74 ハドラーVSダイ戦2 (3) |
ハドラーの猛攻に、ダイは苦戦を強いられている。 それは、ダイとハドラーの精神状態に大きな差があるからだと思える。 ダイは基本的に誰に対してもおおらかであり、敵として出会ったとしても相手次第で仲良くできるという希有な精神の持ち主だ。この性質が根底にあるからこそ、クロコダインやヒュンケルに対してもすぐに打ち解けることができた。 紛れもなく彼の長所ではあるのだが、長所と短所は紙一重。 魔王軍時代のヒュンケルに戦いを挑まれた時もそうだったが、相手が純粋に戦いを望んでぶつかってきたとしても、それだけではダイの闘争本能に火はつかない。 ダイが戦いに積極的になるのは、それが正義のためだと確信できる時のみだ。 これまでのダイの戦いを振り返れば、ダイは他者を助けることを最重視しつつ、正義とは何かを自問しながら探している節がある。 この性質が、ダイの個人的な思想や主義によるものか、それとも無意識に働く竜の騎士の潜在意識によるものかは定かではないが、いずれにせよこの時のハドラーはまっすぐにダイに向かってきた。 キルバーンと戦った時のようにポップが攻撃対象になっていたのならばともかく、ハドラーの闘争本能はダイ一人に向けられた――そのせいで、かえって敵と目的意識が同時にブレてしまったのも問題だ。 ダイは戦いに関する即断力は優れているが、戦況を冷静に読んで的確な戦略を組み立てるのはひどく苦手だ。 平たく言うのなら、同時並行作業ができていない。一つのことに集中し、攻撃に専念するのならばそれこそ超人的なパワーを発揮できるが、同時に二つ以上の問題に対処するのは無理なのである。 また、ついでに言うのならば、ダイは突発事項が複数発生した場合、何を優先すべきか決定するのも苦手なようだ。 冷静に考えるのなら、敵の数が2人から3人に増えて不利になっただけなのだ。ここは、さっきまで以上に逃げに全力を注ぐ場面だろう。なのに、ハドラーに義理立てする形でキルバーン達が動きを止めたせいで、ダイはハドラーと一対一出向き合う形になってしまった。 だが、ダイにとって、この戦いはモチベーションがあがるものではない。 そのせいか、この時のダイは後手に後手にと回っている。ハドラーの猛攻を避けつつ、痺れた腕で剣を抜くために敵の攻撃を利用するなどの小技も見せているものの、今一歩生彩に欠ける。 自分の剣を手にしたダイは、ハドラーの武器である地獄の爪(ヘルズクロー)を一刀両断しているものの、ハドラーは痛みすらも感じていないように堂々と次の一撃で勝負を決めようと宣言している。 それに対し、ダイはハドラーの気迫に押されるように、彼の望む形での戦いに合わせてしまっているが……これはどう考えても悪手だ。 たとえば柔道などでは、技を仕掛ける前にすでに相手の体勢を崩すことを重視する。そうでもしなければ、なかなか技は綺麗に決まるものではない。スポーツに限らず、取引でも交渉でも、相手の土俵やルールに合わせて応じればどれほど不利になることか。 もしダイがポップと一緒にこの場を逃げるという目的を最重視したままならば、ここは相手のルールに従っている場合ではない。攪乱攻撃に徹して、この場を逃げ出すタイミングを狙うべきだ。 だが、ダイはハドラーの要求通り、自分の持てる最大級の技での一撃勝負に乗ってしまった。 戦いに参加はしていないとはいえ、キルバーンとミストバーンの目の前で己の切り札を見せるだなんて今後の戦いを思えば不利にも程があると思うのだが、生憎ダイの意識はハドラーとの力比べへと向けられている。 目一杯の竜闘気を発動させながら、己の最強の技、アバンストラッシュの構えを取っている。 ダイ(ま、負けるもんかっ!! このダイの剣がある限り、どんな敵にも絶対に負けないっ!! 負けないんだっ!!) ダイ自身は気がついていないようだが、ダイの無意識はこの段階ですでに自分が負ける可能性が高いことを感じ取っている。 これまでの戦いで、ダイは「勝つ」ことに重点を置いて戦ってきた。 が、見ての通り、この時のダイはハドラーに勝ちたいと考えるのではなく、負けたくないと考えている。 この時点で、ダイとハドラーの心構えの差は明確だ。 実際の激突を待つまでも無く、精神的な面ですでに勝敗はついたも同然だと筆者には思える。
|