43 剣を探して(8)

 

 ロン・ベルクから、剣作りを承諾する言葉とその効力を保証する言葉を引き出したにもかかわらず、ダイ達は明らかに落胆している。

 まあ、伝説の剣を探さなくてもよくなったとは言え、代わりに伝説の金属を探せと言われたのでは、難度は少しも減じていない。むしろ、手間が増えただけとも言える。
 みんなががっかりする中、気を引き立てるようなことを言ったのはマァムだ。

『……でも! かなりの進歩じゃない? オリハルコンさえ見つかれば剣は作ってもらえることが分かったんだし……』

 常に前向きで、物事の明るい面を見ようとするマァムらしい言葉だ。
 だが、同時にマァムの理想主義とも言える部分が透けてしまった部分でもある。

 マァムは正義感の強い少女であり、正しいことのために行動することこそが正義だと信じている。
 そう言う意味では、理想主義と言うよりは彼女の信念と言う物かもしれない。

 だが、この信念が曲者だ。
 『正義』と言うものは、万人に通用するものではないと言うことを、マァムは今一歩理解していない部分がある。

 神を深く信仰する者が神に必ず救われると信じるように、マァムは正義は必ず悪に勝つと信じている。それは、言い換えるなら正義を行うのならば、必ず助けは得られるという考えに繋がる。

 おそらく無意識だろうが、マァムは正義のための行動をとり続けていれば、必ず正しい結果に結びつくと考えているのだろう。それこそ英雄伝で、英雄の上に奇跡的な偶然と幸運、人々の善意による手助けが与えられるように、正義を為す者には何らかの加護があると信じているように思えてならない。
 
 細かい点だが、マァムは『見つかれば』と発言している。
 『見つければ』と言っているのではない、自分で探す当ても知識もないのに、見つかるという結果のみを期待している、ある意味で他力本願な意見だ。

 本人に行動力があるから目立ちにくいが、マァムには根本的な部分で他人の善意に頼る傾向がある。序盤から垣間見えていた性質だが、転職してもその傾向は変化していないのだ。
 一方、ポップはげんなりした表情でぼやいている。

『……んなもん、どこにあるのか……』

 マァムに比べれば格段にやる気がなさそうに感じる言葉だが、ここにポップの現実主義が現れている。

 ポップはマァムとは対照的に、正義に絶対の信頼を持ってはいない。ついでに幸運にもさして期待を置いていないのか、偶然手に入るとも思ってもいないようだ。

 飽くまで自分達が探すことを前提に考えたからこそ、その難度を想像してげんなりせずにはいられないのだろう。現状把握と方向性をきちんとしているのは、ポップの方なのである。 

 この認識は、ダイも共通して持っている。
 ダイも、オリハルコンが『見つかる』のを期待するのではなく、自分達で見つけなければいけないと理解している。
 だからこそ、ダイが一番先にロモス王の言葉を思い出した。
 
『覇者の剣は以前ダイに授けた覇者の冠と同じ、伝説の金属オリハルコンでできている』

 この言葉はマァムも聞いていたはずなのだが、印象が薄かったようだのか彼女は思い出していない。まあ、この話はダイに一番馴染みがある話なのだから彼が思い出すのが当然と言えるが、ポップもダイと同様に反応しているのに注目したい。

 ポップ自身はダイが冠を授かったのを目撃はしていないはずなのだが、どうやらダイから詳しく事情を聞いていたようだ。

 ダイはレオナの話もポップにしていたのは確実なので、デルムリン島時代の冒険談も彼に話したのだろう。つまり、又聞きしただけなのだが、それでもポップは聞いた情報をきちんと記憶しているし、いざという時に役立てるのが巧いようだ。

 デルムリン島に覇者の冠があると気づくやいなや、ダイとポップは二人ですぐさま瞬間移動呪文で島へと飛んでいる。
 この時の二人の行動力は感心すべき物がある。

 以前、ダイはブラスと顔を合わせると別れが辛くなるからと言う理由で、敢えて彼と顔を合わせずに船出すると言うシーンがあったし、ポップもすぐ直前に家出した実家に帰る気まずさを感じまくっていたはずなのだが、この時は二人ともそんな感傷など微塵も感じちゃいない様子だ。

 ダイにしろポップにしろ、とにかく目的最優先と言うべきか、明確な目標を見つけた途端に感情的な悩みなど吹き飛んでしまうらしい。

 ブラスや暢気に南の島でバカンス気分を味わっていた兵士達が気の毒になるぐらい唐突に島に戻ったダイ達は、再会の挨拶もしないで覇者の冠を探そうと家捜ししまくっている。

 思いっきり自分勝手にも程のある行動だが、これはダイの場合、身内への甘えがあるようだ。
 その証拠に、ダイとポップは冠を手に入れた後、わざわざロモス王の元を訪れ、覇者の冠を剣へ変えることを告げ、了承をもらっている。

 この時のポップの言動から察するに、王への筋を通すことに固執したのはダイのようだ。一度貰った物ならばどう使おうと貰った者の好きにしても構わないと思うのだが、それでもくれた人への恩義を忘れない義理堅さがダイにはあるようだ。

 また、ダイの申し出を快く快諾したロモス王の度量の大きさも、是非特記しておきたい。

 歴史上で、相手に贈与した宝物品を粗略に扱ったからと言う理由で厳罰を与えた王侯貴族の数の多さを考えれば、ロモス王の寛大さは素晴らしい。……日本の将軍家などはまさにこの手のイチャモンがお家芸だったことだし(笑)

 それはさておき、ここまでの手順を踏んでからやっとロン・ベルクは剣作りに取りかかるのだが、そこからがまた長い。
 ロン・ベルクの職人としての拘りが、最大限に発揮されまくることになる。

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