87 それぞれの買い物(2)

 

 全員の防具を買った後、ダイ達は4階へ移動し、武器を買おうとしている。
 その際、人だかりを発見した彼らは自然にそちらへと引き寄せられている。
 余談だが、真っ先に人だかりに気が付いたのも、それに寄っていったのもレオナだったりする。彼女は、かなり好奇心が強そうだ。

 そして、彼らは人だかりの源が奇妙な形の武器――ドラゴンキラーにあると知る。
 ドラゴンに対して特に高い攻撃力を持つ武器は有名であり、店で買える武器の中では最高級に位置する。ポップやレオナは形を見ただけで刀の名前を言い当てているし、さりげない呟きからも詳しい知識があるのが伺える。

 が、この時のダイの反応は極めて薄い。
 もしかするとダイは、ドラゴンキラーの存在自体を知らないのではないかと思えるぐらいだ。実際、ダイは常識にはかなり疎い。

 値札に値段がついていないことに目敏く気がついたものの、店員からドラゴンキラーがオークションで売られると聞いてもその意味を分からずに聞き返している。
 実はこの時、オークションは何かという質問はダイは店員にしているのだが、ダイに対してオークションの説明をしているのはポップだ。

 目立たない特技だが、ポップは説明が非常に上手い。
 他人に説明をするというのはやってみると案外難しいものだが、ポップは何の苦もなく、オークションというシステムをごく分かりやすい言葉で噛み砕いて、ダイに教えている。


 簡単そうに見えるが、知識を完全に自分のものにしていなければできないことだ。
 アバンも説明の上手さは抜きんでていたから、その授業を一年以上に渡って受けていたポップが、他者への説明のコツを身に付けていても何の不思議もない。

 ところでこの時、ダイ達がドラゴンキラーに興味を示したのを見て、周囲の客達が笑っている。剣の相場が15000G以上であり、子供には買えない代物だとからかうとはちょっと意地の悪い大人達ではあるが、言っていることはそれ程きつくもない。
 実際にこれだけの値段の剣を、一般の子供が買うのにはかなりの無理があるのだから。


 だが、この時、レオナはずいぶんと気分を害した様子で、反発を感じている。
 パプニカ王国の姫であり、周囲から常に特別扱いをされてきたレオナにとっては、こんな風に軽んじられる経験などほとんどなかっただろうから、この手のからかいに免疫がないのは想像に難くない。

 しかも、レオナには武器の貴重性と同時に有効性も認識できているし、購入できるぐらいの金額も持っているのだ。
 ほぼ瞬間的に購入を決意したレオナは、ダイとポップの手を引っ張って剣を買うための相談をしている。

 だが、これは正直、相談と呼べる類いのものではなく決断に近い。この時のダイときたら無反応でほぼ関心がない感じだし、ポップの方も金額を気にしてむしろ反対している。
 だが、レオナは二人の反応を押し切って買おうとしているのだから、これは独断専行というものだろう。

 この時、レオナに制止の声を掛けたのは、通りすがりの老婆だ。
 占い師の格好をした老婆と若い娘の二人連れ……ナバラとメルルの初登場シーンである。この時のナバラはかなりきつい言葉で、レオナに無理な買い物はやめておくようにと忠告しているのだが、彼女は全くそれを気にした様子はない。

 忠告をした相手が占い師だと見抜いたレオナなら、占い師の忠告ならばそれなりの根拠がありそうだと考えてもよさそうなものだが、少なくとも表面上はそんな素振りも見せない。

 ところでポップは相手が占い師だと見抜いた所まではレオナと同じだが、『ちょっと美人』なメルルに気を取られている有様である(笑)

 美人や可愛い子に弱いという男の本能にひたすら忠実なポップの反応に対して、レオナはひどく辛辣だ。バカじゃないのと軽くツッコんでいるが、それ以上関わる様子はない辺りが、レオナのポップへの関心の低さを現しているように思える。

 この時のレオナのポップに対する態度は、恋愛対象の全くないクラスメートの男子に対するような接し方だ。ダイに対して見せるような異性を意識した可愛らしさや、頼りにする素振りなどかけらも見えない。

 まあ、同年齢程度ならば女子の方が精神年齢が高いものだし、クラスメートの男子は子供っぽくて騒がしいだけの存在と見えがちなものだ。ここまでポップはレオナの前でとってきた態度を思えば、妥当な評価だろう。

 なにしろ、ポップはレオナの目の前では何一つ活躍していないし、おやっと目を見張る程鋭い発言をしているわけでもない。普通の少年離れした知識も、レオナの前では長所には入るまい。

 なにしろポップよりも年下のレオナもまた、普通の少女離れした知識を持っているのだ、自分以上ではなく自分と同等程度の知識がすごいとは、人は普通は思わないものだ。
 むしろ、レオナは頭脳面ではダイとポップを軽んじているようで、オークションが始まった後も必死に止めようとするダイとポップの制止も聞かずに競りに夢中になっている。


 予算が16000Gそこそこにもかかわらず、18000Gを越してもまだ諦めないレオナは、熱中すると後先が見えなくなるタイプと言えるだろう。

 まあ、王女である彼女なら支払い能力はあるだろうし、手持ちの金額が足りなくとも後で払うと相手に了承させることができるという自信があるからこそ強気で競っていたのだろうが、庶民のポップは手持ちの金額以上の買い物には弱気である。

 ここで面白いのは、ダイの反応だ。
 予算が2000G以上もオーバーしているし、帰れなくなってしまうと心配している。
 

 これがダイ自身の判断による発言なら、ダイの計算能力や金銭感覚を大いに見直したい所である。しかし、心配している割にはあまり切迫感が感じられないし、オークションというシステムさえ知らないダイが、高額過ぎる買い物をした代償として帰れなくなるとすぐに連想するというのも多少違和感のある話だ。

 ダイのこの発言は自分の考えに基づくものではなく、ポップからの受け売りではないかという疑惑を感じてしまう。
 前者の場合ならば、ダイは見た目以上の賢さと常識を持っていると判断できるし、後者ならダイはこの時、レオナよりもポップの判断を信じ、共感したと判断できる。

 どちらにせよ、ダイは無理をしてまで高い武器はいらないとの結論に達している。ダイは武器の優劣にはほぼ拘りがないし、結果的に勝てばそれで良いとの思考の持ち主だ。
 ダイがそう考えているからこそ、ゴメちゃんはダイの考えを読んでレオナの発言を封じ、オークションを終了させている。これは、ゴメちゃんのナイスプレーだ。

 制止が全く利かない以上、力づくで止めるしかないが、ダイやポップがそうするのでは何かと語弊が生じるだろう。……まあ、当時のレオナとポップのパラメーラーを見る限り、ポップよりもレオナの力の方が強いので、ポップには力づくは無理な相談だが(笑)

 だが、ゴメちゃんなら、レオナにとってはダイの可愛らしいペットという認識だ。それだけにゴメちゃんに対してはレオナも本気で怒っていないし、オークションを逃したことでかえって冷静になったのか、ダイの話もちゃんと聞くようになっている。

 とはいえ、レオナはまだドラゴンキラーに未練があるらしく、商人にしか見えない男に武器を渡したことを悔しがっていた。自分達が使った方が有意義だと言っているが、筆者にはそれが本心とは思えない。

 武器に全く拘りを持たず、逆にレオナをなだめるダイを見つめるレオナの表情を見ていると、ダイのために良い武器を買ってあげたかったのにそれを果たせなかったことを残念がっているように見える。

 ポップが武器を逃してもさして残念とも思っていなさそうなのとは、実に対照的な反応である。


《おまけ・Yの謎》

 レオナは自分の服を売れば2、3万Gになると言っていたが、作品中ではいくらで売買されたのか明記されていない。
 だが、ダイとレオナの買い物が済んだ段階でのレオナの所持金は明らかになっている。
 16000Gぐらいあると言っているレオナだが、ここで注目したいのはダイの鎧の金額だ。あれは3800Gだとはっきりしているので、X(レオナの最初の服の売却代)−3800(ダイの鎧代)−Y(レオナの購入した服代)=16000という計算が成り立つ。

 ここで問題にしたいのは、XとYの数値だ。
 もし、仮にXを20000Gと仮定すると、Yは1〜200G以内しかありえない。つまり、レオナは王女でありながらあえてかなり予算を抑えて200G以下の服を買った、買い物上手でしっかりものの女の子ということになる。

 が、ここで30000Gだとしたら、どうだろう。
 なんと、Yは10000〜10200Gとなってしまう(笑) この場合、レオナはダイに与えた予算の二倍以上もの金額を自分の装備に注ぎ込んだ、服に妥協を許さない超ブランド好きなお姫様になってしまうのである。

 さて、実際はどちらだったのか――追及したいような、追及したくないようなYの謎である(笑)

 

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