04 主導権争い(3)

 

 ノヴァの勝手な行動に対して、レオナは『壮絶に自己中心的な勇者』と評している。

 それに対し、バウスン将軍は真っ先に謝罪した。
 ただ、これはリーダーとしての謝罪と言うよりは、ノヴァの父親としての謝罪である。

 元々、ダイ達一行には指揮系統がないに等しいのだが、最終決戦のために集められた各国からの勇士達もその辺が曖昧だ。リンガイアのバウスン将軍、ベンガーナのアキーム将軍などはそれぞれの部下は掌握している様子だが、それは飽くまで自分達の国の配下に限られている。

 他国の者にまで、リーダーシップは浸透していない。
 特にロモスの武術大会メンバーは仲間意識はあっても、上下意識には乏しく、誰がリーダーかさえ決めてはいない。

 別に、それ自体が悪いと言うわけではない。仲間同士の連携が高ければ、意見の相違が発生したとしても話合いで解決できるし、リーダーがいない方が個々の意識が高くなり、自立精神が強まるケースが多い。

 しかし、リーダー不在の弊害が発生するのは、非常時だ。
 突発的な問題が発生し、その対応についての早急な決断が迫られる場合、リーダーがいるのといないのとでは、被害に格段の差が生じる。

 ノヴァの独断横行を許してしまっているのも、このリーダー不在の意味が大きい。

 特に、バウスン将軍は、息子であるノヴァの制御に完全に失敗してしまっている。
 戦場での指揮の腕とは別に、彼の部下の掌握については難点があると言うことだ。

 そもそもバウスン将軍がこの作戦全体に置けるリーダーなら、自分の息子だけを本拠地に残すべきではなかったし、勇者への暴言を諫め、勝手な行動を留めるべきだった。しかし、彼はそれらをせず、息子の行動を結果的に承認した上で、その是非を他者に対して言い訳さえしている。

 どんな意図であれ身内を特別扱いするというのなら、そもそもリーダーの資質がない。

 そして、バウスン将軍は父親としてもかなりの落第級である。
 彼はノヴァを男手一つで育てたからわがままな子だと言い訳しているが、これは完全に無意味な言い訳だ。

 たとえば、ダイやマァムは片親に育てられたが、この二人をわがままだと評する者はいないだろう。むしろ、両親がそろって育てられたはずのポップの方がわがままである。

 バウスン将軍は息子が反抗的になったのは、ノヴァがオーザム王国救援のために遠征に言っている間に、リンガイア王国が魔王軍に滅ぼされてしまったのが原因だと考えている。

 ノヴァ自身は自分がリンガイア王国に残っていれば、国は滅ぼされなかったと信じている様子なので、ノヴァが自分の実力を父親以上と思っていることが見て取れる。

 ここまで父親を軽んじているのは、その事実もあるだろうが反抗期という理由も大きそうだ。

 反抗期の対処方法は人ぞれぞれであり、一概には言えないが、バウスン将軍自身、故郷リンガイア王国を守る立場にいながら王も国も救えなかったことに負い目を感じていることもあり、息子を強く叱ることが出来ない様子だ。

 それに対して、ヒュンケルはリンガイア王国を攻めたのは魔王軍最強の軍団長であり、勝てるわけがないと一蹴している。

 ここで注目したいのは、ヒュンケルのこの発言がノヴァではなく、バウスン将軍をフォローしている点だ。

 確かにリンガイア王国を攻めたのは超竜軍団率いるバランだったことを思えば、人間の軍隊が太刀打ちできるはずはない。この発言で、ヒュンケルはリンガイアが滅びたのはバウスン将軍の力不足ではないと暗に語っている。
 さらに、この発言に注目したい。

ヒュンケル「あの坊やは国にいなかったことを感謝するべきだよ」

 この言葉を、ヒュンケルはバウスン将軍を見つめながら語っている。
 言うまでもなく、将軍とは兵士らの配置を決める権利を有する存在だ。ノヴァの遠征がバウスン将軍の提案かどうかは不明だが、最終的に彼がそれを決定、もしくは認定した立場なのは間違いないだろう。

 つまり、息子を国から出した決断は正しいと言っているに等しい。
 レオナやポップはノヴァの態度に反感じみた感情を見せているが、ヒュンケルはノヴァの態度以上にバウスン将軍の心情の方が気になるようだ。

 それは、ヒュンケル自身が反抗期を乗り越えた側の人間だからだろう。
 アバンという師に対し、常に反抗し続けて理解を拒んだ過去を、彼は悔いている。その心が、反抗的な息子に頭を悩ませる父親側に肩入れする心理となって作用しているように思える。

 戦いの解説とは外れてしまうが、ともすれば自罰的な方向に向かいがちだったヒュンケルが、かつて師に対しては出来なかったことを他者に思いやりとして向けられるようになったのは、人間としては大きな進歩と思える。

 そんなヒュンケルと比べ、ポップはノヴァにもバウスン将軍にも全く配慮する気配がない。
 ノヴァに腹を立てる余り、勝手にやらせておけばいいと放置の方針だ。むしろ、痛い目を見ればいいとさえ発言している。

 マァムはその意見には危険だと反対している。だが、それはノヴァに賛成する意味合いではない。むしろ、マァムは自分勝手なノヴァに対して批判的な意見を口にしている。

 仲間意識の強い彼女にとっては、みんなが船で作業をしているのに自分勝手な行動を取ったノヴァに不信感があるようだ。
 ポップはそれを聞いても、ノヴァの自動自得だと突き放し、放置しようと言っている。

 その直後に発言したメルルは賛成とも反対とも意思表示していないが、ノヴァが話して分かる相手に見えないとだけ言っている。直前のポップの台詞を思えば、彼の発言をわずかに後押しする形だ。

 その後、ポップはあんなヤツの引き立て役になるのは嫌だと、協力を完全に拒否している。

 が、それに待ったを掛けるのはレオナだ。
 彼女はみんなに対して、港の救援の重要性を訴えている。ここでレオナの指導者としてのセンスが現れているのは、ポップ個人への説得にせず、みんなへ向けての発言にしたことだ。

 この時点でノヴァとの協力を明確に拒んでいるのは、実はポップ一人だけだ。しかし、ここで彼個人を説得するように話せば話合いが個別化してしまい、無闇に時間がかかることになる。それに、ポップに積極的に賛成はしていないものの、全員の態度がノヴァへ否定的なのは否めない。

 だからこそ、この場はみんなの意識を港に向け、ノヴァへの悪感情は別件だと認識させた方がいいとレオナは考えたのだろう。

レオナ「たしかにっ! 彼は性格サイテーで自己中心的でいかにもボンボンって感じだけど、それとこれとは話は別よっ!!」

 父親であるバウスンの前で身も蓋もない毒舌っぷりを披露しているレオナだが、この発言は彼女の本音も混じってはいるだろうが、それ以上に演出の意味が大きいだろう。

 自分もノヴァを好きではないが、それでも彼や港を助けるという意思表示をすることで、ノヴァに反感を持つメンバーの意識を変えさせようとしているのだ。

 レオナにとって幸運だったのは、ダイがレオナとほぼ同じ意見だったことだ。

 ダイは真っ先にレオナに賛成し、みんなに出発を促している。
 ポップはダイに腹が立たないのかと聞いているが、ダイはノヴァの発言には拘っていない。

 多少腹は立ったと言っているが、勇者が何人いてもいいと考えるダイにとって、勇者は自分一人でなければならないと言うノヴァの意見は、どうでもいい話に過ぎない。

 反対するどころか、ノヴァの意見を否定しないで受け入れいてた上で、勇者なら百人いてもいいと言っているのだから、おおらかなものだ。

 ダイのその意見に呆れ、反対する気もなくしたポップはダイに賛同し、ダイと一緒に先行する気になり、残りメンバーに後から来るように頼んでいる。
 揉めたものの、あっさりと問題が解決し一致団結した行動を取れるという意味で、ダイ一行のチームワークの良さが窺える。

 ダイ達一行は、一見、リーダー不在の集団に見える。
 勇者であるダイが周囲に対して命令を下すことがなく、上下関係のない横並びな仲間意識が強いため、そう見えるだろう。

 しかし、実際にはダイ一行は、ダイをリーダーとしたサブリーダーの集合によって回されている集団だ。

 まず、ダイは命令そのものはしないが、勇者一行の意志決定は常に彼が行っている。誰と戦うか、なんのために戦うかを決定づけるのは常に彼であり、他の仲間は反対にしろ、賛成にしろ、その意見を元に方針を決定している。

 今回のポップのように、反対はしていてもダイの方針に納得できたのなら、全力でそれに協力できるのである。

 方針そのものは決定しても、そのための具体策を立てる手段も、考える能力もダイにはない。ダイの能力はどこまでも戦い特化型であり、物事を考えたり作戦立てるのは得意ではないのである。

 が、それを補うのがサブリーダー達だ。
 戦い以外の指揮、周囲の人間達との連携ではレオナが、どう戦うかの戦略や具体的手段ではポップが、戦闘時の指示ではヒュンケルが活躍することで、リーダーの方針を補正している。

 現代心理学では、集団を導くのは優れたリーダーそのものより、複数のサブリーダーの存在こそが重要だと説いている。
 ダイ一行は、まさしくその説に沿った理想的な集団だと言える。

 ……ところで、蛇足ながら最後に一つ。
 バウスン将軍は、自分よりもはるか年下である勇者ダイに対して、ノヴァを頼むと発言している。

バウスン将軍『ダイ君、息子を頼む! 帰ったら、厳しく力を合わせるように言い聞かせるから……!!』

 あれだけ息子を好き放題させておいて、厳しく言ったぐらいでなんとかなると思っている点がすでに甘い。そもそも無事に帰ってくると思っている辺りも、親馬鹿というか甘さがある。

 真に息子を心配するなら、魔王軍との戦いが命の危険であることを強く認識し、単独行動をしてはいけないと最初から言い聞かせておくべきだろうに、バウスン将軍の魔王軍への認識そのものがすでに甘い。

 ……と、さんざん貶したが、父親としての言動に問題はあれど、彼が息子を愛し、味方になろうとしている点だけは確かだ。いい父親になる前提にして最大条件を、彼は十二分に持ち合わせているのである。

 


《おまけ・ノヴァVSフレイザードorクロコダイン》

 ノヴァは滅亡寸前だったオーザム王国を救うために遠征したとされている。が、オーザム王国を攻めた氷炎将軍フレイザードがノヴァ率いる遠征隊と出会ったという描写はされていない。

 フレイザードがあっさりと国を滅ぼして立ち去ったことを考えれば、ノヴァの遠征はほぼ空振りに終わったと予測できる。つまり、ノヴァは祖国の滅亡だけではなく、救援国の滅亡にも間に合わなかったわけだ。

 だが、これは紛れもなく幸運だ。
 最悪の場合、二人の軍団長と時間差で戦うかもしれなかったことを思えば、上手くその間隙を縫って国々を移動したノヴァは強運に恵まれていると言える。
 ……本人的には、多分、不服だろうが(笑)

 ダイが全軍団長と対決経験があり、偽勇者一行でさえ旅の行く先々で魔王軍と出くわしたことを考えれば、敵と出会う確率も勇者の素質の一つなのかもしれない。

 実現はしなかったものの、もしオーザム王国への到着が早ければ、ノヴァとフレイザードの戦いが発生したかと思うと興味深い。

 フィンガー・フレア・ボムズという炎に特化した呪文を得意とするフレイザードと、氷系の最強呪文マヒャドに加え、闘気の剣オーラブレイドの使い手であるノヴァの戦いはなかなかの見物だろう。

 しかし、核を攻撃する能力も概念も持たずにヒムに惨敗したノヴァでは、おそらくフレイザードの核は捕らえきれない可能性が高いだろう。

 マヒャドの攻撃も、フレイザードにとっては氷側の半身で受け止めるか、正反対の熱量のフィンガー・フレア・ボムズで相殺、もしくは圧倒して押し切ればすむこと。
 やはり、ノヴァの勝ち目は薄そうに思える。

 たとえノヴァが超魔ゾンビの時に見せた底力を発揮したとしても、フレイザード相手では意味がない。フレイザードはいかに急所を見抜いて正確に当てるかが重視される敵であって、攻撃の威力はそれほど問題ではないからだ。

 ノヴァは力業で押し切るタイプなので、実はフレイザードとは相性が悪い。まだ、ロモスに遠征に行ってダイと戦う前のクロコダインと戦った方が勝ち目はありそうだ。

 バギの斧を使うクロコダインになら、マヒャドで斧を凍らせて動きを弱らせ、彼の無尽蔵の体力を闘気剣で削りきれるかどうかと言う勝負に持ち込める。

 個人的にはクロコダインを応援したいが、ノヴァの奮闘も見てみたいものである。

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