71 ダイvsフレイザード戦2 (9)

 

 鎧に覆われた新しい身体を手に入れたフレイザード――アーマードフレイザードへと進化したフレイザードは、最初、自分の中に込み上げる力に歓喜している。
 その際、彼がその力を振るう最初の相手として選んだのが、ちょうどその場に飛び込んできたバダックだった。

 この判断に、彼の冷静なまでの慎重さと感情の高ぶりを抑えきれない残虐性という相反した性質を感じる。
 フレイザード自身が言っていたように、彼はアーマードフレイザードに進化したことで格段にパワーアップしている。

 身体内部から込み上げる力に歓喜しながらも、フレイザードはそれを実際に自分で確かめるまでは、信用しようとしない慎重さを持っている。
 その実験台として、バダックを選んだフレイザードの目は的確だ。

 なにしろ、どう贔屓目見ても彼がこの場で一番戦闘力が低いのは明確だ。戦いのせいでダメージを受けているとはいえ、勇者一行の他のメンバーらはそれなりの攻撃手段を持っていることを考えれば、万一の反撃を食らう可能性もある。

 まずは、一番手近にいる最弱の獲物で自分の力を試してみたい……その意識がフレイザードにはあっただろう。
 逃げも出来ずにその場で蹲るだけのバダックを助けにはいったのは、クロコダインだ。
 フレイザードの拳を受け止めたクロコダインだが、完全に力負けしてしまっている。腕力では六軍団一との自負を持つクロコダインにしてみれば驚きだっただろうが、フレイザードから見れば自分のパワーアップを自覚するにはいい目安になっている。

 この時、フレイザードは力押しでクロコダインを圧倒し、彼の足場を崩して崖下へと落下させている。
 だが、クロコダインやバダックに追い討ちを掛けようという気配が全くない辺り、敵を倒すよりも自分の力や性能を試したいという意識の方が強いようだ。

 その何よりの証拠に、フレイザードはクロコダインやバダックをとどめを刺すよりも、彼らを助けに駆けてきたヒュンケルやポップの方へ向き直っている。
 自分達の方に突進してくるフレイザードを見て、ポップは氷系呪文を放っている。

 さっきまでのようにフレイザードの本体の半分、炎側の方が残っていた時ならばこの攻撃は有効だっただろうが、この時、ポップの魔法はものの見事に弾かれてしまっている。
 この結果を、フレイザードはある程度は予測していた気がしてならない。

 まずはクロコダインを利用して自分自身の力を確かめたフレイザードは、次は自分自身の防御力を確かめたかったのではないだろうか。距離を詰められば魔法を放ってくるのは、魔法使いの常識だ。だからこそ魔法が使えるポップを攻撃目標とし、あわよくば実験をしたかったのではないかと思える。

 魔法を食らったフレイザードはそのまま体当たりを仕掛けているのだが、それをヒュンケルとポップが重なるような形で食らっている。より正確にいうのなら、ヒュンケルがフレイザードの突進をまともにくらい、ポップがその巻き添えになる形で二人まとめて吹っ飛ばされている。

 が、位置関係やポップが魔法を放ったことを考えると、フレイザードが体当たりの目標として狙っていたのはポップの方としか思えない。
 ヒュンケルの方が前にいたとはいえ、ヒュンケルとポップの間にはある程度の余裕があり、左右にばらけているような状態だった。

 だいたいポップが放った氷系呪文は吹雪を直進させる魔法だ、ヒュンケルの真後ろにいたのなら彼の存在が邪魔になり、フレイザードに向かって直接放てるはずがない。
 なのに、攻撃を受ける時はヒュンケルの真後ろにポップがいるような位置関係になっている。

 これは明らかに矛盾している。
 と、なれば考えられるのは二つ……ポップが魔法を放った後、ポップ、もしくはヒュンケルのどちらかが自分の立ち位置を変えた可能性だ。

 筆者は、ここはヒュンケルが移動した説を主張したい。
 フレイザードの狙いがポップだと気がついたヒュンケルが、弟弟子を庇おうとしてわずかにでも自分の立ち位置を変えて攻撃を受け止めようとした。

 その結果、ヒュンケルは鎧が砕けるほどのダメージを食らってしまっているが、これを食らったのが防御力の低いポップの方だったらその場で即死ものだったろう。
 なにせ、ヒュンケルの巻き添えで吹き飛ばされていても、ポップはダメージを免れていないのだから。

 倒れて動けない二人だったが、自分自身の力の確認がメインのためか、この時のフレイザードの攻撃は中途半端なもので彼らにとどめを刺すよりも、浮かれる気持ちの方が強い。
 ところで、ミストバーンに向かってはしゃいで声を掛けながらもフレイザードはこの時、いずれはミストバーンの寝首をかくことを考えている。ザボエラがダニのようにとことん相手にすがりついて利用しつくそうと考えるのとは違い、フレイザードは用済みの相手は消してしまえと考える主義のようだ。

 だが、優先順位をしっかりとつけるのがフレイザードの長所だ。
 この時、フレイザードはダメージを受けた勇者一行や、謎の沈黙を保つミストバーンではなく、ダイへのとどめを優先した。

 まだ目が見えていない状態のダイは、マァムを突き飛ばして彼女の安全を図っている。
 フレイザードの狙いが自分一人だと悟り、攻撃を自分に集中させる意味もあるだろうが、この時、ダイはすでに勝利を確信していたせいもある。

 しかし、マァムはダイにはもう戦う力は無いと判断し、過剰なまでに心配して何度も彼の名前を叫んでいる。
 このシーンだけで無く全般的に言えることだが、マァムは相手の実力や体調を正確に見抜く目に欠けているようだ。

 ヒュンケルやクロコダインが、ダイが目が見えないにもかかわらずちゃんとフレイザードの攻撃を見切って避けているのを見て取っているが、マァムにはそれができていない。
 この辺にも、マァムの戦士への適性の不向きさが出ているような気がする。

 この場合、必要なのは相手の動きを確実に目で追える目よりも、状況をきちんと把握し感情を交えずに正確な判断する精神の方が重要なのだが、マァムの場合この判断力の成長が一際遅いようで、甘さがなかなか改善されない。

 この時、ポップもダイの動きから全てを察するだけの目はないようだが、ヒュンケルの説明という補足を得て、状況を素早く把握している。

 この戦いでは何もしていないという点ではポップとマァムも同じとはいえ、戦いへの理解力、判断力の差は、この先、戦いが厳しくなればなるほど歴然としてくる。二人の成長の差が、早くもこの辺りから現れ始めているのだ。

 だが、先のことはともかく、この時点で最も戦いを見る目に優れているのはヒュンケルだ。
 自分自身もアバンストラッシュに憧れ、習得しようと努力しつつ失敗していただけに、彼はダイの空裂斬の成功の意味を誰よりも先に気づいている。

 その読み通りダイは見事にアバンストラッシュを完成させ、一撃でアーマードフレイザードを粉砕している。頑強な鎧ごと、その内部にいたフレイザードも粉々に砕いたのだから見事というしか無い。

 しかし、全力で戦い抜いたダイはここで力を使い果たし、倒れてしまっている。
 力の配分という点に関しては、どうもダイは加減がしにくいらしい。

 ところで、ここで注目したいのがミストバーンの行動だ。
 もし、ミストバーンの狙いがダイの抹殺にあるのなら、この時こそが最大のチャンスだった。なにしろダイは力を使い果たして倒れ、他のメンバーもダメージを受けて立っているのがやっとという状態なのだ、ミストバーンの攻撃を防ぐ術などなかっただろう。

 だが、ミストバーンはダイとアーマードフレイザードの戦いの最中、ずっと沈黙を保って見物に徹している。一言、口を開いたのはダイが必殺技を叩き込んだ瞬間、「……素晴らしい」と発言したぐらいのものだ。

 明らかに彼の狙いはダイの観察にあるようだ。
 ほんの一塊の炎となりながらも、まだ命を繋いでいたフレイザードが憎まれ口を叩いても平然と言葉を返しているミストバーンだが、命乞いをする彼を踏みにじってとどめを刺し立ち去っている。

 この行動に、ミストバーンの悪意というか、彼の意思を感じる。
 死亡したハドラーに対してさえ蘇生の働きかけができたミストバーンならば、自分の配下となったフレイザードの生死に対して関与できなかったとは思えない。助けたいと望むのであれば、それは可能だっただろう。

 だが、ミストバーンはフレイザードにとどめを刺すという選択肢をわざわざ選んでいる。
 フレイザードに対してほとんど感情を交えずに淡々と接していたものの、ミストバーンは決してフレイザードに好意的な感情を持っておらず、また、始末しても何の問題もない存在として認識していたのだろう。ミストバーンは興味を持たない者に対してはひどく冷淡なようだ。

 ところで、この時、ポップはフレイザードに同情して墓を作ろうかと発言している。
 マァムとは方向性が違うが、ポップも敵に対しての甘さが強い。ただ、マァムと違うのは、彼女が自分の中にある信念……自分なりの正義感に従って敵味方問わずに弱っている他者を助けたいと考えるのではなく、ポップのベースはあくまで自分の感情な点だ。

 ポップは、自分の信念を元に戦っていると言えるわけではない。
 感情的に心を動かされたからこそ、その相手のために何かをしたいと思う――良いにしろ、悪いにしろ、それがポップの行動原理であり、思考のベースになっている。


 この時は、ポップはフレイザードのあまりにも哀れな最後に心を動かされたのだろう。
 だが、ここはヒュンケルや他のメンバーがそうしていた様に、敵の死など構わずに先に進む方が正解だろう。なにしろ、まだ完全に事件が片付いたとは言い切れないのだから。
 ところで、この時のヒュンケルの受け答えが面白い。

『……いらんよ……あれが奴の墓標だ…』

 そっけなく聞こえるが、ヒュンケルはポップの意見に決して反対してはいない。むしろ、彼の意見を肯定した上で、その必要はないと言っているのだ。ぶっきらぼうな様に見えて、ヒュンケルは意外なぐらい兄弟弟子に対して優しい面がある。ただ、態度が素っ気なさすぎて目立たないのだが(笑)

 ポップがフレイザードの唯一の名残である暴魔のメダルを見つめるカットを最後に、フレイザードとの戦いは終わりを告げる。

 個人的には好きなキャラクターなだけに、残念だ。
 もし、ここでフレイザードが勝ち残っていたのなら、せめて後になんらかの形で復活を遂げていたのであれば、ミストバーンだけでなくかつての主君だったはずのハドラーへの反旗を翻した可能性もあったと思えるだけに、それを見れなかったのが心残りである。

 

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