25 ダイ対バラン戦(13)

 

 バランがポップとクロコダインに向かって技を放とうとした時、風を切り裂くような異音が聞こえ出す。その音の発生源は湖の中……その上、湖の中から光が輝き出す。

 その異変にはその場にいた全員が気がついていたが、その意味に真っ先に気がついたのはバランだった。本人も竜の紋章を持っているだけに、気がつきやすかったというべきだろうか。

 余談だが、バランのこの敏感が彼にとってはマイナスに働いている。異変など気にせずに技を繰り出していれば、ポップやクロコダインには回避も防御もまずできなかっただろうから、その後の展開も大きく変わったかもしれない。

 しかし、バランはどこまでもダイにこだわり、彼に意識を集中させている。ダイが何かをしようとしているのを、無視することができないのである。

 湖の中から飛び出してくるダイの登場シーンは、鮮烈だ。
 また、この時のダイの行動力、判断力はすばらしい物がある。当然のことだが、ダイは湖に落ちた後に何がどうなったのか分かっているはずがない。ダイの視点から見れば、クロコダインが突然現れたことだけでも驚きのはずだ。

 そして、ダイがレオナに回復を受けたのは水中である。
 当然のことながら、レオナがダイに何かを説明するのは不可能だ。それにもかかわらず、ダイは目覚めた途端に行動を開始している。レオナと一緒に浮上するのではなく、自分だけが勢いよく湖から飛び出した点にもそれがよく現れている。

 また、この湖からのジャンプには飛翔呪文が使われていた可能性が高いことを指摘したい。

 水泳のターンを見れば分かるように、水の中から勢いよく飛び出すのには足場などが必須だがダイが飛び出した場所は湖の中心であり、しかもダイはかなり深い場所にいた。いくらダイの体力が優れていても、肉体能力だけで飛び出したと思うのには無理がある。

 魔法の補助があったと考える方が自然だ。
 ダイはマトリフの修行を受けた際、ポップが飛翔呪文を使っているところ見ているが、その経験がここに来て役に立っていると言えるのかもしれない。

 いずれにせよダイの場合、魔法を上達するきっかけは自分の危機などではなく、仲間を助けたいと思う気持ちが基礎になっているようだ。
 ダイ自身がデパートから落下した時は少しも浮く気配はなかったのに、仲間が危ないと思うと潜在能力が強く働く傾向がある。

 ダイは地上に上がると同時に、戦いが待っていると予測していたようだ。しっかりと剣を握りしめたダイは、迷いもせずにポップとクロコダインの前に立ちはだかっている。

 だが、ダイのすごいところは仲間をただ庇うためにそうしたわけではない点だ。

 バランが技をかけようとした瞬間、ダイは即座に行動している。
 ギガブレイクは技の性質上、最初に雷を呼び寄せてそのエネルギーを剣に落とすのが前提だ。

 たった一度技を受けただけなのに、ダイはその弱点を見事に見切っている。雷がバランの剣に落ちるよりも早く、自分自身の剣を放り投げて落雷をそちらに誘導させている。

 この時、ダイが投げたのはレオナがベンガーナで買っておいた剣だ。名前は明らかにされていないが、形状から見ておそらくはそれまでダイが使っていたのと同じく鋼の剣だろう。

 バランと対峙して以来、ダイはこの武器を決して手放さなかった。相手の攻撃を食らっても、ダメージを受けてもしっかりと握りしめ続けていた武器なのだが、勝利のために必要ならばあっさりと投げ捨てることができるのが、ダイの強みだ。

 戦士の中には武器を手放すことにこだわりを持つ者は少なくはないし、一般人の感覚でも頼りになる武器を手放すのには恐怖を感じるものだ。だが、ダイは武器を手放すのに躊躇しない。

 予備の武器を持っているからかもしれないが、それでもメインに使っていた武器も攻撃の一部と見なせる精神力や柔軟性は特筆に値する。

 そして、バランが怯んだ隙に、ダイはクロコダインに声をかけてから技を放っている。
 この瞬時の判断力が、素晴らしい。

 クロコダインが自分に協力してくれると確信しているだけでなく、闘気の技でなければバランにダメージを与えられないと知っているかのように迷いのない選択だ。

 湖に沈んでいたダイは、バランが自ら明かした『竜の騎士には魔法は効かない』という話を知っているはずがないのだが、それでもその事実を悟ったのは竜の紋章による力なのか、それともダイ自身の判断力ゆえなのかは定かではない。

 少なくともダイは、ポップが使った重圧呪文がほとんど効果がなかったことは知っているはずなので、自分自身の考えでバランには魔法よりも闘気の方が効果があると思ってもおかしくはないのだが、残念ながらその根拠が示されていないので詳細は不明のままだ。

 いずれにせよ、ダイはこの場ではクロコダインと自分の最大の技で連携をかけるのがもっとも効果があると判断した。フレイザード戦を経てクロコダインを仲間と認識したものの、彼と連携するのはこれが初めてなのだがその割には二人ともぴったりと息が合っている。

 ダイがまず全力でアバンストラッシュを放ち、その威力にバランが押されている間に、クロコダインが獣王会心撃を打ち込む。攻撃の順序をわずかにずらすことで相手に防御を専念させる時間をとらせ、その間にもう一人が攻撃する……きちんと理屈立てて行った行動とは思えないが、ダイの戦闘時の選択は実に適切だ。

 また、目立たない点だが、ダイがパプニカのナイフでアバンストラッシュを放つ初めてのシーンでもある。ナイフと剣ではずいぶんと長さや重みが違うのだが、どうやらアバンストラッシュは武器の長短を問わずにしかけることができる技のようだ。

 アバンは最初にダイにアバンストラッシュを教えた際、木の枝で放っていたぐらいなのでナイフでも放てても不思議はないかもしれない。

 ただ、その場合は威力は明らかに落ちていたので、この時ダイが放ったアバンストラッシュは、最初にバランに向けて放ったライディンストラッシュに比べれば劣っているだろう。

 だからこそダイは自分が敵の気をそらす役割を引き受け、クロコダインの技をメインにして連続攻撃をしかける作戦を思いついたのではないだろうか。

 バランが自分の技の完成度や威力を見せつけるのに拘るのとは真逆に、ダイは勝利のためにもっとも効率的な選択肢を選ぶことができるし、そのために仲間達の力を借りることにも躊躇しない。

 やはりダイのもっとも優れた資質は、竜の騎士としての戦闘力やポテンシャルなどではなく、誰とでも偏見なく付き合い友達となれる思考そのものだと筆者には思える。

 

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