07 ダイ一行VS親衛騎団戦(2) |
ノヴァが倒れた後、親衛騎団はダイ達に対してわざわざ自己紹介を行っている。 つまり、この時に即座に攻撃を仕掛ければ、ダイは確実に後手に回るはずだった。ポップが杖を手に身構えていたとは言え、先手を取るなら絶好のチャンスだったと言える。 しかし、アルビナスを初めとする親衛騎団のメンバーは自分達の自己紹介に拘っている。ノヴァに対しては名乗るどころか彼の名を聞くともしなかったとは大きな違いだが、西洋の決闘を思えば理解しやすい。 騎士達にとって決闘とは、定まった作法に則ってどちらに正義があるかを明らかにするための場だ。ただ勝てば良いというわけではないし、戦いの前に堂々と名乗りを上げるのも作法の一つだ。 その前に決闘相手ではない者が割り込んできたとしても、相手にするわけがない。 そう考えれば、親衛騎団が自己紹介に拘った理由も納得できる。 また、彼らの自己紹介は正確であり、ただ名乗るだけではなく、自分達の役割や、正体である元の駒まで教えている。これは、驚くべき公平さだ。 アルビナスは自分が女王であり、親衛騎団のリーダーだと教えているが、チェスをある程度知っている者ならば、『王』の駒がリーダーだと予測するのが普通だろう。 黙っているだけで相手が勝手に誤解をしてくれるのなら、お得としか言えない話だが、親衛騎団はそれを良しとはしていない。自分達の能力や手の内を隠すつもりはないし、紹介も終わらない内から攻撃をするつもりもないという徹底ぶりを見せている。 そして、騎士道精神に則りながらも、彼らの精神はいたってシビアだ。 巨大な船を肩に担いで現れたのは、親衛騎団最後の一人、城兵ブローム。ヒムが軽口めいて、その船は人間達の大事な物だから返してやれと言った途端、ブロームは船をダイ達めがけてぶん投げている。 ダイ達はこの船の直撃から逃れているが、地面に激突した船は木っ端微塵に砕けた上、火薬が誘爆してその辺の人や建物を吹き飛ばすという大惨事を巻き起こしている。 が、親衛騎団にとっては、これは攻撃という感覚は無い。 本部を襲うよりも大勢の人間を移動させる能力を持つ船を破壊すればいいと考え、先手を打って造船場を襲撃した狙い目の正しさと言い、人間達の反抗をメンバー中4名で抑え、メンバーで随一の怪力を誇るブロームに船の確保を命じた作戦は、秀逸だ。 親衛騎団は、基本的に人間達の抹殺を考えてはいない。後にここにいるメンバーが最終決戦に参加していたことを考えれば、むしろ、生かして返す心積もりがあったとしか思えないぐらいだ。 船についても、同じことが言える。 派手に自分達の力を誇示しつつも、そのくせ確実に敵の精神や物理的な勢力を削ぐ堅実さを併せ持つ作戦が、アルビナスのイメージに合っているのも面白い。 作中では明言されていないが、この時の親衛隊の指揮をアルビナスが執っていたことを思えば、この作戦の立案者は確実に彼女だろう。 更に言うならば、この作戦は人間達の足止めだけでなく、勇者一行の偵察の考慮されていた。一度の行動で複数の成果の獲得を狙った、強かで効率的な思考が見て取れる。 ヒムは船を投げつけた後で、爆破の煙幕越しにダイ達の動きがないのを見て死んだのかと呟いていたが、アルビナスはハドラーからの情報を元に、この程度で勇者達が死ぬはずはないと断言していた。 このアルビナスの読みは、実は当たっている。 それを聞いて、ヒムが引きずり出してやると爆煙へと歩き出しているが、アルビナスはそれを制止していない。ブロームに船を投げるように指示したのもヒムだったが、アルビナスはそれも制止しなかった。 そもそも、アルビナスはヒムがノヴァと単独で戦いだした時も制止していない。 自分の計画通りに進んでいる間は特に指示を出さないが、計画外になりそうな場合は身体を張ってでも即座に止める――彼女の行動は部下達の自主性を重んじつつ見守っていると言える。 しかも、あれだけ短気そうなヒムが、アルビナスの横槍に不満を口にしていない。むしろ、ノヴァに対して同情した辺りに、アルビナスへの肩入れや信頼が見て取れる。残りのメンバーも、誰一人としてアルビナスへの不満を見せてはいない。 ハドラーとフレイザードの関係を振り返って見れば、信じられないぐらいにアルビナスと残り4人の関係性は良好だ。 作戦の起案に加え、実行能力の高さ、敵に対する情け容赦なさ、部下達の掌握の見事さ……アルビナスの指揮能力は極めて高いと言える。 |