90 ダイvsヒドラ戦(2) |
さて、騒ぐだけで実のある行動を取れていない周囲の大人達と違って、ダイ達の反応はしっかりとしている。 まず、ダイはドラゴン達の正体が超竜軍団かと言い当てている。 レオナは冷静に敵の種類と数を数えているし、ポップも敵の動きがこちらに向かうものだときちんと見抜いている。 ダイとポップは実戦を経験してきたし、レオナもまた、逃げるのがメインだったとはいえ戦火を潜り抜けて生き延びてきただけのことはある。 騒ぐ大人達をよそに、この時のポップはずいぶんと冷静だ。 この時のポップの意見は、中立だ。ドラゴンの数が多くて分が悪いと言っているから弱気に見えるものの、これは逃げたいという意思表示ではない。不利なのは承知していながら、戦うことも視野に入れた上での発言と考えていい。 敵を前にすれば真っ先にまずは逃げようと言い続けてきたポップにしてみれば、大きな進歩だ。自分の感情を除外して状況判断をし、仲間にとって有利な戦略を立てようとする――マトリフとの修行で力を身に付けたことで、ポップは明らかに魔法使いとしての役割に目覚めてきたと言える。 ポップの問いにダイは困ったような顔をした後、答えを求めるようにレオナを見ている。 アバンが変身した姿でとはいえ実際にドラゴンとの戦闘経験のあるダイは、ドラゴンが強敵だとその身をもって知っている。だが、怯まずに今までどんな敵と戦ってきたダイが、ここでいきなりドラゴンだからといって怯える理由もない。 デルムリン島やフレイザード戦の時のように、戦いに巻き込まれたレオナが危険な目に遭うのを恐れているからこそ、いつものようにすぐに戦う決断を下せない……筆者にはそう思えてならない。 だが、ダイのためらいをよそに、レオナは毅然と戦いを決意している。 彼女の目的は、ドラゴンとの戦いの勝利ではない。 敵の策略を看破しながらも必要以上に恐れず、デパートの客達の全滅を避けるために時間を稼ぐのを第一目的としてあげているレオナは、自分に戦う力ないのは知っている。だが、ダイやポップがその力を持っているも知っているからこそ、彼らに呼び掛けることで目的を果たそうとしているのだ。 そのレオナの意図を、ポップは正確に読み取っている。 つまり、ポップの目的とレオナの目的は同じではないのである。 気合いを入れ、窓枠に飛び乗った段階でポップはこの先の行動まで考えていたに違いない。 『…へっ…、お姫さんよ。ちょっとあんたを見直したぜ。やっぱ人の上に立つ人間は、キメる時ゃキメるんだな…!!』 『…あたしはまだキミを見直してないわよ…!』 ちょっと捻った素直ではない表現とは裏腹に、筆者はこの瞬間こそがポップとレオナが共闘者として手を組んだ最初の一歩ではないかと考えている。 ポップがレオナの意図をすぐに見抜いたように、レオナもまた、ポップが自分の意図を組んでくれたことに気がついている。その上でレオナは『まだ見直してない』と発言しているのだ。 ポップに対して、見直すに相応しい行動をとってほしいと暗に望んでいることを端的に示しているレオナは、すでにこの段階で彼をかなり認めているのだろう。優れた頭脳を持ち、相手が言葉にしない部分にまで洞察力を発揮できるポップとレオナがパートナーシップを持ち始めた意味は、実は大きい。 二人ともパーティにとって軍師の役割を負っているが、ポップとレオナは得意分野が違う。ポップが実戦の場で活躍しているのに対し、レオナは主に勇者一行の対外印象に対して力を発揮する。つまり、ダイが最も苦手とする部分を、この二人がそろえば大きくカバーできるのである。 レオナが戦いの方針や意義を決定し、ポップがその具体的な戦略を練る――勇者一行の必勝パターンの一つが、この時に確立したと言っていい。 まあ、先のことはともかくとして、ポップはこの時、ダイに戦いの役割分担を振っている。 心配も異議も唱えずに即座に頷くダイには、ポップへの信頼を感じられる。 二人が行動を開始したのを見て、ダイは自分も行くぞと窓から出ようとするが――これは思いっきりポップに釣られてポカをやらかしたとしか思えない。 まだトベルーラどころかルーラさえ覚えていない上に、重量オーバーの鎧を身に付けているダイはあっというまに落下してまともに地べたに叩き付けられている。……普通なら、即死ものである。 そして、ここにいたってダイはやっと、騎士の鎧が重すぎて動きにくいと判断している。非常に遅い判断だが、いったん心が決まった後のダイの動きは素早い。ダイはいらないと判断したパーツを惜しげなくてきぱきとその辺に放り投げ、必要なパーツだけを装備して出発している。 最後に全くの余談なのだが……もし、ダイが騎士の鎧を買う時にこの行動を取っていれば、パーツも無駄にならずに値引きもしてもらえたかもしれないと思う筆者は、心底貧乏性なようである(笑)
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