2 戦力強化(1)

 

 ハドラー襲来後、ダイ達はパプニカに戻り体勢を立て直している。
 漫画では正確な日数は明記されていないが、実はこの帰還こそがダイ達の旅の中で最も空白の多い時間だ。公式ガイドブックによると、戦いと戦いの間の時間としては最長の7日間の日数が経っているのである。

 この空白の一週間の間で最も精力的に活動しているのがレオナだが、この時点では彼女は自分の目的を仲間達に話してはいない。そのため、ダイ達から見るとレオナは何やら忙しそうだとしか分からなかった。

 その間、敵の動きもなかったため、ダイ達には珍しく自由行動の時間が生まれている。

 貴重なこの時間を、各自、自分の意思で体力を回復させたり、訓練のために時間を費やしていたようだ。

 皆の中で一番最初に、元気いっぱいな様子で登場しているポップだが、実際には彼は一週間の間、ずっと休養していたのではないかと思われる。
 その証拠として、自分の所に訪れたポップに対し、マトリフはこう話しかけている。

マトリフ『ほう、服を新調したのか?』

 この時ポップの着ている服は、ロモス王にもらってからずっと愛用している旅人の服のままだ。だが、バラン戦で片袖がまるまる破けてしまい、マトリフがポップを助けた時点ではその服は使い物にならない状態だった。そのため、マトリフはポップが服を新調したと誤解したらしい。

 実はメルルがポップの服を繕い、さらにはポップの看病等をしていたようだが、マトリフはそのことを知らなかった――つまり、一週間の間、ポップはマトリフとは会う機会がなかった……少なくとも、普段着姿では会わなかったと見て良さそうだ。

 元々、マトリフは一人で洞窟で暮らしていて、ポップが特訓や相談などの用事がある時に彼の元を訪れるという付き合いが基本だ。だが、それを一切しなかった、もしくはできなかったのは、おそらく、バラン戦に続いてハドラー来襲の際にダメージを受けたため、休養していたのだろう。

 すっかり元気を回復したポップは、マトリフの所に魔法の特訓をねだりに来ている。

 レベルアップしたと自負しているポップは、自分の力を試してみたい気分が強いのだろう。この先の戦いについて相談するよりも、まずは特訓を優先している様子だ。

 もっともこの時はマトリフが今日は疲れているからと、すげなく断っている。

 断られたポップは理由を追及するでなく、ただ残念がっているだけだ。魔法の特訓が出来ないのなら、別方向の修行をつけてくれと食い下がるでもないし、レオナの行動に疑問を感じるでもないし、魔王軍の動きについて相談するでもない。

 この時点では、ポップはこの先の戦いについて深く考えていないし、自分の力についても強い魔法を使えればそれでいいと考えている感が強い。九死に一生を得た割にはポップは懲りていないと言うか、思考力が進歩したわけではないのである。思慮深さなど、微塵も感じられない。

 ところで、この直後、パプニカの浜辺に雷撃が落ちている。
 ポップがマトリフとだけでなく、ダイとも行動を共にしていなかったらしいことは、突然聞こえた雷撃に驚いている点からも分かる。

 逆に、マトリフの方は音だけでそれがダイの仕業と見抜き、彼の特訓内容をほぼ把握しているような台詞を言っているのが面白い。
 音の聞こえた方へ走っていったポップは、ダイが砂浜に雷撃呪文を落としたことを知る。

 ダイの方はクロコダインと共に特訓していたようだ。
 以前はポップのサポートがなければ使えなかった雷撃呪文を、紋章の力が無くても使えるまでに成長している。

 ポップと違って、ダイは一週間の間に自分の力を磨く特訓を重ねてきたようだ。

 それも、ダイの目的意識はしっかりしている。
 紋章の力を自分の意思で使いこなす――その意識が、各段に強くなっている様子だ。そのための訓練のサポートや助言役として、クロコダインが付き添っている。

 側にいるバダックは渡している見物人というべきか、それとも宅配人と言うべきか、レオナから預かったダイの新装備を渡している。

 ポップとマトリフが会わなかったように、レオナとダイも直接会う機会がなかったようだ。この時点でのダイはレオナが何かをしていることは知っていても、何をしているかも知らない。

 顔も合わせる機会が無いのだが、レオナがダイを大切に思っているのはバラン戦でなくした彼の装備を一新させていることからも窺える。
 パプニカの特殊な布と法術で編まれた服は丈夫さと軽さを備えた逸品だし、ダイのためにレオナは再びパプニカのナイフを差し出している。

 ダイ自身の力に耐えきれずにバラン戦で失ったパプニカのナイフだが、実はそれが三刀あったことがここで明かされている。

 太陽、海、風を象徴とする色違いの宝玉のついた三刀が存在し、ダイがレオナからもらったのは太陽のパプニカのナイフ。海を象徴とするナイフは亡き国王が持っていたため行方不明であり、たった一つ残った風のナイフをダイへ託しているのである。

 どう聞いても国宝級の品を、ダイに授けるとはたいした信頼と言える。なにしろダイはパプニカのナイフを壊してしまっているのだ、最悪、破壊されてもいい覚悟がなければ渡せないだろう。

 ところで、細やかなシーンではあるが、ポップがパプニカのナイフを一瞥して宝玉の色が違うと指摘している。観察眼が高いのか、ポップは間違い探しのような些細な点に注目するのが得意なようだ。この時点では目立っていないが、これは明らかな長所の一つだ。

 装備を身につけたダイは、紋章の力を発動させている。
 感情を高ぶらせなくとも、自分の意思だけで紋章を発動させたダイは、クロコダインが空中に放り投げた岩を追い、飛翔呪文で飛び上がっている。ポップでさえ目を見張る速度で飛び、素手で岩を砕くダイに対して、クロコダインが獣王快進撃を放つ。

 この攻撃は明らかにダイの反応を見るための攻撃であり、避けることも可能だっただろう。だが、ダイは竜闘気でいとも容易くこの攻撃を受け止めている。

 ダイもまた成長期真っ盛りであり、ぐんぐん伸びていく自分の力に手応えを感じ、試してみたい気持ちが強い。これまでと違い怒りの感情に左右されず使えるようになったことも、竜の騎士の力を振るいやすくなった一因かもしれない。

 しかし、いいことばかりではなく、意図的に使う竜の騎士の力はエネルギー切れが早い。

 これまでは無意識状態で使っていただけに、その都度、必要な時にだけ竜の紋章が自然に浮かび上がっていた。だが、拳に意識を集中させて発動させる今のやり方では、常に全力でエネルギーを消費しているも同然で、その文章網が激しい。

 その結果空中でエネルギー切れを起こし、ダイは突然落下してしまう。……まだまだ、未熟さの目立つ勇者っぷりである。

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