36 剣を探して(1) |
テラン王フォルケンは、城で休んでいるとアポロが告げている。 その点、やはり城の方が客室と言う点では優れているのか、フォルケンが休んでいる部屋は賓客に相応しいゆったりとした造りであり調度品も豪華だ。 テラン城で面会した時は普通に王座に座っていたのだが、病人にとって移動は身体に触るものだ。だが、フォルケンはそれを承知の上で世界会議に参加するためにパプニカにやってきた。 彼のこの決意は、称賛すべきものだ。 しかし、フォルケンは短い間に考えを変えている。 テランで彼はレオナと直接会い、魔王軍と戦う彼女の決意を聞いているが、それが大きく影響したのは間違いなさそうだ。また、テランで神と崇める竜の騎士の親子の戦いを目撃したことも、影響の一部となっているだろう。 だが、筆者が思うに、フォルケンの変化は単なる心変わりではなさそうだ。 この言葉から察するに、フォルケンが優先しているのは国民の安全だ。彼はそれが民にとっては最善と信じて、武器の扱いを制限した。 諺でも『君子は豹変す』と言うが、まさに賢い人ほど自分の過ちを正すことに躊躇いを持たないようだ。 ただ、心ばえは立派でもテランは人口も少なくそもそも国情的に武器を揃えることもできない。 よって、フォルケンの世界会議への協力は、彼自身の知識を分け与えると言うものだ。そのため、フォルケンは勇者一行であるダイ達にも惜しみなく自分の知る知識を教えてくれる。 彼の説明は、的確で分かりやすい物だ。 彼は覇者の剣より強力な剣は、おそらくこの地上にはないと断言している。 覇者の剣は伝説の金属オリハルコン製だが、この金属は人間が作ったのではなく神々が作り上げた物であり、人間には僅かにしか与えられなかった。そのわずかの量を使って、伝説の武具が作られたのだと言う。 つまり、技術ではなく材料の問題で伝説の武具を上回ることはできないとフォルケンは判断したのだ。 理路整然とした説明なだけに、ポップやマァムは事実を早々に飲み込みがっかりとするばかりだが、ダイはここでずいぶんとしつこく食い下がっている。思えば、ダイはベンガーナデパートに向かった時点からずっと武器不足に悩まされ続けていた上、激戦の中で全力を出せないジレンマも味わい続けていたのだから、必死にもなるだろう。 そんなダイに対して、一度は知らないと答えかけたフォルケンだったが、一つの提案をしてくれている。 現代の日本では占いと言えば、女の子の趣味やお遊びと考えられがちだが、中世ヨーロッパでは有名な占い師と言えば国家中枢に食い込めるだけの力が合った。 だが、面白いことにフォルケン自身『いささか非現実的ではあるがよい方法がある』と言っているので、占いを絶対視はしていないようだ。 それでも何かの突破口になるかもしれないと考え、使える手段は躊躇なく利用する辺り、フォルケンはなかなか柔軟性の高い思考回路を持っていると言えよう。
《おまけ・オリハルコンについて》 作中の説明によると『オリハルコン』とは神の作り上げた金属であり、そのうち僅かなものだけが人間に与えられたとされている。 ここで気になるのは、オリハルコンの行方である。 幼い子が危険な物を持とうとすれば、止めるようなものだろうか。いずれにせよ、神々の意図は分からないがオリハルコンが人間達にとって近しいものではなかったことは事実だ。 ならば、残りの大半のオリハルコンは一体、どこに振り分けられたのだろうか? オリハルコンは硬さや耐久力が並外れているので、経年劣化で自然消滅する可能性は低そうだ。となると、次々と持ち手を変えながら伝承されていると考えられる。 人間世界では価値のある宝物は財力や武力を備えた権力者の元に自然と集まるものだが、オリハルコンもどうやらそれに近い扱われ方をしているらしい。 面白いことに、後に大魔王バーンがオリハルコン製品の所持者だと判明している。バーンが神々への反抗者であることを考えれば何とも皮肉な話だが、今となってはオリハルコンは他の世界よりも魔界に多く存在しているのかもしれない。
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