5 戦力強化(4)

 

 ロモスに向かったポップは、ロモス城門前に着地している。しかし、この着地は場所の正確さはともかくとして、かなり派手なものだ。見張りの兵士が驚く程の勢いで、土煙が立つほど突っ込んでくる有様である。

 ダイがすぐに跳ね起きて行動しているおかげで目立ちにくいが、ポップの瞬間移動呪文にはどうにも着地に難がある。実際、ポップ自身も自分の移動呪文にダメージを受けてすぐには動けない描写は、しょっちゅうある。

 元々、ポップ自身も着地は苦手と公言しているのでその点は不問にして、ここはポップの判断力の確かさを挙げておきたい。
 ロモス城に行けると断言した通り、ポップはロモス城門前に出現している。この場所選びに、彼の判断の高さと意外なモラルを感じる。

 ポップがその気ならば城の中に直接飛ぶことも出来たはずだが、彼らの目的地は武術大会の行われている場所……城の近くにある特設会場だ。ロモス城は、あくまでそこに行くための目印であり通過点に過ぎない。

 だから、城内に入る気は最初からなかった。しかし、それでいてポップは城門前に行くことには拘った。城門前ならば見張りの兵士がいるから、彼らに会場の場所を聞くことができる――ポップは最初からそう考えていたのだろう。

 しかし、いきなり城門前に魔法で出現する、なんてやり口はほとんどテロリスト並の突発的な行動である。

 ポップは目的のためなら手段を選ばないし、もっとも楽な手段を選びたがるが、もう少しは『他人の迷惑』についても考えた方がいいのでは無いかと思える。

 ロモス王と面識を持っているダイとポップは、正規の手段を通せば彼を通じて大会への参加を望めたはずだし、逆に兵士達に頼らなくてももっと穏便に上場を得ることも出来たはずだ。

 だが、ポップは最短時間に拘っている。
 予選開始が正午までと知ったポップは、時間に間に合わせることを最優先しているのである。

 ポップがエイミにチラシを見せてもらったのはほとんど一瞬と言ってもいいほどの短時間なのだが、それにも関わらず必要な情報を一瞬で読み取ったポップの観察眼や集中力は称賛に値する。

 ――が、彼はやはり詰めが甘い。
 予選は正午からでも、その受付は一時間前だという情報は見逃しているのだから。受付係に断られ、しょんぼりしているダイとポップの姿はある意味で見物だ。

 ここで面白いのは、ダイとポップの性格や正義感の差がはっきりと分かるところだ。

 覇者の剣の話を聞いて以来、ダイもポップもそれを正規の手段で手に入れようとした点は共通している。レオナやロモス王へ働きかけて譲り受けよう、なんて発想は欠片も浮かばない辺りがお子様と言うべきか、単純思考だ。

 戦いに参加さえすれば勝ち取れると、すでに決定事項のように思い込んでいる辺りが強気と言えば強気だ。

 ついでに言うのなら、ダイもポップもどちらが剣を手に入れるのかに拘りがない。二人とも参加する気満々なのに、お互いが敵対する可能性など微塵も考えてはいない雰囲気がある。

 つまり、ダイにとってもポップにとっても、お互いをライバルとは全く認識していないのである。彼らにしてみれば剣を手に入れたいだけであり、その過程で仲間と腕試しをしてみたいとは思わないらしい。

 勇者と魔法使いというステータスが離れた職業だからこそかもしれないが、特にポップは戦いに関する要求が薄い。
 ポップにとって武術大会参加は飽くまで手段で、目的ではないのだ。そのせいか、関心を失うのも早い。

 うまくいっている間はポップは勢いに任せてぐいぐい進んでいるが、少し躓いた途端にやる気をなくしている。受付を断られた途端、ふて腐れてその場に寝っ転がって動かなくなっているのだから。

 さっきまであんなにやる気だったのが嘘のように興味を無くし、剣を手に入れる手段を考えるどころか、武術大会そのものがつまらないとそっぽを向く始末だ。

 連載初期、アバンがポップの欠点として語っていたように、ポップは自分の想定を超えた事態というのに極端に弱い。思い通りに行かないのが嫌だとだだをこねる子供のように、拗ねてやる気をなくしてしまうのである。

 それに比べると、ダイにはブレがない。
 ポップに比べると、ダイは大会のルール把握もしていない。まあ、それは難しい字が読めないと言う欠点がある以上仕方の無いことではあるが、贔屓目に見てもダイはポップに従ってついてきている感が強かった。

 しかし、ダイの覇者の剣への関心は、実はポップ以上に強い。
 ポップが諦めきってやる気をなくしている中、ダイはダイなりに剣を手に入れる方法を考えている。

『優勝した奴に挑戦して、その場でやっつけちゃうってのはどうかな?』

 などと、笑顔で言ってのけるダイはどうも『正義』という認識が甘い。いきなりテロリズムな移動をしたポップもポップだが、ルール無視した力推しが真っ先に思い浮かぶダイもダイだ。

 実際、ポップがこの意見に賛成したのならば、ダイはそのまま強引に突っ走った可能性が高い。
 だが、幸いと言うべきか、やる気があろうがなかろうがポップの倫理感は至って常識的ではある。

『それが正義の勇者のすることかっ!!』

 ポップの中では、正義や倫理感は戦い以上に重要なものと認識されているのだろう。
 もっともこの感覚は一般的ではあるが、あまり戦いに向いている思考とは言えない。平穏時と緊急時では、求められる物が違ってくる。

 緊急病院で、来院した順番ではなく治療の必要度から看るべき患者を決めることをトリアージと呼ぶが、これは災害時や事故現場などでも重要視される問題だ。

 誰に何が必要かを的確に判断し、被害を最小限に抑える――非常時において必要な思考の一つだ。

 大局的な目で見るのなら、覇者の剣はダイの手に渡るのが一番望ましい。
 今現在、もっとも人間側で成果を上げている勇者であり、この先の戦いでもメインとなる勇者の武力強化は他の何を差し置いてでもやっておくべきだ。そのためにならば、多少は強引な手段を使うのも止む得ないと言える。

 もし、この先の激戦をきちんと予測できていたのなら、ポップはこの時、手段を選ばずに剣を手に入れる方法を考えた方がよかった。ダイの作戦は無茶とは言え、ダイやポップにとっては実行不可能ではない。

 ロモス王に話を通し、根回しをした上で、参加者に実力差を見せつける形で勝利すれば済むことだ。

 もしもの話だが、レオナがここにいたのならばその方法を選択しただろう。ベンガーナデパートでドラゴンキラーを買う決意を瞬時に固めたように、レオナの判断は早い上に、的確だ。

 が、ダイにもポップにもレオナほどの判断力は無い。
 やる気はあっても、ダイはポップの意見を押し切ってまで実行する気はない。それどころか、ダイはポップに対して驚く程気を遣っていると言える。

 ダイは武術大会そのものに興味があるのか、せめて戦いを見ていこうとポップを誘っているのに、ポップの方はどうせ田舎の武術大会にはろくな奴がいないと決めつけて、見向きもしない。

 そのくせ、可愛い女の子が出場しているという話を聞いた途端、ころっと気を変えて見物する気になるのだから、わがままにも程がある。

 だが、ダイはそんな態度を見せるポップに対して、全く腹を立てる様子が無い。と言うより、そんなポップに怒るどころか離れようともしない。剣や戦いへの関心度よりも、ポップの側にいることの方が、明らかにダイにとって優先事項なのだ。

 ポップのわがままさに、苦笑して肩をすくめているダイはひどくリラックスしている様に見える。
 これはポップが蘇生直後だったというのも関係しているかも知れないが、ダイのポップへの友情が垣間見えるシーンだ。

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