92 ダイvsヒドラ戦(4) |
さて、ダイの戦いの前に、メルルの行動について考察したい。 逃げ惑う人々の中には、メルルとナバラの二人も混じっている。 逃げるだけの時間がなかったのか、あるいは自分達だけ逃げるのを良しとはしなかったのか……筆者としては、後者だと思いたい。 この時メルルは、瓦礫に挟まれて動けなくなった母親とその娘に気が付いて、彼女らを助けるために避難を止めてわざわざ駆け戻っている。 ナバラとメルルはこれまで占いにより危険を逃れ、自分達だけ難を逃れて生き延びてきたと語っているが、その事実に対してメルルはかなりの罪悪感を抱いているようだ。 近い時期に怪物が襲ってくると予知したとしても他人にそれを積極的に教えず、自分と孫娘だけで避難するという行為を繰り返してきたのだろう。そのことに対して、メルルはずっと罪悪感や嫌悪感を抱いていたに違いない。 おそらく、今まではナバラの予知や彼女の判断に、メルルは従順に従っていたのだろう。ドラゴンキラーのオークション会場でナバラの毒舌を周囲に向かって謝っていたところをみると、メルルはナバラの言動を決して肯定はしていない。だが、メルルは結局ナバラへは何の非難もしてはいない。 ナバラの言動が正しいものとは思っていなくても、メルルはとりあえず祖母に従うというスタンスをとっていたのだ。 だが、実際に怪物の被害に遭っている人を目の当たりにして、メルルは制止する祖母を振り切ってまで反論し、自分の意思で行動している。今回の予知がナバラに先んじて自分が得たという事実も、メルルの独立心を強めているのかもしれない。 しかし、メルルのこの正義感は見上げたものには違いないし、立派だとは思うが、彼女は実行力には欠けている。 メルルは倒れている女性を助けようとしているし、彼女を助けるためにはその上に乗った瓦礫を取り除かないといけないとは理解している。だが、そのためにどうすればいいのかと言う点までは考えが至っていないのだ。 大きさから言って瓦礫はとてもじゃないが、メルルのような女の子一人で動かせるようなものではない。だが、彼女は終始自分一人の力でなんとかしようとしている。 優しい心や高い理想を持ってはいても、それを外部の人間に対して訴えかけるのを苦手としている。
すんでのところでダイに助けられなければ、メルルは親子共々ヒドラの炎に焼かれて絶命していただろう。 咄嗟の時に他人を助けようという反応を見せる彼女の気高さや優しさは評価するが、しかし、ダイに怪物は自分が引きつけるからそのスキに早くと告げられた後も、メルルの行動は変わっていない。 その様子に気が付いたゴメちゃんがレオナに知らせたおかげで、事態はようやく動く。レオナはすぐに助けなければと駆け出し、周囲に協力を呼び掛けている。 メルルとは対照的に、レオナは他者に頼み事をするのに全く抵抗を感じない。だが、王女という特殊な環境にいたせいか、レオナは周囲の人間が自分の要求に対して動いて当たり前という甘えがあるような気がする。 『誰か、力の強い人! 手伝って!』 レオナはこう周囲に呼び掛けているのだが、この呼び掛けに対する周囲の反応は鈍い。力が強い人どころか、ヒドラに怯えて及び腰になる男達はその場でうろたているばかりだ。助けを求めている女性達を見捨てて逃げる非情さはないが、かといって危険を承知の上で他人を助ける勇気もない……いかにも中途半端な一般市民達の反応は面白い。 そんな彼らを蹴飛ばし、さっさとやるようにと後押ししている。 さすがは年の功というべきか、誰かを助けたいと思ったのならナバラの方がメルルよりもはるかに実行力がある。他人の協力が必要だと理解もしているし、そのために他者を叱り飛ばしてでも協力させる強引さも持っている。 レオナとナバラのおかげで人数が増えたものの、瓦礫が重すぎて救助は捗らない。おまけに、ポップが取り逃したドラゴンがやってきたのを見て、女性陣だけを残して男性陣は一斉に逃げ出してしまっている。 ……いやはやもう、呆れる程にものすごい逃げ足の早さである。 結局、再びダイによって危機を救われ、瓦礫も壊してもらったおかげで救助は成功したものの、これは偶然と幸運に助けられた結果にすぎない。
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