02 主導権争い(1) |
ダイ達が死の大地に訪れた際、アキームが直接彼らを出迎えに来ている。本来ならば、ダイ達が死の大地に到着してから合図の信号弾を打ち上げ、拠点から迎えを出すという手はずになっていた。 気球船が風の影響を受けやすく、移動時間や着陸場所にズレが生じることを見越した作戦と言える。 だが、ダイ達がちょうど移動している最中に死の大地中央に位置する山が隆起するという異変が起こったため、人間軍は警戒を強くしている。 気球船でやってきたダイ達も、様変わりした死の大地を警戒した表情で見つめているし、飛翔呪文の使えるポップが単身で上空に跳び上がり、隆起した山の様子を確認している。 この時はただ垂直に跳び上がり、山状の物体の高さが雲の上に達していることを確認しただけなので、危険はないとみて単身偵察した模様だ。 無事にカール王国に着陸を果たし、マァムはアバンの故郷かと感慨にふけっていたが、そんな余裕があったのは彼女だけであり、他のメンバーはすでに戦いを意識している。 なお、余談だがマァムの父・ロカもカール出身者なので、マァムにとってはここは父方の故郷に当たるのだが、それは全く意識していないのかコメントがない。 レオナの命令でエイミが信号弾を打ち上げる直前に、彼らに声をかけてきたのがベンガーナ戦車隊の隊長であるアキーム将軍だ。 援軍の接近を見張り、伝令と案内をするというのは普通なら将軍位の任務とも思えないのだが、人間軍の総大将であるレオナ、主力戦力であるダイ達を重視しているとすれば妥当な判断とも言える。 ただ、ダイやヒュンケルにとってアキーム将軍はあまり顔なじみとは言い難かったせいか、彼らは突然現れた男に対して剣を身がまえて警戒を露わにしている。 アキームの方も抜き身の剣を片手に登場したので、ダイ達が警戒するのも無理はないが。死の大地を単身で移動する際、アキームも最大限に警戒していたのが裏目に出ている。 人に声をかけるのなら武器を納めるのは当然の礼儀なのだが、アキームは軍人としての意識が強すぎるようだ。まあ、最前線にいることも加味すれば、少々無作法ではあるが許容範囲内というものだろう。 彼が無作法なのは単に融通が利かない真面目さによるものであり、反感や不満を抱いているからではない。王女であるレオナだけでなく、庶民出身で自分より年下のポップに対しても軽口を咎めるどころか敬語を崩さない姿勢は、彼がダイ一行を尊重すべき相手と見なしたことを現している。 以前、クロコダインと共に戦った時は彼に対して対等に話していたことを思えば、アキームはダイ達を対等以上の存在と認識したと言っていい。 アキームは主導権を競うつもりは微塵もないのだ。 ここで注目したいのは、レオナからの問いかけだ。 勇者であるダイではなく王女であるレオナが指導者であり、決定権を握っていることがよく分かるシーンだ。 この後、ダイはサババのことを尋ねているので、拠点や船などに関しては勇者は聞いてさえいないのがよく分かる。興味が無いというよりは、レオナに任せておけばいいと、ダイだけでなく一行の全員が思っているからこそだろう。 平常時においては、ダイ達は主導権争いなど全く関わる気はないのである。 結果、レオナが一行のリーダー格として指揮を執ることになる。 王達との会合は結果的にレオナの思惑通りうまく進んだものの、最前線に自ら望むレオナが現場で総指揮権を握れるかどうかは別問題だ。現実世界でも、現場に派遣された未熟な上司が軽んじられるのはよくある話だ。 まずは、拠点にて上からの確認を優先したレオナを出迎えたのは、リンガイア王国総司令であるバウスンだった。 彼が拠点に残っていた事実から、彼こそがレオナが来る前までのリーダー格と見て良さそうだ。 37才という最年長者であり、特技が呪文と剣の連続攻撃に加え、作戦指揮と明記されている実力者だ。バランの侵略を受けてなお、配下の戦士団共々生き残ったしぶとさは評価されて然るべきだろう。 身分的には一国の王女であるレオナの方が上ではあるが、実戦では彼が軍を指揮するのが当然と思われる略歴だ。 しかし、バウスンはレオナを初めとしたダイ達を至って友好的に歓迎している。ベンガーナ王がそうしたように威圧をかけ、優位に立とうとはしていない。 このまま、和やかに情報交換が行われるかと思われた時、基地内に轟音が響くことになる。
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