79 魔王軍の情勢(7) |
さて、ここで魔王軍の動きの方に目を向けてみたい。 この時、バランは配下のドラゴンを暴れさせ、自分はどっしりと陣地らしき場所で眺めているという描写がされている。だが、ザボエラのバランに対する驚愕ぶりや、後にカール王国の生き残りの兵士が語った言葉から、バランはほぼ独力で一国を滅ぼしたと考えられる。 ドラゴンらはあくまでバランの補助をしているだけであり、戦いが終わった後で敵陣を念のために焼き払っているぐらいの後処理をしているだけと考えた方がよさそうだ。 ここで一番注目したいのは、いかにも補佐役のような顔をしてバランの側に控えているザボエラの存在である。時期的に見て、ダイとクロコダインに敗北して撤退した後なのだが、そんな時にわざわバランの元へと訪れたザボエラは、考えたに違いない。 なにせダイが出現して以来、ハドラーは失敗を重ねている。二人の軍団長にダイの抹殺命令を出したにもかかわらず、見事に失敗した上に彼らは敵に寝返っている。 これは指揮官であるハドラーの大きな失点になる。 だからこそザボエラは敗戦後にも関わらず、バランの元を訪れている。胡麻擂り行為に関しては、実にまめな男である。 相手が心を動かすポイントを突くのが、実に巧みなのだ。名誉を重んじるクロコダインにはその誇りをくすぐって籠絡したように、ここでもザボエラはバランが心を動かすであろうポイントを見逃していない。ハドラーが入念に手回しし、ダイとバランの遭遇を避けていた――それをしっかりと覚えていたザボエラは、バランにダイの話を教えている。 自分の労力は一切使わず、ただ情報を流すことで相手の気を引く……いかにもザボエラがやりそうな手段である。 ザボエラは情報戦に関して怠け過ぎである! だいたいのところ、ザボエラは配下に悪魔の目玉を多数揃えて盗み聞きや覗きに関しては万全の態勢を払っているくせに、それを活用しきってはいない。まず、情報を手に入れたらそれを詳細に調べ、裏付けをとって確定させるのがプロの仕事というものである。 なのに、ザボエラは手にした情報を調べるという点では、著しく手を抜いている。 その間、ザボエラはこまめに動いていたのは確かだが、調べものが全くできない程の激務だったとは思えない。 資料がないとは言わせない、なにしろマトリフはポップから話を聞いただけという条件にも関わらず、ポップと出会ってからわずか1週間も経たない内に文献を調べ、ダイの正体について見当をつけているのだから。 だいたい、ザボエラはバランが竜の騎士だと知っているし、マトリフよりも長命な分知識も深い。 ザボエラは常々自分の頭の出来を自慢しているが、どうも彼は目先のことに気を奪われがちで、大局的な判断は弱いようだ。バランに近付き、彼に気に入られようとして、ダイの話を持ち掛ければいいと考えたポイントは外していないが、その結果、バランがどう動くのかという点まで考えいない。 この後、ハドラーに対して激昂したバランが、ほとんど喧嘩を売るような勢いで鬼岩城へと取って返す際、ザボエラはオロオロしているだけである。 最悪の場合、ハドラーとバランが対立し、ハドラーからは情報漏洩を裏切りと考えられて疎まれ、バランからはそのまま黙殺されるという状況になってもおかしくはなかった。 実は、ここでザボエラが真相に気がついてうまく立ち回っていれば、魔王軍が最強軍団として君臨する可能性があった。 この時、ハドラーはバランがダイの存在に気がつき、二人の竜の騎士がそろって魔王軍に入ったら総司令の座を奪い取られるのではないかと危惧していた。だが、バランは出世欲は全くなく、総司令の座など欲していない。 つまり、両者の望みは別に反目し合ってはいないのである。 もちろん、ハドラーにせよバランにせよプライドが高いだけに自分から相手に頭を下げるような形は望まないだろうから、両者の顔をうまく立てるように振る舞うのは第三者の役割……つまり、ザボエラの役目になるようにするのは言うまでもない。 ここで肝心なのは、ダイの意思を無視して強引に連れ戻そうとするのではなく、極力ダイを自分達の味方に引き込むために手を尽くすことである。 そこを突かない手はないだろう。ダイが人間に絶望し、逆に怪物側につく可能性は十分以上にあるのだ、多少の小細工や策略を駆使してダイに人間を見限らせるのが、魔王軍にとっては一番都合がいい。 そして、抜けた三軍団長の一つにダイを据え、ハドラーは失ったフレイザードの代わりに新しい分身体を、ザボエラの権力を強めさせるために彼の息子のザムザをそれぞれ選出する。血縁関係と言う繋がりができる分、以前の六軍団よりも結束が強まるだろう。 実質的には三系統の軍団になるに等しいので、以前よりも仲間割れや分裂が起きる危険性も軽減できるし、強固な組織になる――が、この新六軍団が成立してしまえば、確実に人間側が敗北するだろうから、あまりお薦めはしたくないが(笑)
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