15 ダイ対バラン戦(4)

 

 ダイの味方をすると決めたポップは、自分達と意見を全く反するバランを敵だと認識した。それも魔王軍軍団長として最大限に警戒し、そう扱っている。
 そして、バランに対してはこの場で徹底抗戦する決意を最初から見せている。

 これまでの激戦を乗り越えた経験からか、ポップは明らかに判断が早くなっているようだ。
 ポップにはダイの様に直観的に敵の強さを感じとる鋭さはないのだが、ダイの反応からバランがいかに強敵かを計算したのだろう。

 その上でポップは、ダイを主戦力に据えて戦う構想を早々と固めたに違いない。これまで戦ってきた中でそれが一番実戦力が高い方法であり、彼らの必勝法の一つだ。
 そのため、ポップは真っ先にダイの回復にレオナに指示している。

 この指示は、タイミング的に非常に良かった。なんと言っても、レオナは戦闘員ではない。パプニカ王女として戦いに巻き込まれたものの、彼女の立ち位置はどう見ても一般人と大差はない。

 回復魔法の使い手ではあっても、レオナは治療手としてでさえ最前線で動いてきたわけではない。最良のタイミングで過不足なく回復魔法を執行するだけの力量や判断力は、レオナにはないのである。

 それどころか、レオナは驚きのあまり呆然と成り行きを見守っているしかできない有様だ。だが、さっきも言った様にまだ戦闘員ではないレオナに、覚悟が足りないと責めるのは酷だろう。なにしろダイ本人でさえ、自分自身の回復をレオナに頼むゆとりを失っているのだから。

 回復の時間をポップは自分で稼ぐつもりでいるものの、その口調は詰まりがちで自信なさげだ。それに対し、バランは自信たっぷりである。
 自分に反抗するポップをむしろ哀れんでさえいるバランは、彼を歯牙にもかけていない。
 この時点でバランはポップの実力を知らないのだが、バランの屈強さを考えればこの自信を過信とは言えまい。
 実際、バランはポップを敵として認識さえしていない。

 さっきのポップの一喝に多少ムッとした顔を見せたものの、それだけでポップを敵と見なす程大人げない性格ではないのである。ダイに対しても無意味に暴力を振るおうとしなかった様に、バランはポップに対しても先制をしかける気配はまるでない。
 死にたくなければそこをどけと、ポップに忠告すらする余裕がある。

 だが、当然ポップに退く気はない。ポップはここで自分の使える最高呪文――重圧呪文を繰りだしている。ポップがこの呪文を使った理由は、おそらく二つある。

 一つは、バランが偶然地上にいたということだ。重圧呪文は強力な呪文ではあるが、大地の精霊の力を借りるという制約上、地面に接している相手にしか使えない呪文である。偶然だろうが何だろうが、バランが地上にいたのはポップにとっては好機だった。

 そしてもう一つは、相手がこの重圧呪文では死なないだろうとの予測を持っていたためだろう。
 重圧呪文は強力な呪文ではあるが、一撃必殺タイプの呪文とは言えない。実際にポップが初めて使った際も、ドラゴンを全滅させることは出来なかった。

 実際にポップは重圧呪文をかけた直後レオナに呼び掛け、回復を促している。自分の呪文だけでバランを仕留められると思っているのなら、ダイの回復を急がせる意味はない。回復したダイの戦力を期待しているからこそ、ポップは敵から目を離してダイやレオナに注目している。

 ところで、この回復のシーンではポップとレオナの気の合い方が見事である。
 ポップが名を呼びかけただけでレオナは素直に返事をし、ダイに全回復呪文(ベホマ)をかけている。

 パプニカを旅だった時にはレオナはポップを全くといっていい程評価していなかったのに、短い期間の間にレオナがポップの評価を一転させているのがよく分かる。

 他人の指示をそのまま受け入れることができるか、どうか  これは、相手との信頼関係によって大きく左右される問題だ。特にレオナの様に、普段は自分が他人に指導し、指示を下す立場の人間はなかなか逆のことは素直にできない場合が多い。

 もし、ポップの指示が正しくないと思えばそれを指摘し、自分の考えを述べる気丈さがレオナにはある。
 実際にベンガーナデパートでドラゴンが最初に現れた時は、そうだった。だが、あの時に比べればレオナのポップへの信頼度は確実に増している。

 また、ポップもレオナがダイに回復呪文をかけ始めたのを見て、ダイがもうじき完全回復すると確信している。レオナの回復魔法の腕前に対する、絶対の信頼が感じられる台詞だ。
 明らかにポップとレオナの間には、信頼関係が生まれ始めている。

 しかしそれはいいとして、バランはあまりにも強敵だった。ポップのかけた重圧呪文に対して、バランはゆっくりとだが近付いてきている。
 紛れもなく全身に重圧がかかり地べたが砕けてさえいるのだが、バランはそれをものともしない不敵な様子で歩いて来るのである。

 文字通り、足止めレベルの効き目しかない。
 それに焦り、ポップはレオナに早くするよう促すが、レオナもこれにはそう言われてもすぐには無理だと言い返している。

 このピンチは何よりも実力差が大きいが、ポップの失敗もないわけでない。
 重圧呪文に関わらず、ダイ大ではほとんどの呪文が一瞬で放つか、あるいは持続的に放出するかを選ぶことができるようになっている。

 一瞬で放った呪文はそれ以上その魔法に干渉できないが、持続的放出を選んだ場合は力を注ぎ続けて強化することができるという描写を、物語の随所で見ることが出来る。

 それを思えば、ポップは重圧呪文をかけた後も気を抜かずに全力でしかけるべきだった。呪文をかけてすぐ、仲間を振り返っている場合ではなかったのである。……まあ、全力でも結果は同じ気もするが。

 ついでに言うと、レオナも小さな失敗をしている。
 レオナはダイに回復魔法をかけているが、効き目が一番強い全回復魔法をかけている。だが、戦いの場では回復に時間が掛かる全回復呪文をかけるよりも、効き目が弱くても動ける程度の力で素早く回復させる方が有利なこともある。

 クロコダイン戦の時、マァムがポップにホイミをかけて動ける程度の補助は可能とした様に、戦場では速度が重要だ。しかし、実戦なれしていないレオナにその判断まで要求するのは贅沢というものだろう。

 なんにせよ、戦略以前に相手が悪すぎた。
 バランは重圧呪文に耐えるどころか、気迫を高めて呪文を破ってさえいる。その際、バランの額にも竜の紋章が浮かび、彼の竜闘気が膨れ上がっている。

 重圧呪文は文字通り、その場に重圧をかけて全てを圧縮させるかのように地べたに押しつける呪文なのだが、バランはその威力を跳ね返す様な勢いで吹き飛ばしている。結果、バランを中心に暴風が吹き荒れて、人ごと周囲の木を薙ぎ倒している。

 彼の足下だけを残して、周囲の地面を深くえぐったクレーターまで出現しているのだから、その威力は凄まじい。
 まさに爆弾並みの威力だ。

 湖の底でダイに対して竜闘気を放った時よりも、さらに威力が増しているのは、重圧呪文を破った余波によるものなのか、バランの意思によるものなのかは不明だが、実力差の桁違い差が如実に表れている。

 バランの攻撃とさえ呼べない、自衛的な反撃だけでこの有様だ。
 ダイも含めて、この場にいる全員が暴風に飛ばされてしまい、すぐには立ち上がれないほどの強烈なダメージを受けてしまっている。

 DQ的に表現するなら、1ターン目からHPが赤くなってしまった――そんな大ピンチである。

 

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