34 竜騎衆登場(2)

  

 バランが場を外した後、竜騎集の言動から彼らの性格や上下関係がよく見て取れるのが面白い。
 ハドラーが六団長と話しているところを思い返しながら見比べると、その差は歴然だ。

 残念ながらと言うべきか、六団長達はそろいもそろってハドラーに対する尊敬の念が薄かった。

 ハドラーに対して一貫して礼儀を保っていたのはせいぜいクロコダインぐらいのもので、ヒュンケル、ミストバーンやバランは部下というには尊大な態度を隠しもしなかった。ザボエラやフレイザードなどはひどい物で、ハドラーの目が届かない場所では手のひらを返したような態度を取っていた。

 彼らは陰ではハドラーを呼び捨てにしてはばからなかったし、こっそりと反逆心を抱いていたぐらいだ。
 上司に対する尊敬の念など微塵も感じさせない魔王軍と比べると、竜騎集の上司への反応はひと味もふた味も違う。

 まず、彼らはバランが側にいなかったとしても彼への敬語を欠かさない。その上、少しでもバランへの反感に繋がるような言動すら許さないのである。
 バランの話を聞いた後、ガルダンディーはたかが人間数人のために自分達まで呼び寄せたバランの細心さについて発言している。

 言葉自体をみるなら、それはバランを非難するような言葉とは言えない。
 前項で説明したように、バランは息子を奪還したい一心で必要以上に用心深くなっている。その点に思い至らなければ、過剰なぐらいに戦力をそろえたバランの行動を不審に思ったとしても、それは当たり前だろう。

 実際、ガルダンディーの言葉は些末な用事で呼び出されたことや、バランへの不満とは言えない。

 たかが人間相手に大袈裟だと思った感想を、そのまま口にしただけだ。
 この後すぐに判明することだが、ガルダンディーは人間をひどく軽んじて考えている。だからこそ言った感想に過ぎないのだが、ボラホーンとラーハルトは即座にそれを窘めている。

 彼らは本人に悪気があろうとなかろうと、婉曲的にでもバランに反することを無礼だと考えているらしい。特に、ラーハルトはバランの行為を全て肯定的に捕らえているようだ。

 諺を用いてまでバランの細心さを正しいことだと強調し、擁護している。
 バランを尊敬するあまりに割ときつい注意になっているのだが、ガルダンディーはそれを気にするそぶりを見せない。近くに町並みを発見し、ちょっと人間どもをいたぶってくるといってそのまま飛び出していく。

 実際、彼はこの後でベンガーナの町でドラゴンに火を噴かせて人々や町並みを焼き払い、自分自身も剣を振るって周辺にいた人間を切りまくってる。

 ボラホーンに止められて聞かずに突発的に人間の町を襲う粗暴さや、ボラホーンやラーハルトに言動を窘められていることも手伝って、一見するとガルダンディーが三人の中で一番反抗的なように見えるが実際のところはそうでもない。

 人間に対してはひどく残忍なガルダンディーだが、仲間達に対しては感情的になるわけではなくいたっておおらかだ。むしろ仲間に対して甘えているというべきか、絶対の信頼感を持っているように感じられる。

 基本的に人は、反感を抱いている相手の言動は否定的に、逆に好意を抱いている相手からの言動は肯定的に捕らえるものである。

 たとえば大抵の子供が母親の軽い小言を聞き流すのは、親に対する絶対の信頼感があるせいだ。自分が愛され、何をしたとしても許されると安心感を抱いているからこそ、わがまま放題に振る舞うものだ。

 ガルダンディーもそれと同じで、仲間達に対して遠慮や屈折が全くない。言いたいことを言い、やりたいようにやっても受け入れられると確信しているような野放図ぶりである。

 人間の町を襲ったことに関しても、彼にしてみれば何の悪気もない。人間をいたぶりたいと思ったのは、仲間に咎められた腹いせのためでさえないのだ。

 小さな子供が虫を見かけておもしろ半分に捕まえ、時にばらばらにしてしまうことに罪悪感を持たないように、ガルダンディーも人間を襲うことに何の罪悪感も持たない。バランのように人間への愛憎を抱え込んでいるのでもなく、ただ面白がって手を出した以上の意味はなさそうだ。

 その証拠にガルダンディーは人間達を襲っている間も、一貫して冷静だ。高笑いながら人間達をいたぶっているようでありながら、ガルダンディーの熱狂は底が浅い。バランが戻ってくる時間を計算してかその姿をきちんと見極め、早回りしてバランよりも先にみんなの場所に戻ってきている。

 自制できない本能のまま衝動的に振る舞っていたのなら、とてもここまで冷静な引き上げはできないだろう。

 まさに本人が言ったとおり、ガルダンディーにとっては文字通りの準備運動にすぎないのである。彼にとって人間の相手をするのは始めるのも止めるのもいつでもできる遊びであり、人間など暇つぶしにちょうどいいぐらいの存在としか思っていない。

 人間は自分達とは全く違う、虫けら同然の物  この認識は、程度の差こそあれ竜騎集全員に共通している。
 ボラボーンにしろラーハルトにしろ、ガルダンディーが人間達に何をしようとしているのか分かっていながら、その結果は気にしてはいない。

 ボラボーンが町を襲おうとするガルダンディーを止めたのは、そのためにバランを待たせることになってはいけないと考えたからだ。決して倫理的に人間を襲うのが良くないと考えたからではない。

 ラーハルトもまた、完全に割り切ってガルダンディーの暴走を見逃している。いつものことだからバランが笑って許すだろうと考え、止めさえしていないのだ。

 ただ、ガルダンディーが戻って来た際に、時間ギリギリだと一言釘を刺しているところをみると、彼の行動を全面肯定する気はないのだろう。バランが許しているからこそ容認している、というところだろうか。

 ラーハルトに比べると、バランはガルダンディーには意外なほどの甘さを見せている。

 人間の町から立ち上がる黒煙に疑問を抱いたバランに、ガルダンディーは思いっきりとぼけてみせている。
 しかし、ガルダンディーが本当は何をしたのか分かっていながら、バランは彼を咎めるどころか苦笑交じりに是認している。

 厳密に言うのなら、ガルダンディーは待機を命じられていたのにも関わらず勝手に自分の判断で戦闘行為を行ったのだから、命令違反もいいところだ。軍隊思考ならばここで処罰を受けてもおかしくないのだが、バランは部下に対してはひどく寛大だ。

 ダイに対して理詰めで説得し命令しようとしたのが嘘のように、わがままな部下を軽くいなしているのである。
 仕方がない奴だと認めるだけでなく、戦いの狼煙にちょうどいいかもしれないと擁護するような言葉までかけている。

 また、ここで特筆したいのはボラホーンとラーハルトの反応だ。
 二人ともガルダンディーが勝手に人間の町に行ったことは容認はしていたが、決して賛成していた訳ではない。だが、それにも関わらず、彼らはそのことをバランに告げようとはしていない。

 これは、バランへの忠誠心とはまた別に、仲間同士の横の繋がりもしっかりとあることを証明している。口ではガルダンディーの行動を咎めはしても、ボラホーンもラーハルトもそれを本気で怒ってもいなければ、それを利用して彼を追い落とそうとも思っていない。

 彼らの間には、明確な仲間意識がある。
 魔王軍のメンバー達が互いの失点や不審な行動をいち早く追求したり、告げ口や抜け駆けも憚らなかったのとはえらい差である。

 隙あらば他者の足を引っ張ろうとして協調性のかけらもない魔王軍軍団長らと違い、竜騎集にはバランを頂点とした上下関係と横の繋がりがはっきりと存在しているのである。
 

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