33 人間達の情勢(3)

 

 翌朝、ダイ達はパプニカに帰るために決勝進出者達や城の兵士に見送られ、旅立っている。
 みんなに手を振りながら森の方へ歩いているダイ、ポップ、マァムの三人だが、この別れのシーンはちょっとしたサービスというか、演出に近い。

 と言うのも、彼等はパプニカに帰るには瞬間移動呪文を利用するので、その気になれば一瞬で移動できる。瞬間移動呪文は空が見えていて遮蔽物のない場所と言う条件下ならばいつでも使えるので、城を出てすぐに飛んでいってもよかったはずだ。

 むしろ、それをせずに足で歩いて移動する意味はない。
 ただのんびりしたかっただけとか、名残を惜しむなどの情緒的な理由があったとも考えにくい。

 なにしろダイもポップも、性格的に思い立ったらすぐに行動する方だ。武術大会に参加する時も仲間に挨拶もせず、そのまま飛び出したことを考えれば、このゆっくりとしたパプニカへの帰還は少々不思議に思える。

 彼等がこんなにもゆったりとした行動を取っているのには、理由があるように思える。

 だが、それを言い出したのがダイだとは思えない。
 ダイは、他人の意向を大事にする傾向がある。

 ダイの思考は来る物は拒まず、去る者は追わずに近い。協力者は喜んで受け入れるが、自分から誰かに対して仲間になって欲しいと積極的に頼むことは、まずない。

 同時に、ダイは協力せずに立ち去る者を引き留めることもない。初期の頃、ポップが逃げ出しても怒らなかったように、ダイは至って寛大な性格の持ち主だ。

 つまり、ダイにしてみればチウを仲間にしたいと積極的に誘う理由はないし、本人が言い出さない以上誘う気も無かっただろう。

 では、マァムはどうだろうか。 
 マァムはこれが正しいと思ったことははっきりと言うし、正しいことのために行動するのは当然だと考える傾向が強い。

 彼女は戦うべき立場の人間が何もしないことを、黙ってみていられる性格ではない。逃げ癖のあった初期のポップを手ひどく怒り、生体牢獄に閉じ込められた決勝進出者達がやる気をなくしたのを見て叱り飛ばしたように、ちゃんとやりなさいと初対面の相手でさえ平気で怒鳴りつける。

 だが、マァムはその反面、保護すべき立場の者には慈悲深い。
 ネイル村にいた頃、一人で魔の森に行くなんて無茶をした女の子を責めなかったように、彼女は守るべき相手に対してはとことん甘くなる。自分が戦い、守るべき相手を守ればいいと言う考えだ。

 この思考から察するに、どうもチウはマァムにとっては仲間でさえなく保護対象として見ているようだ。マァムはチウに共に戦うべきだなどと一言も言っていないし、そもそも誘おうとさえ思っていない様子だ。

 子供が親元にいるのが当然だと思うように、未熟な弟子が師匠の元にいるのは当然だと思っている可能性が高い。

 つまり、ダイにとってもマァムにとっても、チウは仲間と言うよりは保護対象に近い存在であり、共に戦う仲間として期待していなかったように思える。
 だが、ポップだけはチウの仲間入りを予期していたのではないだろうか。

 今回の戦いで、ポップはチウと共闘を組んだ。正直に言えば、チウは実力ではダイ達には遙かに及ばない。しかし、ポップが評価したのはチウの実力ではなく、彼の精神の方だ。

 怖くてたまらないのに逃げ出さず、仲間を決して見捨てず守ろうとしたチウの根性をポップは認めている。とは言え、どうしてもチウを仲間に入れたいと希望しているわけでもなさそうだし、元々、ポップはあまり素直なタイプではない。

 ポップが一番仲間入りを望んだ対象は言うまでもなくマァムだが、意地っ張りなポップは彼女を仲間にしたいと直接は誘ってはいない。ダイに軽く相談はした時でさえ、本心を打ち明けてはいない。

 本命のマァムに対してでさえそんな有り様だったのに、なかなかやるなと認めた程度の相手にそう熱心な勧誘をするとも思えない。

 こちらから声をかけるほどではないが、向こうから仲間入りをしてくるのなら構わない――そんな考えがあったからこそ、わざとゆっくりと帰る振りをしながら密かに待っていた……筆者にはそう思えてならない。

 また、ポップがチウの仲間入りを予期していたのではないかと思えるシーンもある。

 ダイ達が旅立つ際、チウは真っ先にブロキーナの許可を得ようとしている。
 本来なら、仲間に入りする一行に先に声をかけて許可をもらってから身内に話を通す方が筋のはずだが、チウはどこまでも自分に自信を持っているようだ。

 自分が仲間入りすると聞けば、ダイ達が歓迎してくれると信じて疑っていないからこそ、彼は何の準備もしていない。
 断られるなど夢にも思っていない様子で、上から目線で仲間入りしてやってもいいと告げている。

 それを聞いたポップの反応は、素早い。
 ムッとした顔をしたかと思うと、無言のままダイとマァムの肩を抱いて瞬間移動呪文で飛び去ってしまう。

 ここでのポップの態度は、からかいの要素が強い。
 ポップがその気になれば一瞬でパプニカにでもどこにでも飛べたはずだが、ここで飛んだのはごく短距離にすぎない。

 チウの姿がよく見える近くの森の中の木の上に降りているのだから、最初から本気で立ち去る気などなかったようだ。
 ポップのこの魔法の使い方には、ずいぶんと余裕が感じられる。チウの申し出に対して、どう反応しようかある程度予想していたのではないかと思える所以だ。

 老師に言われたことが身になってないから少しからかっただけだと笑うポップは、少しも悪びれた様子もない。と言うより、実際に悪気もなかったのだろう。

 ムッとした表情を見せたほど、ポップはチウに対して腹を立ててはいない。
 チウに少しばかり意地悪をしたが、それに対してチウがどう反応するのか興味津々なのだろう。木の上だなんて着地しにくい場所に移動したのは、明らかにチウの反応をよく見るためだ。

 悪戯の結果を確かめようとする子供のように、ポップがこのちょっとしたからかいを楽しんでいるのは明らかだ。チウを本気で突き放す気などない。
 それが分かっているせいか、マァムも軽くポップを咎めてはいるが本気で怒っている様子もない。

 一方、置いていかれたチウは、ダイ達がそんな近くにいるとは知る由もない。待ってくれと叫びながら、必死に光の軌跡を追いかけている。魔法も使わずに走って追いつくなどどう考えたって不可能なのだが、チウに諦めるという選択肢はない。

 さっきまでの余裕や強気もかなぐり捨て、仲間に入れて欲しいと本音をさらけ出して必死にダイ達を追いかけている。

 その姿を、ダイは興味深そうに見つめている。
 チウの屈託の無さや真っ直ぐさは、ダイの目にはずいぶんと強い印象を与えたようだ。

 自分が人間でないことに悩んでいたダイにとって、怪物である自分を恥じず、物怖じせずに人間と関わろうとするチウの振る舞いに、少なからず救われるものがあったに違いない。

 ダイの笑顔を見て、ポップとマァムが互いに目を見交わし合っているのが印象的だ。

 父親に認められたい一心で戦っていたザムザとの戦いで、同じく父親への確執を抱いているダイが憂い顔を見せたのを見ていただけに、ポップ達はダイの心配をしていたのだろう。

 そのダイが本来の明るさを取り戻したことを嬉しく思ったポップは、チウを仲間として受け入れる台詞をここで初めて口にしている。
 最初から想定していただろうに、自分から提案せずにチウの本気具合や仲間の反応を確かめてからやっと本音を口にしたわけだ。

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