67 ダイvsフレイザード戦2 (6) |
マァムの手を踏みにじるフレイザードに制止の声をかけ、剣に縋りながらも立ち上がったのはダイだった。 ダイはフレイザードが体力を使い果たしかけているように、自分自身も弱っていることを知っている。だが、ダイには不意打ちで敵を倒すという思考がない。 だが、無謀とも思えるこの正々堂々さは、結果的に見ればこれは正解……それも、おそらくは唯一の大正解だった。 むしろ、不意の攻撃が側にいるマァムにまでダメージを与えてしまう危険性がある。 ダイが敵の核をしっかりと見定める力が弱い以上、敵が本気になってダイに向かってきた方がまだ見極めやすいというものだ。 それにこの頃はまだ無自覚とはいえ、ダイは竜の騎士だ。戦いに置いて追い込まれた状況になればなるほど本能が目覚めることを考えれば、背水の陣を引いた方が戦闘力の増加が望める。 そう決意したダイを、フレイザードはこけおどしだと決めつけている。 策略を好み、勝利のために手段を選ばないと広言しているにも関わらず、フレイザードはこの時、ダイの勝負に対して真っ向から迎え撃っている。人質に最適なマァムやその他の連中への攻撃より、自分自身の最強攻撃でダイと戦うことを選んだフレイザードは、やはり根本は戦士なのだろう。 ハドラーがそうであったようにフレイザードもまた、戦いによる勝利を至上のものと考える傾向があるようだ。 この時のフレイザードの猛攻はダイ一人に集中している分、これまで以上に激しいものであり、ダイが身に付けていた防具を壊し、吹き飛ばす威力があった。だが、ダイは避けもせずにフレイザードの攻撃に耐え、攻撃が止んでフレイザードがまた身体を取り戻した時を狙って攻撃を仕掛けている。 この時、ダイが使ったのがアバン流刀殺法の奥義、空裂斬である。 授業風景全編に言えることだが、勉強嫌いの割にはダイはアバンの講義を非常に真面目に聞いている。ポップなどは魔法の授業の時は目を閉じてあくびをしているし、剣の理論講義の時は「自分は魔法使いだから関係ない」と最初から決め付け、ろくすっぽ聞いていないのだが(笑) やる気がないととことん怠けるタイプのポップと違い、ダイは真面目であり、不得手なことでも頑張ろうと言う気概がある。 しかもダイは、自分が納得できない疑問を放置できないタイプだ。アバンの授業に対して、ダイは適当に聞き流さず、質問をしてまでちゃんと物事を理解しようとして頑張っている。 習った部分をきちんと納得できてからでないと、前には進めない……この手のタイプは、どうしても勉強習得の要領が悪くなる。数学の公式や虚数のように、その理屈を完全に理解できなかったとしても丸暗記にして活用すれば楽だという小技類が、一切使用できないからだ。 また、勉強をする際は分からない部分は飛ばしておいて先に進む、というのも一つの手だが、ダイのように一歩一歩進もうとするタイプだとそれが難しい。真面目さが逆に災いしているとしかいいようがない。 だが、だからと言ってダイの学習能力や意欲が低いとは思えない。 アバンの空裂斬の授業を受けて、ダイは自分なりにポイントを一点にまとめている。講義の中から要点だけを抜き出し、空裂斬とは邪悪を断つ剣だと解釈したダイは、本筋を理解する目に恵まれている。 ダイは基本的に、物事の大筋を見極めてからそれが実際に役に立つかどうかを重視するという思考を持っている。 ダイは原作の最後まで難しい字を読めないままだったが、「字を読めること=役立つこと」と解釈できなかったのが一番の原因だろう。 きちんと目的を意識した上で、理論よりも実際的な効果を重視する授業の機会を与えられたのなら、ダイの学力は飛躍的に上昇した可能性があるのではないかと思える。……まあ、勉強の進歩は予想通りには進まないのは常なので、そうはならない可能性も否定はできないが(笑) 勉強方針はさておくとして空裂斬に失敗したかと思われるダイだが、かすかにかすっていたのかフレイザードにダメージを与えている。 体力に恵まれているダイは、苦手な分野で考え続けるよりもとにかく行動した方が勝率が高いと判断したのだろうが、この判断はかなりの博打だ。 フレイザードはダイの空裂斬が効果がないと考えていた時は、自分の身体をまとめて五指爆裂弾でダイにとどめを刺そうとしている。 他のメンバーが全員倒れ、ダイ自身もダメージを受けているのなら、自分自身の身体に負担のかかる弾丸爆花散をしかけるよりも、自分自身へのダメージが少なく確実に相手を殺すことのできる技の方がいいと判断してのことだろう。 だが、ダイの技が自分に対してダメージを与えているという事実を認識した途端、フレイザードは再び弾丸爆花散主体の攻撃に戻した。 もっとも、弾丸爆花散はフレイザードの体力そのものを削るので、ダイを倒す前に彼が自滅する可能性は大いに有り得た。 その意味では、フレイザードにとっても大博打だったのは間違いない。どちらの体力が持つかという持久戦になるはずだったこの両者の大博打は、第三者の介入で大きくその結末を変えるのである。
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