだし、無数にバラける石礫を攻撃するよりも、一塊の岩を攻撃する方がよほど効率がいい。
 だが、ヒュンケルは攻撃よりもダイを庇うことを優先している。単に岩を止めるだけでなく砕いてバラバラにしている点からも、それは明らかだ。

 そうまでして、ヒュンケルはダイにフレイザードの弱点と倒し方を教えている。
 ヒュンケルがフレイザードへの攻撃を断念したのは、自分には空裂斬が使いこなせないという諦めがあることは否めないだろう。アバンを倒すことを長年に渡って念願とし、修行を重ねていたヒュンケルには空裂斬の特徴やその習得の困難さを理解できていた。

 だからこそ自分よりもダイの方が空裂斬に近いと考え、ダイに全てを託そうと考えたのだろう。
 その結果、ヒュンケルはダイを守って情報を伝えるのと引き換えにフレイザードの集中攻撃を浴びて倒れることになるが、彼は自分の選択を悔いてはいないだろう。

 この後、ダイが苦戦しながらもフレイザードと戦い、アバンの技を極めようとしているのを応援し、力も貸している。

 自分の身を守ることよりも目的最優先な思考は相変わらずだが、ヒュンケルに自分以外の者を信頼する心というものが芽生えた意味は大きい。
 このフレイザード戦は、ヒュンケルが兄弟子としての自覚を持ち始めた一戦でもある。

 

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