99 戦力強化2 (2)

 5日間の修行期間、クロコダインとチウはコンビを組んで行動している。
 その際、クロコダインがチウに修行の手助けを頼み、チウは自分の修行を取りやめてまで彼に協力し、修行期間を過ごしていた。

 一見すると、チウがクロコダインのわがままに付き合った形になり、割を食ったように思えるのだが、実はその逆なのではないかと筆者は解釈している。

 まず、クロコダインは最初から技の完成形を想定していた。
 己の必殺技をどういう風に鍛えるか最初から計画しており、その訓練に最適な場所も自分で見つけている。フレイザードを倒す際にクロコダインもバルジ島に行った一人であり、パプニカに来て間もないチウよりもずっと周辺の地形には詳しいはずだ。

 つまり、チウはアイデアや場所を進言するといった形での協力は、一切していないのである。

 クロコダインがチウに臨んだ唯一の協力は、海底で修行を行う際に命綱としてクロコダインの腰に巻いた鎖を引き上げる係……言わば緊急時の救助要員としての役割だった。

 見た目の割に力のあるチウには、この役目が適任だったようで、チウ自身も自分ぐらいの力が無いと付き合えないと自慢している。だが、いざという時に鎖を引く役目ならば、正直、チウで無くてもよい。

 数人の兵士達が綱引きの要領で引っ張れば十分に協力は可能だろうし、バダック達とも親交を持つクロコダインならば、手が足りないわけでもなかっただろう。

 実際、バダックや兵士達はクロコダインの特訓を気にして、様子を見に来ている。もし、クロコダインから頼まれれば、彼らは嫌とは言わなかったに違いない。

 だが、クロコダインは協力者としてチウを選んだ。
 それは、チウを少しでも鍛えてやろうと考えた優しさからきたものだと思えてならない。

 チウがどんな特訓をする予定だったかは不明だが、この時点で勇者一行で一番実力が低いチウでは自主練もまともに出来るかどうか、怪しいものである。かといって、ダイ達もまだ未熟であり、自主的に自分を鍛えることは出来ても、後輩を鍛えられる程の経験を積んではいない。

 誰かに物を教えるのは、自分でそれを実行する以上に面倒なものだ。ヘタすると後輩に教える事に手間取って、自身の訓練時間を失ってしまう。
 集団で行うスポーツでは先輩が後輩を導くよりも、専門のコーチが指導する場合が多いのはそのためだ。

 もし、チウが自主特訓をした場合、同門であるマァムか、あるいはメンバーで一番の実力者であるダイと修行したいと言い出す可能性は低くなかっただろう。

 二人ともお人好しな性格なだけに、頼まれれば無下に断れないと簡単に予測できる。が、平和で余裕のある時期ならばともかく、決戦を寸前に控えたこの時期に、主力メンバーであるダイやマァム達の修行が滞るのは問題だ。

 また、チウが二人に迷惑をかけずに一人で自主練を実行したとしても、実力不足が心配される。
 適格な修行が出来なくて成果が上げられないぐらいならまだマシだが、強くなろうと無茶をしすぎて怪我を負うなどの心配もある。

 その辺の潜在的な心配を考えた上で、クロコダインがチウを引き受けてくれたのではないかと筆者は考えている。

 クロコダインの身近にいれば、まず、危険は排除できる。
 そして、大渦の様子を見て、適切なタイミングでクロコダインを救助するという見張りの役割や、クロコダインの巨体を引き上げるという補助は、チウ自身を地味に鍛えてくれるだろう。

 クロコダインに協力しているはずのことが、実はチウ自身の訓練に繋がっているのだ。

 しかし、クロコダインは自分が鍛えてやると言わずに、逆に協力を請う形でチウの顔を立て、強力の褒美として獣王の笛まで与えている。

 獣王の笛は自分よりも弱い怪物を従える効果を持つ魔法道具で、百獣魔団長になったクロコダインには不要の物だから譲ってくれたとチウは語っていたが、本来、不要の物を他者に渡す必要などない。

 明らかに、チウのためになると考え、時期を見て渡そうとしていたのだろう。

 実力不足ながらも器の大きいチウを見込んで、クロコダインは彼の行動に目を配り、彼の性格を見込んだ上で最適解な特訓を施している。元百獣魔団長だけあって、部下の鍛え方や育成も手慣れているのだろう。

 面倒見がいいのに押しつけがましくない、クロコダインの隠れた優しさが感じられるシーンである。

 

 

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