01 人間達の情勢(13) |
カール王国に世界中の戦士達が集結する前日、修行を終えたダイ達は一度パプニカ城で集合している。全員で気球船で移動するためである。 ダイとポップが移動呪文を使えることを考えれば、実戦組と支援組に別けて魔法で直接移動した方が効率的と思えるが、おそらくはレオナの思惑により国を挙げて大々的に気球船での出発を見送っている。 勇者が魔王軍と戦うことを、パプニカ国民にわかりやすく示しているのである。 つい先日、鬼岩城がパプニカを襲ってきたことを考えれば、たとえ勇者がそれを倒したと聞いたとしても、敵への不安が残るのは当然だろう。いつ襲ってくるか分からない相手に怯えるよりも、勇者が魔王を倒す――つまり、先手を打って敵の根源を絶つ戦法を取ってくれた方が人間達にとってありがたい。 気球船を見送る人々の歓喜は、レオナへの支持率の高さと考えていい。 その証拠が、三賢者やバダック達の位置だ。 だが、実際に気球船が出発した直後には、三賢者達を初めとする兵士や神官までもが城下町に移動している。 パプニカ城は小高い丘の上にあるので、気球船を見送るだけなら見晴らしのいいその場から移動する必要はない。公的な立場の人間が城下町に混じり、勇者を見送る姿勢を見せることでその効果を強めている……言い方は悪いが一種のサクラだと言えそうだ。 そして、国民からの声援はダイ達にとっても十分な精神的支援となる。 自分達の修行だけで手一杯で、周囲のことを考える余裕などない勇者一行に変わって、レオナは着実に彼らのためになる行動を取っているのである。 また、勇者のために支援しているのはレオナだけではない。 登山方法で、極地方と呼ばれる手法がある。 その際、チームを支援隊と登山隊に別け、支援隊は徹底して支援に専念し、登山隊のみを登頂させることを目的としているのだが、この時のダイ達の戦いもそれに近い。 ダイを初めとするアバンの使徒達で大魔王と戦うことを前提に、他のメンバーはその準備を整えるために全力を尽くしている。 山登りでも必要な荷物を運ぶシェルパという役割があるが、彼らはどんなに登頂に貢献したとしても、決して登頂まで登ることも無く、その名誉を預かることもほとんどない。 だが、登頂隊の体力を温存し、彼らの安全を確保するためには欠かせない人員だ。 ダイ一行以外の各国の兵士達も、扱いはそれに近い。 ダイ達が気球船でカールにつくと同時に、信号弾で合図を送るより先にアキーム将軍が出迎えたところから見ても、見張りや警戒も怠っていないようだ。 船造りと言っても、筏ならともかく数十人が乗るための船ならば数日で作るのは不可能だ。 ベンガーナ王全面出費とレオナが言っていたことから、おそらくはベンガーナで完成間際まで建造していた軍船を流用し、サババのドッグで最終調整的な準備をしていたと思われる。 その証拠が、後にブロックが持ち上げていた船だ。 パプニカで大砲が魔王軍に対して全く役に立たなかったことを考慮して、大砲を外して移動速度を上げるように改造したと思われる。 戦時下で一番苦労するのが、兵站を滞りなく手配することだ。 太平洋戦争時代、日本軍が補給を確保できずに大敗を喫したように、歴史上、遠征時に兵站の枯渇により失敗した軍隊は多い。かのナポレオンもエジプト遠征やロシア遠征では思いっきりそれをやらかしている。 だが、ダイ達は兵站では全く苦労した様子はない。 これは、恵まれた環境であるからこそだろう。 魔王軍に襲われてほぼ廃墟と化したカール城の跡地を砦として使用しているが、砦内は過剰と思えるぐらいに豊富に武器が用意されており、ベンガーナ王の惜しみない支援が窺える。 また、ベースとなるカール城跡地の拠点だけでなく、港の近くにも基地を作っているのだから、その分、準備する品も増えているはずだ。 が、先程も言ったように登山の極地法で複数のキャンプを張るのは、いざなにか起こった際に避難し、態勢を整え直せるように支援を厚くするためだ。 目立たないシーンではあるが、ダイ達が着く前からすでに整えられていた密かな準備は、それだけ人々はダイ達に期待し、彼らの活躍を切望しているのだと分かるシーンである。 |