3 戦力強化(2)

 

 ダイの特訓の後、彼らはパプニカ城に戻って何があったのかを皆で話し合っている。この時、ダイはまだたんこぶを作った姿のまま……つまり、手当てもしていなかったりするのだが、これは彼らがさっきのアクシデントを単なる訓練と捉えているからだろう。

 ごくありきたりの訓練だからこそ、わざわざ薬草を使ったり、レオナや三賢者に頼んでいちいち手当てするまでのものではない――彼らの認識は見事に共通されている。

 意識が一致されているという点では、ダイの特訓についての話し合いも同じだ。一見単なる雑談のように見えながら、実は立派な作戦会議になっている。
 お互いの戦力状況を交換し、その問題点を洗い出すという作業をごく自然に行っている。

 その中で、際立っているのがクロコダインだ。
 彼はダイの紋章の力の長所と短所を正しく理解し、適切に問題点を指摘している。

 このような発言は得てして、他人を非難したり貶したりしているように聞こえがちなのだが、クロコダインの場合はそれがない。年長者特有の説教臭さや嫌味が無く、むしろダイを褒めて認めている様な印象を与える点が、クロコダインの人徳と言うべきか。

 そして、ここではっきりと分かるのが、ヒュンケルの精神的な成長だ。
 ヒュンケルは部屋の隅でずっと読書に勤しんでいるが、仲間達の話に関心を持っていないわけではない。と言うよりも、ヒュンケルは読書以上に仲間達の言動に強い関心を持っていると言える。

 その場にいる仲間達の会話をきちんと聞いた上で、クロコダインの話を補足する形でダイの武器不足について指摘している。

 自分の力を活かしきれる武器が、ない――この事実に、ダイ以上に悔しそうな表情を見せているのが、ポップだ。

 ベンガーナに買い物に行った時もそうだが、ダイには物欲が薄い。強力な武器があった方が有利だとは分かっていても、それがどうしても必要だというイメージができていないのである。

 むしろ、ポップの方が武器の必然性を強く意識している。
 バランの持つ真魔剛竜剣のような剣があればと言ってはいるが、正直、これは高望みが過ぎるというものだろう。なにしろ、真魔剛竜剣が欲しいのならば、現在の所有者であるバランから力尽くで奪うしかないのだから。

 それに比べれば、ダイの方が遙かに現実的で妥当な思考をしている。
 真魔剛竜剣以外にも竜の騎士が使える武器が無いのかと、呟くダイは最強の武器に拘る気配が無い。手に入る範囲の物を求めているのである。

 このダイの言葉が呼び水になったのか、バダックがロモスの武術大会の商品が覇者の剣だと教えてくれる。
 残念ながらと言うべきか、ダイはこの剣の話は全くの初耳だったらしく『はしゃのつるぎ!?』と問い返しているのが、微笑ましい。

 それとは対照的に、ポップの方は覇者の剣と聞いて即座に『そんなの伝説だろ』と言い返しているのに注目して欲しい。バダックは『かの有名な覇者の剣』と言っているだけなのだが、それを聞いてポップは即座にその剣の伝説に思い当たったようだ。

 ポップがその知識をアバンから教わったのか、それとも武器屋の息子だったからこそ仕入れた知識なのかは定かではないが、ポップが意外な雑学に長けていること、そしてその知識を必要な時に即座に思い出せる特技があることは記憶にとめておきたい。

 知識の上では差がある二人だが、この後の決断、行動は思いっきり似通っているのが面白い。

 いきなり乗り気になったダイとポップは、まず、まっさきにエイミのところに駆けつけている。そこで大会のルール、日時、場所を確認するやいなや、急がなければとそのまま飛び出している。

 場所はロモス城近くの特設闘技場なのだが、ポップはロモス城になら瞬間移動呪文で行けると断言している。移動呪文と飛翔呪文を覚えたポップの機動力が、存分に発揮されているシーンだ。

 移動可能範囲だと知った途端、行こうと誘うダイに二つ返事をしたポップはそのままダイの腕を握りしめ、二人そろって元気よく走り出している。そのまま城の城壁から飛び出す勢いで走り、それに飛び上がっているシーンは見事なぐらいに息があっている。

 瞬間移動呪文は停止状態からでも発動するはずだが、ポップは多少の助走があった方が使いやすいらしい。だが、そんな説明など一切されていないのに、まるで打ち合わせでもしてあったかのように一致した行動をとれる所が、ダイとポップの強みだ。

 以心伝心とでも言うのか、言葉にしなくとも互いの意図を通じ合えるのである。

 それはそれで素晴らしいことだが、しかし、この二人は互いの息があっているせいでその他の仲間達との意思疎通を多少おざなりにする嫌いがある。
 ダイやポップには、どうもきちんと行く先を誰かに告げてから出掛けるという考えが薄そうだ。

 ただ、ダイの方は天然っぽい。元々、狭い無人島で暮らしていたため行く先を告げるという習慣自体がないか、あるいは出掛けるのに夢中でうっかり忘れた可能性が高い。

 が、多分、ポップの方はある程度は確信犯だろう。
 ベンガーナデパートに行く際には、予めマトリフの許可を求めに行ったポップなら、勝手に出掛けるのが迷惑な行為だと理解できるはずだ。

 本来ならば、一度みんなの所に戻って許可を求めるなり、最低限でも出掛けてくる旨を告げるのがマナーというものだろう。

 しかし、ポップは一度仲間達の所に戻るどころか、伝言すら伝えずにそのまま行ってしまった。その場にエイミが残っているから後は何とかしてくれるだろうと言う甘えが感じられる。

 穿って考えるのなら、『みんな』の中にヒュンケルがいるのが分かっているだけに、彼にいちいち許可を取るのが嫌で戻らなかった可能性もありそうだ。



《余談・セクシーな隠し場所♪》

 考察上はまったく関係の無いシーンではあるのだが、エイミがロモス王国武術大会のチラシを取り出す際、彼女はなんと胸元からすっと取り出している。

 エイミの着ているのは賢者の服……チューブトップのワンピースという、実にセクシーで露出度の高い服なのだが、その胸元に紙を挟み込むという発想からして大胆にも程がある。

 まあ、確かに賢者の服は見た感じポケットなどはないので、ちょっとしたメモ程度をしまいたいのなら胸元というのも分からないでもないのだが、それにしても直に肌に密着させる形で紙類をしまうとは大胆すぎる。

 セクシーキャラとして有名な、○パン三世の峰不二子が小物をとりあえず胸の谷間に隠すという癖があったが、エイミにも同じ癖があるのであろうか? それとも、和装の女性が懐に小袋をしまう習慣があったように、賢者特有の習慣だったのか?

 作品本来のテーマとはぜんっぜん関係が無い割には、色々と気になって追求したくなる謎である(笑)

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