33 竜騎衆登場(1)

  

 アルゴ岬の先端で、かがり火を焚くという手段でバランは自分の配下を呼び集めている。もっともかがり火とは称されてはいるが、このかがり火から空高く光の玉が撃ち出され、しばらくの間空中にとどまっている描写がされているため、ただのかがり火ではなさそうだ。

 詳細な仕組みは不明だが、原理としては火薬を利用して兵士達の連絡を取っていたパプニカ王国の考えと近いのだろう。遠方にいる味方に対して呼びかけているバランのこのかがり火は、残念ながらカラーではなかったため実際の色合いは不明のままだが、見事に効力を発揮している。

 そして集まってきたのが、竜騎集の三人だ。
 空から登場してきた空戦騎ガルダンディー、海から大渦を巻き起こしながら登場する海戦騎ボラホーン、地響きを立ててやってきたドラゴンの背から飛び降りてきた陸戦騎ラーハルト――竜騎集勢揃いの登場シーンはなかなかの圧巻だ。

 彼らの登場には、明確な共通点が見られる。種類が違うもののそれぞれがドラゴン系の怪物に乗って登場し、竜騎集として名乗りを上げている。
 また、全員がそろって左肩にドラゴンを模した肩当てをつけているが、これは竜騎集のトレードマークのようだ。

 ついでに言うと、この肩当てはバランが片目につけているモノクルの色とデザインに酷似している。

 原作内では説明されていないが、公式ガイドブックによるとバランが身につけているモノクルは竜の牙(ドラゴン・ファング)と言う名のアイテムであり、古の竜の騎士が竜魔人への変身の儀式へ使用した小刀の名残だという。

 つまり、バランの竜の牙が先にあり、竜騎集達がそれを真似たデザインの物を作ったと考えられる。
 同一のアイテム……たとえば、制服などは自分達が同一の集団だという意識を高める効果がある。

 バランが与えた物か、それともメンバーが自主的にそろえた物かは不明だが、彼らがバランに敬意を払いその指揮下に従っていると、内外に意思表示していると言える。

 彼らの服装や名乗りからは明らかに自分達が竜騎集であることへの誇りが感じられるし、バランを前にしてドラゴンから降りる姿勢や口調からも彼への敬意に溢れている。

 ハドラー率いる魔王軍六団長が全く共通性がなく、自分の好みの服装や武装を通していたことを考えると、バランの指揮力の高さは段違いと言える。しかも、バランの彼らへの信頼度も高い。

 集結した竜騎集達は、バランが『息子が生きていた』と言っただけで、話が通じている。つまり、バランは彼らに対して自分が息子を探しているという事実を打ち明けていたのである。

 特に三人の中でもラーハルトは、一番深く事情を知っていると思える。ボラホーン、ガルダンディーに関しては、バランにディーノという息子がいて取り戻したいと思っていることは知ってるとしても、ソアラの存在を知っているかどうかは定かではない。

 だが、ラーハルトは確実にソアラの事情を心得ている。
 バランが心の聖域とも言える妻のソアラのことまで話していたことを考えれば、胸襟を開くことのできる相手と言っても過言ではないだろう。

 魔王軍の他の六団長らにはバランが自分の息子のことどころか正体さえ打ち明けていなかったことを考えれば、バランがいかにこの部下達に仲間意識を抱き、信頼を置いているのかよく分かるエピソードだ。

 そして、バランが信頼を置いているこの三人の部下達は、その信頼に相応しい忠義心を彼に対して抱いている。

 バランに呼ばれた際、ボラホーンはよほど重要な用事かと問いかけているし、ガルダンディーにいたっては『世界を燃やし尽くす日でも来たのですか?』と発言している。

 彼らの思惑から考えれば、息子が見つかったので取り戻すために力を貸せというバランの命令は期待外れもいいところだろう。

 バランは息子を取り戻すことで自分達の戦力が強化され、魔王軍での覇権も確固たるものになると一同に檄を飛ばしているものの、そんな理由は後付けにすぎない。

 バランの目的はあくまで息子を取り戻すことであり、戦力強化がメインではないのだから。また、自分達の実力に自信を持ち、魔王軍の軍団長を見下している竜騎集達が戦力強化や魔王軍の覇権に興味を持つとも思えない。ディーノ奪還は、竜騎集達にとっては特にメリットもない話なのである。

 言わば、私情で命令を下しているにすぎないバランに対して、竜騎集達の反応はどこまでも好意的だ。文句も言わず、彼の命令に即座に従う姿勢を崩さない。

 いちいちハドラーと比較するのも気の毒だが、ハドラーの命令に対して六団長の多くが否定的な対応をしていたことを考えると、竜騎集の忠義心の高さを感じてしまう。

 特にラーハルトはバランの説明を聞くまでもなく、彼の作戦の要がディーノ奪還にあると見抜き、全面的な協力を申し出ている。
 ここで面白いのは、バランの説明だ。バランはディーノ奪還について、彼にしては珍しい長台詞で細々と説明している。

 やけに饒舌に勇者の仲間達の強力さを語り、勇者の仲間を3人に任せ、自分は息子を奪い返すことに専念するという作戦を説明しているが、この説明はいささか熱がこもりすぎていて言い訳がましささえ漂っている。

 人間、心に疚しさがある時ほど口数も多くなるし、言い訳をしたくなるものである。

 竜騎集達の忠誠心の高さから言えば、本来ここまで説明する必要などない。
 やれと命じればそれで素直に従うだろうし、実際、ラーハルトはすでに力添えを誓っているのだから。

 だが、それでもバランはくどいぐらいに敵の強さを強調し、油断をしないようにと部下達に注意を重ねている。

 このバランの慎重さは、どうしても失敗をしたくないという心理を如実に示している。すでに一度、息子を取り戻すのに失敗しているバランは、これ以上の失敗を重ねまいと必要以上に慎重になっているのである。

 バランは明らかに息子を守ろうとする人間達と戦うよりも、息子の奪還に力を注ぎこんでいる。もしバランが本心から人間への復讐を優先しているのだとすれば、自分が戦った方がいいはずだ。
 と言うよりも、そうしなければ気は晴れまい。

 復讐を本気で誓っている者は、決してその手段を他人任せにはしない。損得など抜きにして、自分自身の手でやり遂げなければ意味はないものだからだ。

 だが、バランにとって最優先しているものは復讐などではなく、息子の存在だ。

 ダイの記憶はすでに奪っているのだし、力尽くでも連れ戻すだけならば部下に任せてもいいはずだ。なにしろバラン本人が、部下達の力は竜の騎士には及ばないと発言しているのだ。相手がそれほどの強敵だと認識しているのなら、最強の戦力である自分を主戦力とする方がよほど手っ取り早い。

 しかし、バランは何が何でも息子を自分の手で取り戻すことに固執している。
 それは引いて言えば、妻であるソアラへの愛情に根ざすものだ。

 竜騎集達に命令を下した後、バランは戦の準備を整えるという名目でその場を外し、ソアラと始めて会った泉の側にわざわざ移動している。
 ソアラを思いだしながら息子の奪還を誓うバランには、未だに変わらない亡き妻への愛を感じる。
 

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