38 剣を探して(3)

 

 ここで注目したいのは、ランカークスの名を聞いた途端に動揺し、落ち着かなくなっているポップの動向だ。

 名を聞いた瞬間から明らかにギクッとしているポップは、思いっきり心当たりがあると自白しているようなものだ。しかし、素直にそれを言いたくはないらしく口を閉ざしている。

 が、仲間達がランカークスにどうやって行けばいいのかを話し合いだしたのを聞いてからやっと、そこは自分の生まれ故郷だからルーラでいけると打ち明けている。

 しかし、故郷だと打ち明けながらも、ポップは家に帰りたくはないと言う意思表示を前面に出している。

 家出してアバンの押しかけ弟子になったポップにとって、故郷は手放しに懐かしいと言える場所ではない。父親の反対を押し切って家を飛び出したポップにとって、家は敷居の高さを感じる場所になっているようだ。

 仲間のために協力はしているものの、決して自分から進んでやっているのではないとばかりにしぶしぶと協力する態度は一貫して、実際にランカークス村についた時も聞き込みは任せたと最初は村はずれで待っているから勝手にやってくれと言っていたぐらいだ。

 だが、仲間達に説得され、ポップはいやいや武器屋へと道案内をしているが――はっきり言って、この一連のポップの行動は茶番に近い。
 と言うよりも、ポップ特有の意地っ張りさの現れと言った方がより正確だろうか。

 なにしろ、ポップは故郷に帰りたい、親に会いたいという気持ちを抑えきれなかったのだから。

 ポップにしてみれば、故郷の村には小さな武器屋が一軒しかないのは嫌と言う程分かっていたはずだ。なにしろ、その当の武器屋の息子なのだから。
 故郷の村で伝説級の剣を探すつもりなら、武器屋に関わらないわけにはいかない。

 メルルの口からランカークスの言葉が出た瞬間から、ポップはその成り行きまで察していたのだろう。

 なのにポップは情報を秘匿することなく、それらの事情まで口にしている。
 だいたいのところ、もしポップが本当に実家に関わりたくないのならば馬鹿正直に家出をしたことや、父親が怖いなどと言う個人的な事情まで打ち明ける必要はない。

 ランカークスに行けることだけを告げ、ルーラでの移動だけに協力すれば済む話だ。武器屋に行くのもポップ抜きでダイ達だけ行くのならば、そこがポップの実家だとバレる可能性は格段に減る。

 まあ、バレてしまったとしても、瞬間移動呪文を使えるポップならば徹底して逃げるという作戦は使えるのだから、それを選択しなかった時点でポップの本心は透けている。

 今回はダイやマァム、それにチウまでもがポップに協力を求めたのでしぶしぶ同行すると言う体を取っていたが、もし仲間達からの誘いが全くなくてポップの希望通り村はずれで一人で待っていることになったとしても、結果は同じだっただろう。

 その場合、ポップは実家の様子が気になってこそこそと様子を見に行っていたに違いない。アバンとの修業時代、スペシャルコースに挑むダイが気になってしかたがなかったのに意地を張っていた時と、まったく同じである。つくづく、素直じゃない性格である。

 そんなポップに対し、素直で思ったままに行動するダイは正反対のようで実はすごく相性が良い。ダイはポップの意図や葛藤には気づいていなかったが、ポップの協力が欲しいと素直に呼びかけることで結果的に彼の望んだ方向に後押ししている。

 自宅である武器屋までみんなを案内したポップは、看板を出している母親――スティーヌの姿を見ただけで目を潤ませている。この時、スティーヌが椅子から転げ落ちそうになったのを見て思わず飛び出して助けているが、もしこんなアクシデントがなかったとしてもポップが母親との再会を果たした可能性は高い。

 母親に泣きながら謝っているポップが、本当は親に会いたくて溜まらなかったのは一目瞭然だ。あれ程恐れていた父親との再会の際にさえ、ポップは父親に肩を叩かれて感動しかけている。――が、その次の瞬間、父親から容赦のないお仕置きをくらっていたのだが(笑)

 ちなみに、父親の名前はジャンクと言う。
 ポップをいきなりぶん投げたり殴ったりと粗暴な印象の強いジャンクだが、彼はなかなか冷静な判断力の持ち主だ。

 長い間家出した息子が帰ってきたばかりなら、親としては息子との再会を親子水入らずで喜びたいところだろうが、ポップの両親はその点は驚く程理性的だ。

 スティーヌは彼等にお茶や茶菓子を振る舞って控えめに歓待するだけで彼等の行動には口出ししないし、ジャンクはダイ達から事情を詳しく聞いている。

 この場合、いきなり勇者と名乗る少年がやってきて伝説の剣を探していると言うのだから、突拍子もない話にも程がある。ロモス王やレオナがそうした様に、王族が後ろ盾となって彼等の身分を保障するなら兎も角、ダイ達は何の身分証明も持参していない。

 この時点では、単に息子の友達にすぎないのだ。
 子供の悪ふざけや冒険ごっこと思っても不思議ではないが、ジャンクはダイ達の言い分にきちんと耳を傾けた上で、自分の店にはそんな武器はないと正直に話している。

 その上、ジャンクはひどく公平だ。
 相手が子供と思って侮らないが、子供だと思って甘やかしもしない。特に協力する素振りも見せず、なんなら店を見てみるかと声をかけるだけだ。

 実際に勇者一行が武器を見る際も、何一つ邪魔をせずに好きなようにさせている。

 ここで勇者一行の全員が店内の武器を調べているが、彼等の目利き能力には差があるようだ。まず、最も熱心に武器を調べているのがポップだ。
 ポップはジャンクのすぐ後ろに置いてある棚を調べている。武器屋に限らないが、カウンターの内側に置いてある商品は店にとって重要な商品である場合が多い。

 勝手に客に手に取られては困るが、いざという時にはすかさず客に勧めたい品と言うわけだ。さすがは武器屋の息子と言うべきか、自分の家で貴重品が置いてあるのならどこにあるかは察しているらしい。

 また、あれほどきつくお仕置きされた直後なのに、ポップはごく当然のように父親の側で目利きを行っているのも面白い。ポップは父親を怖がってはいるものの、遠ざかりたいとは少しも思っていないようだ。

 メルルはと言えば、斧を熱心に眺めている。
 このメンバーの中では一番武器の心得がなさそうに見える彼女だが、メルルは意外にも慣れた様子で手斧を手にとって見定めている。

 思えば、メルルの故郷のテランは森の豊かな国だけに、斧は生活で最も身近な刃物なのかもしれない。そう考えれば、彼女が斧の見立てに熱心なのは頷ける。

 マァムは、木箱に入った剣を見立てている。鞘を僅かに抜いて刃の具合を確かめている辺り、マァムもそこそこは剣の見立てができそうな雰囲気だ。
 が、彼女の場合、目利き以前の選択肢に問題がありそうだ。

 マァムが見ている木箱には、何本もの剣や槍、杖などの雑多な武器が無造作に放り込まれている。大抵の武器は種別を揃えて並べて置いてあるのに、その木箱だけは種類も大きさもバラバラな武器ばかりだ。
 まず、この木箱に入っている商品はバーゲン品と考えていいだろう。

 日用品の買い物ならば特売品を狙うのも悪くない生活の知恵だが、今回のように伝説の武器を探すのならば明らかに調べるべき場所ではないのだが……こんな点でもマァムはしっかり者の主婦にはなりそうだとは思うが、戦士には不向きな気がしてならない。

 そんなマァムにピッタリくっついて箱の中を覗きこんでいるだけのチウの目利きは論外として、興味深いのがダイの目利きだ。

 ダイは一行の中では、最もやる気がなさそうに見える。
 ポップを初めとする仲間達がきちんと武器を手にして目利きしているのに対し、ダイはただぼーっと剣を見ているだけのように見える。が、箱にさえ入れないで片隅にポツンと置いてある剣に目を留め、鞘から抜き払ってその剣を見定めている。

 そのダイの動きに、ジャンクは注目している。
 他のメンバーがどの武器を見ていても耳をほじって知らん顔を決め込んでいたのに、ダイがその剣を選んだ時のみ注意を払っているのだ。他の剣とは違う凄みを感じると言うダイの感想を聞いてから初めて、ジャンクはダイが手にした剣が魔族が作った剣だと打ち明けている。

 この行動に、ジャンクの武器屋としての姿勢と誇りが見て取れる。
 強力な武器を欲しがる者のためにわざわざ作って貰った特製品だと説明しているのだから、ジャンクは当然のようにその剣こそがこの店で一番の品だと知っていた。

 だが、彼はそれを自ら説明する気などない。
 むしろ、店で最強の武器を目立たないように無造作に置いておいたとしか思えない。

 骨董商が物の価値の分からない素人よりも見る目のある客にこそ貴重な品を手に入れて欲しいと望むように、ジャンクも武器の目利きもできない客に強力な武器を与えるのを良しとはしていないのだろう。

 そう考えれば、ジャンクがダイが勇者かどうかを疑う言葉を口にしなかった理由も頷ける。王の保証や世間の評判などより、ダイ本人が武器に対して目利きができるかどうか――武器屋にとってはその方がよほど信用のおける証明になるからだ。

 筆者はダイの目利きを見たからこそ、ジャンクは本気で彼等に協力する気になったのだろうと考えている。それまでは武器屋としてただ見守っていただけだったが、ダイの目利きを見て初めて協力してもいいと心を動かしたのだろう。

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