82 補給と買い物

 

 フレイザード戦が終わった後、ダイ一行には珍しく休養時間が発生している。その時間を活用してまずはマトリフの特訓を受けた後、ダイとポップは二人そろってパプニカの武器屋に向かっている。
 彼らの目的は、装備品の買い替えだ。

 戦いに備えて、常に装備を整えておくのも大事なことだ。特に、ダイ大世界では、ゲームと違って武器の劣化していく。現実と同様に武器は使えば使う程消耗していき、効力が劣っていくのだから尚更である。
 ボロボロになった剣に武器の買い替えの必要性を感じたダイとポップの判断は、的確だ。


 だが、残念なことにというべきか、復興途中のパプニカにはろくな武器がなかった。ところで、この時のダイとポップは自分達の所持金で装備を買おうとしているのだが、武器屋の主人は国と姫を救ってくれた英雄に装備を無償で差し出そうと申し出ている。

 結局、合う武器がないためその申し出をあっさり断っている辺りに、二人の無欲さが現れている。とりあえず貰える物は貰っておこうと考えるさもしさは、ダイやポップには無縁の様だ。ついでにいうと、二人は周囲の人材や権力を利用しようと考えもほぼ皆無と言っていい。

 仮にも勇者一行のメンバーが武器が欲しいのであれば、一般人の様に町へ買い物に行くよりも、王などの権力者に相談する方が手っ取り早い。ダイ達の功績を思えばロモス王がそうしたように、褒美として装備一式をくれる可能性は十分にある。

 だが、ダイもポップも自分達が王族に認められる功績を上げたという自覚が薄い。
 そのせいかポップがあげた次点のアイデアは、パプニカではなく激戦中の王国へ行って武器を買うというものだった。

 間違っても王族の協力を得て、武器を用意して貰おうという物ではないのである。おそらくダイとポップはパプニカの町に買い物に来たのと同様に、二人で買い物をメインにした旅に出るつもりだったのだろう。

 もっとも、ポップは自分で魔法使いには武器や防具がなくてもたいして困らないと言っているから、これはあくまでダイの買い物に付き合う意味合いが強い。
 ダイはこの後、レオナに買い物の相談を持ち掛けているが、それは彼女を誘うためというよりは出かけてくると報告する意図がメインのようだ。

 だが、レオナにしてみればダイのこの相談は、渡りに船。いや――飛んで火に入る夏の虫、と言ったところか(笑)
 元々、ダイと一緒に旅に出たいと望んでいたレオナには、ダイのこの話は願ってもない好都合だった。

 少しばかり王女としての役割を離れて、ダイと一緒に過ごしたい……その望みをかなえるためには、買い物に付き合うというのは打って付けだ。しかも、距離的な意味合いではカールよりもベンガーナの方が移動には都合がいい。

 その思惑があるせいか、単に商店の規模で決めたのか、レオナはベンガーナ王国のデパートが買い物に向くと教え、さらにはダイを半ば誘導して自分から行きたいと言わせている。

 そして、そのまま気球船を乗っ取って旅立っているのだから、レオナの行動力はずば抜けている。単に命令するだけでは兵士を止めることはできないだろうと、催眠呪文で眠らせるという実力行使までしているのだから、目的のためには本気で手段を選ばないタイプだ。

 それにしても、ダイはこういうわがままな行動に対して実に対応が鈍い。
 戦いでの反射神経や判断力はずば抜けているが、無人島育ちのせいかダイは人間関係という意味では少々対応が世間知らずのままだ。

 なにしろ、ダイときたらレオナがしていることが泥棒じゃないかと心配しているし、あまり賛成している様子はないのに、素直に従っているのだから。
 それがよく現れているのが、ポップを連れていかないのかと尋ねているシーンだ。

 ダイにしてみれば、元々買い物の計画はポップと立てていたせいか、ポップと行くのが当然と思っている節があるようだ。
 だが、レオナはここぞとばかりにポップのことをこき下ろし、いてもいなくても同じだとさえ言っている。

 ダイが庇おうとしても見事にやり込めてポップがいかに役に立たないかと弁舌を振るっている彼女だが、それはポップへの悪意があるからではないだろう。

 元々、親しい人へほど毒舌ぶりを発揮するレオナは、何の悪気もなく自分の意見を述べる傾向があるし、現に後でポップが一緒についてきた時も、別に追い返そうとはしていない。ただ、レオナはダイ逹と一緒に買い物に行きたいのではなく、ダイと二人で買い物に行きたいだけなのだ。

 ダイにとっては買い物はただの買い物であり戦いへの補給だが、レオナには違う意味がある。
 レオナにとって、この買い物は魔王軍との戦いに備えての補給が目当てなどでない。

 だいたい、装備の充実を第一に考えるのであればポップを連れていかない手はない。勇者一行のメンバーの装備を固めることは、結果的に戦力アップに繋がり、ダイにとって大きな援護になる。だが、そんな当たり前のことをないがしろにしてまでダイと一緒の買い物を楽しみたいと考え、あまつさえ邪魔者を置き去りにしてしまおうと考えるレオナは、すでに一国を導く役割を持つ王族ではなく、ただの女の子だ。

 奔放なセリフが目立つため、わがままな印象が強いレオナではあるが、彼女が一介の少女として自由気ままにすごす時間は実はごく短い。
 それだけにダイ達だけではなくレオナにとっても日頃の戦いから開放されるこの一時は、冒険の連続である物語の中では実に貴重な息抜き時間になっている。

 

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