77 ハドラーVSダイ戦2 (6)

 瞬間移動呪文を使えないポップに追いついたハドラーは、二人に向かってなんの躊躇もなく剣を振り下ろしている。
 これは、ダイとの完全決着をつける意味が大きいだろうが、ポップも始末対象と見なしたと言えそうだ。

 ダイとの決闘を始めた際、ポップに呼びかけられても放置していたハドラーだが、この時、彼はポップはダイとの決闘の障害と判断した。放っておけばどこまでも邪魔をする存在として、ダイに先んじて始末しようとしている。

 しかし、ハドラーの攻撃からポップを守ったのがダイだ。
 ポップを思いっきり突き飛ばす反動で、自分は反対側へと移動している。ちょうど、ハドラーを視点にしてダイとポップが左右に散った態勢になったが、そうなればハドラーの注意はもちろん、ダイへと向けられる。

 だが、それはダイも承知の上での行動だ。いや、むしろそれを狙ってやったと言っていい。

 ここで、ダイは目的をはっきりと変えている。
 すでにダイは、自分とポップが逃げることから自分が戦うことに目的を変更しているが、ハドラーと向き合った段階でポップだけは逃がすことだけを考えている。

 この時のダイはいかにも苦しげに肩で息をしているし、ハドラーに対して返事をすることも出来ない様子だ。
 竜闘気抜きで飛翔呪文を使えるようになったと言う進歩は見せているが、どう見ても体力を消耗しきった様子が痛々しいほどだ。

 しかし、それでいてダイの目的意識はこの上なく明確になっている。
 この時のダイの目的は、ポップの救命だ。

 ハドラーがポップを名前で呼んだのは、ダイも聞いている。
 つまり、魔王がポップのことを敵と認識したのだと、ダイも知ったのだ。ポップ自身が言っていたように、これまでのハドラーは傲慢さが強く、相手を見下す傾向が強かった。

 ポップはこれまで何度かハドラーに殺されかけているが、それはポップを敵視したから殺そうとしたのではなく、たまたま目に入る範囲にいたから、という要素が強かった。

 これまでは己の出世に拘っていたからこそ『勇者』を殺そうとしていたが、勇者の側にいる仲間については眼中になかったと言っていい。

 皮肉な話だが、以前のままのハドラーならポップをそこまで念を入れて殺そうとはしなかっただろうし、ポップの方もさっさと逃げ出してしまったことだろう。

 だが、妥当アバンを強く心に決めたハドラーは、ダイに完全に焦点を合わせてきた。そして、ポップの方もなにがなんでもダイを助けようと心に決めている。

 それを悟ったからこそ、ダイは自分を囮にしてでもポップだけは逃がそうと心に決めた。すでに、それをポップに伝える力もなくしているが、ダイのその決意は揺るぎもしない。

 自分に向かってくる魔王に対して逃げる気配も見せず、ダイは攻撃だけを考えている。

 ポップを助けるのが目的とは言え、さすがは竜の騎士と言うべきなのか、ダイは残りわずかな魔法力や竜闘気を時間稼ぎや防御に回そうとは微塵も考えていない。
 攻撃に全力を注ごうと考える、その潔さは立派なものだ。

 確かに戦略的にも、中途半端に戦力を分散させるのは下策とされているし、一点集中で攻撃を集中させた方が破壊力が増すのは事実だ。

 まあ、普通ならばその理屈が分かっていたとしても、保身を考えて攻撃に全振りできないのが常人の思考だ。ましてやダイは、一度、この技を防御しようとして失敗をしている。恐怖心がより強まっても、おかしくない。

 しかし、ダイには何の迷いもない。
 とっさに全力の力を振り絞って、ハドラーの必殺技と真正面からぶつかった。

 その結果、ダイはすごい勢いで氷山に叩きつけられ、砕けた氷の欠片ごと海に沈んでしまう。
 それに引き換え、ハドラーは空中に残ってはいたものの……全身黒焦げで、あちこちから煙すら上がっている惨状だった。

ハドラー『……フッ……! さすが勇者……こうでなくてはな!!』

 満足そうにそう言ったかと思うと、ハドラーの身体もまた力を失い、海へと落下している。

 決闘は、相打ちという結末を迎えた。
 しかし、この勝負はどう贔屓目に見てもダイの敗色濃厚なものだった。魔王軍側が一切決闘に手出しをせず傍観していたのに、ダイ側の方はポップのルール違反があった上で、先に海に落下している。

 ゲーム的に解釈するのなら、明らかにダイの負けだ。
 だが、本来ならば最もダイ側の違反を指摘し、勝ち名乗りを上げていいはずのハドラーは不満を言うどころか、自分の勝ちだとさえ主張しない。

 見物しているだけのキルバーンやミストバーンよりも、ハドラーが一番、この勝負が引き分けだと感じているのだ。
 終始、ハドラー優勢だった勝負を相打ちにまで持ち込んだのは、ダイの最後の決意が合ったからこそだと思える。

 ただ、戦いに夢中になるのではなく、仲間を守るためにこそ力を発揮するダイの特質が遺憾なく発揮された一戦だと言える。


《おまけ・ザボエラの技術開発力》

 ハドラーはポップ達を追いかける際、肩についていた肩当てのような部位を変化させている。ごく短いとは言え翼のような形に伸びた肩当ては、内部がエンジンのファンを思わせるような仕切りがついている。

 そこから噴き出すのが風なのか、あるいは魔法力なのは定かではないが、ハドラーはどうやらその推進力を使って空を飛んでいるようだ。

 最初にこのシーンを見た時は、ハドラーは魔法を使えるまま超魔生物のなったのだから、この飛行補助能力はいらないのではないかと思ったのだが、よくよく考えてみれば超魔生物は本来ザボエラ用に開発していた技術のはずだ。

 魔法を使用できなかったとしても、飛行できるように計画されていてもおかしくはない。

 ただ、ザムザの時にはこの能力は明らかについていなかったことを考えると、ザボエラはザムザのデータを入手後、独自に開発して急遽付与した能力だと考えられる。(単に、ザムザには出し惜しみして使わなかった可能性も捨てきれないが……)

 褒められない性格をした男なのは確かだが、ザボエラの研究熱心さが窺えるエピソードだ。

 

 

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