86 それぞれの買い物(1)

 

 さて、ベンガーナとパプニカの微妙な力関係を感じられる対応はさておくとして、ダイ達は初めてのデパート体験を存分に楽しんでいる。
 城並みの大きさを誇るベンガーナ百貨店を前にしてダイとポップは驚いているが、面白いのはポップの驚きの方が大きい点だ。

 ダイとポップでは明らかにポップの方が世間を知っているのだが、なまじ比較対象を知っているだけにポップの方が驚きが深いようだ。
 ところでこのベンガーナデパートは5階建ての建物であり、地下一階も備えているという相当に大きな建物だ。

 服・鎧が5階、武器が4階と表記されている。しかし、その他の階は書かれている文字がはっきりと読み取れないため、何が売られているかよく分からないのが残念である。かすかに見られる字から、3階は日用雑貨、2階は書類・道具、1階は宝石・装飾品ではないかと推測できるが、地下については何のヒントもない。

 現実のデパートと同じ構造であれば、地下が食品売り場ではないかとも思えるが、確証はない。
 とりあえず、デパートの案内図を見て、レオナは5階から見るのがよいと判断している。先に防具を買ってから武器を決めるのは、堅実な買い物方法だ。

 初心者は強い武器をいきなり買ってしまい、所持金がたちまちなくなってまともな防具を買うことができず、敵のダメージを受けまくって苦労することが多いものだが、レオナはその点しっかりしている。この時、ダイやポップはただただ、レオナの言いなりに動いているだけという感じが強く、生まれて初めて見た『エレベーター』に驚いている。

 この時、使用されていた『エレベーター』は、ダイ大の連載当時のDQの最新作であったDQ4で初登場してきたエレベーターと同じ仕組みのものだ。スイッチを踏むと上階に上昇する仕組みだが、実はこのエレベーターは一方通行である。現在のもののように、自由にどの階にでも行けるのではなく、あくまで決まった場所へしか行けないのである。

 後で、ダイ達が下の階に降りるのに階段を使用している辺り、実にゲームに忠実だ。
 ゲームの中で、トリッキーな仕組みのダンジョンの演出のために使われていた仕掛けなのだが、ゲーム内のそのシステムをダイ大で正確に再現している拘りが、実に面白い。

 それはさておき、三人の中ではレオナが買い物を一番楽しみ、うまく利用していると言える。

 彼女の買い物は実に奔放かつ、大胆だ。買う予定がなくとも、気になった服は積極的に試着を試そうとする心構えと言い、派手な衣装を身に付けてポップをからかってみせるお茶目な態度など、実に楽しそうだ。元々、彼女は服飾品に強い興味を持ち、洋服を買うという目的だけでなく買い物そのものに楽しみを見出だすタイプなのだろう。

 女性には比較的に多いタイプである。
 しかも、レオナはお金の使いどころに無駄がない。
 自分の着ている服の値段や、武器や鎧にどのぐらいのお金を注ぎ込んだらいいのか、即座に計算してダイ達に告げている。

 そして、最終的にはレオナによく似合っている上に動きやすく、なおかつ派手過ぎない無難な格好に納めている辺り、センスのよさが感じられる。
 レオナとは真逆に、ポップはあまり買い物には関心がなさそうである。

 いくら武器や装備を師匠から貰った直後とは言え、ポップはデパートの魔法使い用の装備に全く見向きさえしていない。服飾品に興味のあるタイプならたとえ買わないと決めていてもつい目を引かれそうなものだが、ポップは全く関心を見せていない。

 マトリフから貰ったベルトがセンスが悪いとケチをつけているぐらいだから、ファッションに対して全く拘りがないとも思えないのだが、積極的に自分で洋服を選ぶタイプではないのだろう。ポップは洋服に対しては、母親の選んだ服をそのまま着てしまう思春期以前の男の子並の興味と関心しかなさそうだ。

 ついでに言うと、ポップの服の選択は案外にも保守的でもある。
 この時レオナが試着した服は『踊り子の服』という水着とほぼ変わらない格好だったのだが、鼻血をだす程興奮しながらも、ポップはもっと賢者らしい地味な服にしろと怒っている。

 もっとも、ポップが地味な服が好みだというわけでもないだろう。
 後の話になるが破邪の洞窟に挑む時の極薄の服や、宿屋や修行中のマァムが下着同然の際どい格好でいても文句はつけてないどころか大いに喜んでいたから、ポップの好みはどちらかといえば露出度が大きい方だと思える。

 だが、好みには合っていてもTPOに合わない服装なら難色を示すという意味では、ポップは至って保守派のようだ。

 では、ダイはどうかというと――意外にも彼の好みははっきりしている。
 実は、『見た目の格好よさ優先』だったりする(笑)

 自分に似合う、似合わない度外視の上で、見た目のインパクトに引かれる傾向があるようだ。幼い子供が、テレビに出てくるヒーローやヒロインにあこがれて同じ格好を望むように、ダイも素直に自分なりのヒーロー像に近い姿に引かれるようだ。

 ダイは真っ先に目に入った騎士の鎧がかっこいいと気に入って、ペタペタと触っている。値段の高さに驚いていたものの、レオナの許可が出た途端、早速試着するお気に入りぶりである。

 しかし、この試着は恐ろしい程似合っていなかった。
 背の小さいダイに大人用の鎧は大きすぎる上に、重すぎるのである。なんとか全パーツを装着したとはいえ、見た目からして格好が悪い仕上がりになり、マネキンの姿とは大幅に違ってしまっていた。正直、そんなのは試着する前から分かりそうなものだが、ダイはそういう意味で想像力に欠けている。

 まあ、無人島育ちのダイにとってこれが始めての買い物だろうし、不慣れなのは仕方がないだろう。
 イメージ最優先で購入したツケとして、ダイはしばらくの間、騎士の鎧を着たままで歩くのに苦労していた。

 何度も転んだりしたり、ちょっと動くだけでガシャンガシャンと大きな音を立てたりと、見るからに危なっかしいのだが、レオナは楽しそうに笑っているし、ポップの方は呆れた顔をしているものの、特に止める様子はない。

 実際、見た目はひどく悪いものの、勇者や戦士が完全装備をすること自体は、一行にとっては有益ではある。前衛で主戦力であるダイが防御力をあがるのであれば、二人とも積極的に反対をするつもりはなかったのだろう。……見た目は、ひどく滑稽ではあるが(笑)
 ところで、現実世界では、フル装備の騎士の鎧は70キロ近くあったという記録が残っている。大人であっても着るのに苦労し、一度着てしまうとろくに動けなかったと言われている。

 ダイ大世界では鎧の重力がどう設定されているかは不明だが、かなりの重みがあるのは間違いないだろう。
 それを考えれば、ダイがこの騎士の鎧を着てこれだけ動けるだけでも立派なものである。

 

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