85 ベンガーナ王国の傲慢

 

 ベンガーナ王国に辿り着いたダイ達は、馬車に乗り換えてデパートへと向かっている。
 だが、買い物の前に注目したいのは、ベンガーナ王国に関する簡単な説明と港での光景だ。

 『最も安全な国』と呼ばれるベンガーナは、軍事と商業が発達した国とされている。世界一の経済力をバックに、豊富な武器や物資で魔王軍の進行を防いでいるとの説明があるが、港の描写からもそれは充分に頷ける。

 大きな桟橋を複数持ち、大型船、小型船が何隻も停泊しているだけでなく、海上を活発に移動しているところも描かれている。
 つまり、ベンガーナの港は現在も活動中なのである。

 鬼岩城の移動の際に大型船が遭難するなどの被害の実例もあるし、魔王軍が現れて以来海は安全な場所とは言えなくなっている。

 一度、壊滅的に破壊されたパプニカや、ダイ達を護送するためにわざわざ王命で船を用意させたロモスなどでは、港が一時的に閉鎖、もしくは活動が大幅に縮小されていると予想されるのだが、ベンガーナ王国側はその点かなり強気だ。
 魔王軍など恐れるに足りないとばかりに、港を普通に開港している。

 ベンガーナ王国側としては、港に何門もの大砲を設置し兵士を常駐させることで怪物への対策としているようだ。

 まあ、正直な話、大がかりな攻撃を受ければこの程度の装備では話にならないのだが、偵察のためにうろついている怪物や海で偶発的に出会う怪物対策としては充分だろう。
 ところで、この港にレオナは気球船を預けている。

 複数の綱で押さえ付けるという形の停泊方法は、短時間気球を停止させる時のやり方だ。気球船と現実世界の気球の構造や原理が全く同じとは言いがたいから明言はできないが、レオナは最初は買い物を終えたらすぐに戻ってくるつもりだったのだろう。

 デパートには小さい頃に一度、父親と一緒に行っただけだというのに、レオナはデパートに直接気球船を乗り付けず預ける設備の整っている港に泊め、荷馬車でデパートに移動している辺り、なかなかに手慣れている。

 これは明らかに身分を隠してお忍びでデパートへ遊びに行くための行動であり、それに一番相応しい選択だ。
 今回の買い物がレオナの思い付きによる突発的なものであることを考えると、ベンガーナ側が配慮したとは考えにくい。

 やはり、レオナの指示、もしくは希望が大きく働いていると考えるべきだ。
 この辺りの判断の確かさに加え、手際の良さ、交渉の上手さがレオナの最大の長所と言える。彼女がこの時自分の身分を明らかにして交渉したかどうかは不明だが、どんな手段を使ったにせよ、レオナの希望はほぼ100%通ったと考えていい。

 しかし、これはレオナの交渉の上手さもあるが、ベンガーナ側の対応の傲慢さがあるからこそ成立した交渉だろう。

 レオナが自分の身分をどう説明したかはさておくにせよ、気球船はパプニカ王国所有のものであり、なおかつたった一機しかない貴重な物だ。それを使えるのは当然、パプニカ王国の要人に限られている。

 気球船をきちんと扱ったベンガーナの港の者が、それを全く知らないとも思えない。
 にも関わらず、ベンガーナ側はレオナの来訪をまったくと言っていい程重視していない。


 情報が極端に発達した現在と違い、ダイ大世界では情報の伝達に難があるのは否めまい。しかし海を挟んでいる上に、船の動きを制限していたロモス王国がパプニカ王国が激戦区であり魔王軍の猛攻を受けていると知っていたというのに、港を開放しているベンガーナ王国がそれを全く知らないとは考えにくい。

 パプニカが一度はほぼ壊滅的な被害を受けたことは最低限知っていなければおかしいし、情報通ならば勇者の登場により復興し始めたことも知っている可能性は高い。
 だが、それにも関わらずベンガーナ側はパプニカ王国の中枢に位置するであろう少女の来訪に対して、特別な処置を取っていない。

 軍事的もしくは政治的な意味で、ここで気球船に乗ってきた少女からパプニカの情報を得る意味は大きい。
 魔王軍の動きを確実に掴み、他国との共闘のためにここは歩み寄っておきたいと考えるのが普通である。

 レオナを引き止めて身分を問い質す合間、王宮に連絡をして指示を仰ぐ――それが、一般的なやり方だと言っていい。

 だが、実際にはベンガーナ側はレオナをほぼ素通しさせてしまっている。それどころか後のベンガーナ王の挙動から見て、この時レオナやダイ達がベンガーナを訪れたことを王宮に知らせたかどうかも怪しいものである。

 商業用に特化した港ならまだしも、大砲操作のために兵士が複数存在しているのにも関わらず、この対応である。

 どう好意的に判断しても、ベンガーナ側は魔王軍の情報についても、また、パプニカ王家の情報についてもほとんど関心を持っていないとしか思えない。
 ベンガーナ王国側の手抜きというか、魔王軍や他国を軽んじてる風が透けて見えるシーンだ。

 

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