37 剣を探して(2)

 

 フォルケンが呼び出した占い師は、ナバラとメルル……ダイ達にもおなじみの二人である。
 いそいそと占いの支度を始めるメルルは、ずいぶんと楽しそうだ。この時、彼女は本音を口にはしていないが、内心ではひどくはしゃいでいる。

(…うふふっ、早速ポップさん達の役に立っちゃった。無理言ってついてきちゃって、よかったわ…)

 メルルにとって、力を貸してあげたいと望む相手が王や勇者ではないのがよく分かる一言だ。

 メルルの思考の中心は、飽くまでポップにある。
 肝心のポップが勇者に力を貸しているからこそ、メルルの行動が勇者に力添えをするためにはどうすればいいか、と言う考えに基づくものになっている。

 ここで感心するのは、メルルの読みの的確さだ。
 ダイ達がテランから去る際、メルルはポップの服の修理などの手助けはしたものの、仲間として一緒について行きたいという意思表示はしなかった。

 実力的に彼等について行けないと思ったのか、あるいは単に怖じ気づいて申し出ることができなかったのか定かではないが、どちらにせよメルルは一人の少女として、一途に恋だけに夢中になるほど積極的にはなれなかった。

 だが、かといってメルルはポップを諦めはしなかった。
 メルルには、自分から意思を押し通す積極性はない。だが、自己主張しない彼女は状況を静かに見つめ、自分が動くべきタイミングを待つのを非常に得意としている。

 だからこそ、チャンスが巡ってきた時にはそれがどんなに可能性が低い物であっても見逃さないし、潮の流れに合わせて上手く乗ろうとする。
 今回の世界会議は、メルルにとっては絶好のチャンスだった。

 フォルケンが占い師を補佐役として連れて行くことを望んだのか、あるいはメルルから申し出たのかは明確にされていないが、ナバラも同行しているところを見ると、王より高名な占い師であるナバラに協力要請があり、メルルがそれに乗ったと考えた方が自然に思える。

 と言うのも、ナバラ自身は戦いへの関与を徹底して嫌っており、自分から積極的に助力を申し出るとは思いにくいからだ。事実、ダイの剣に関する占いもメルルに任せっきりであり、ナバラはなにもしようとしてはいない。

 だが、以前のフォルケンとの面会時の会話からナバラが自国の王に対して敬意を持っているのは確かなので、王命を無碍にはしまい。そこに、孫娘が熱心に訴えてきたのなら、しぶしぶながら協力はしてくれそうだ。
 
 しかし、客観的に、そして疑惑の目で見つめるのであれば、いくら高名で王が信頼を寄せる占い師の孫とは言え、自ら進んで世界会議の場についてきたがるとは怪しまれそうな行動なのだが……。

 暗殺者とまで思われなくとも、スパイと思われても文句も言えない行動だ。 そこまでいかなくとも、王の旅行に一緒に行きたいと申し出るのは内気な少女にとってはなかなか勇気が要りそうである。

 だが、メルルにとっては、ポップやダイ達に直接自分の気持ちを訴えるよりも、遠回りながらも王や勇者が占い師を必要とする機会に居合わせるように努力する方が、気が楽だったのだろう。

 これは正直、あまり確実性のある賭けとは言えない。
 いくら故郷テランでは評判の高い占い師とは言え、世界の王達にもナバラの名声が届いているかどうかは不明だし、ましてメルルはその孫娘に過ぎない。彼女が世界会議の場で必要とされる可能性はごく低い。

 だが、世界会議のためにパプニカに行くことで勇者に直接は助力できなかったとしても、ポップに再会できる可能性は大きく跳ね上がる。
 メルルの密かな賭けは、見事に勝利を収めたわけだ。

 思っていた以上にポップの力になれることを喜びながらも、占い師としてダイに力を貸すメルルは真剣そのものだ。
 これまでは感知能力や自動的に授かる予言の力で何度か勇者一行に力を貸してきたメルルだが、自分から占いをするのはこれが初めてである。

 メルルが行った占い方法は、古代占布術と呼ばれるもので捜し物を具体的なキーワードで現すと言うものらしい。小さな台の上に布を敷き、ごく小さな松明から炎を落としてその燃え方から言葉を読み取るという、ちょっと変わった占い方法だ。

 占いのやり方は様々な方法があるものだが、基本的に占いと言うものは占ってもらう人自身の潜在意識を利用するか、占い師の能力を利用するか、である。

 大抵の場合、占いをしてもらう人間は悩みを抱え込んでいる。そして、人間というものは自分自身の悩みに対して常に思い悩み、答えを出そうと模索しているものだ。

 たとえば恋占いで好きな人に対してどうすればいいか分からない場合でも、実際には本心ではすでに答えが出ている場合が多い。しかし、感情が邪魔をして自分では正解が見えなくなっている場合がほとんどである。

 優れた占い師は、占ってもらう人とのちょっとした会話のやりとりや表情から本人の望みを読み取り、それを占いに反映させる。
 占いではなく降霊術の一種になるが、こっくりさんなどもこの無意識の潜在意識を活用した方法だ。

 しかし、メルルの占い方法はどうやら占ってもらう人の潜在意識とは無縁のようだ。
 ダイ自身がまったく剣の手がかりを知らない状態で、彼が全然知らない「ランカークス」と言う名を呼び出したのだから。

 占ってもらう人間の意識を媒体にしてはいるが、占いそのものに関しては100%メルルの能力に寄るものなのだろう。布の燃えている部分から文字を読み取っているのもメルルだけのようだし、水晶占いの時のように万人に分かりやすい映像として表現できるものではないらしい。

 しかし、メルルの占いは飽くまでダイの望む剣に関する言葉を探り当てるだけで、それ以上の力はないようだ。

 ランカークスという言葉の意味を教えてくれたのは、それを聞いていたテラン王だ。自国の付近とは言え、小さな村の名前や場所まで正確に記憶している彼の記憶力は、たいしたものだ。

 だが、それも具体的な地名だと分かるだけで、そこに行けば確実に剣に繋がる手がかりがあると確信できる類いの予言ではない。

 まさにキーワードを与え、行く先を決めるだけの効力しかない占いのようだ。しかし、ただこれだけの手がかりにもかかわらず、誰もが不満一つ言わずにすぐさまランカークスに行く方法を模索し始めたのだから、メルルは占い師としてこの上なく信頼されたと言える。

 事実、マァムはメルルの力を見込んだのか、ランカークスに一緒に来て欲しいと頼んでいる。マァムとはこれが初対面なのだから、バラン戦での実績とは無関係に信用されたと言えよう。

 一人の少女としてではなく、占い師として勇者一行に協力しようとしたメルルの決意は、見事に報われた。――ただ、恋愛的な意味では少しも前進はしてはいないようだが(笑)
 

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