53 勇者一行VS鬼岩城(5) |
ポップの魔法で周辺の敵達を一掃し終わった時、ミストバーンは声を立てて笑っている。 ミストバーンの配下は、暗黒闘気のある限り何度でも蘇ること。肺(ラング)の間で常に暗黒闘気を作り続け、兵を補充し続けることが可能だと暴露している。 このミストバーンの増援のタイミングや挑発は、敵ながら見事だ。 出現した兵力が全てだと思い込み、力の配分も考えずに敵を一掃したポップにとっては、特に絶望感が大きかっただろう。 弱気になりもうダメかもしれないと零しているポップは、抵抗の素振りすら見せていない。強力な魔法を使った反動で身体が動かないのが一番の理由だろうが、ここで注目したいのはポップを除く他のメンバーも動きを止めていた点だ。 ポップは別として、少なくともクロコダイン以下のメンバーは体力的に限界だと言う素振りを見せてはいない。だが、彼等の戦いに対する士気はポップによって大きく左右されている。 ポップが指示を出しながら魔法を連発していた時には、全員が活気づいて戦っていたのに対し、ポップがへこんだ途端、一行も気を落としてしまっている。 ポップが一行のムードメーカーと認識されているのが、よく分かるシーンだ。ポップが動きを止めた途端、残りのメンバーは敵を目前としながら動きを止めてしまっている。 だが、そんな彼等の前に颯爽と登場するのがヒュンケルだ。 さすがは元不死騎団長と言うべきか、ヒュンケルは命を持たないリビングアーマー達の扱いを熟知している。 まずは連中に直接攻撃するのではなく、ポップ達の寸前の地面に攻撃を仕掛けることで巨大な裂け目を発生させた。平坦な地面にいきなり崖を発生させたかのような力業にも恐れ入るが、その結果、リビングアーマー達は全員が見事に裂け目に落ちた点に関しては素直に称賛したい。 最初からリビングアーマー達の足元から下を崩すつもりで攻撃を仕掛けたのは間違いないだろうが、かなりの数がいたはずなのに全員が落ちている。 ミストバーンに命じられたままに敵を倒すために前進するしか能がないのならば、目前の障害物など目もくれないに違いない。 さすがにマァムやチウ、バダックなどには地面を削って地形を変えるような力業は使えないだろうが、クロコダインの獣王会心撃やポップの重圧呪文などの魔法をうまく使えば、ヒュンケルと同様に敵を足止めする障害物を作ることは出来たはずだ。 特にクロコダインは肺の間の存在を知っていたのだから、援軍の可能性をもっと早くから指摘し、効果的な対策を考えて欲しかったものである。 その意味では、ヒュンケルの冷静さは抜きんでている。 この時のやり取りで興味深いのは、ヒュンケルがポップをキーパーソンと見なしていることだ。 この時点では、純粋な戦闘力という点ではおそらくクロコダインの方が上だろう。実際、ヒュンケルは修行に出る前にクロコダインに後を任せ、城を出たはずだ。 だが、ヒュンケルは劣勢となった勇者一行に対して文句を言ったのは、ポップに対してのみ、だ。クロコダインではなく、ポップを仮リーダーと見なしているのである。 ついでに言うのなら、残りのメンバーにポップの回復(おもり)でもしておいてくれと言っているぐらい、ポップの存在を重視している。 むしろ、ポップから見ればヒュンケルの上から目線の言葉は苛立ちを感じるだけのようである。 実際、ヒュンケルの言葉は自信満々と言うか傲慢さすら感じられるものだ。 パプニカ周辺で一人で修行をしてくると言っていた彼は、わずか5日間の間でアバン流槍殺法を習得したようだ。それに自信を得たヒュンケルは、仲間と協力して敵を倒すことなど最初から考えていない。 むしろ実践するのにちょうどいいとばかりに、一人で敵と戦うつもりでいる。 実はこのシーンは、ヒュンケルとチウの初顔合わせのシーンでもある。 また、ヒュンケルはこの場にダイがいないことも気づいているだろうが、それの理由を問うこともない。 ポップやレオナなどは状況判断を重視し、ダイならば仲間の安否を真っ先に気にするだろうが、それらよりも、まずは敵を優先するのはいかにもヒュンケルらしい思考だ。
|