11 ダイ一行VS親衛騎団戦(6)

 

 ダイ一行と親衛騎団の初のパーティーバトルは、非常に興味深い戦いと言える。と言うのも、ダイ一行は強敵に対して仲間全員で力を合わせて挑むか、逆に多数の雑魚敵を相手に奮戦するという形式が多く、対等の人数で戦う機会はこれがほぼ初めてだからだ。

 この時のハドラー親衛隊の態度は、余裕に満ちている。
 ヒムがヒュンケルの攻撃を受け、落下するのを目撃しつつも、彼らは全く動じていない。その程度でヒムが死なないと最初から分かっていたかのように、平然としている。

 そして、ヒムもノーダメージのまま立ち上がっている。
 額に大きな穴が穿たれたのに微塵も気にした様子もなく、自分達の急所は心臓にあると自ら言いきっている。自らの弱点を暴露するとは驚きだが、その行為をヒム以外のメンバーが誰も咎めようとしていないのも注目したい。

 ヒム本人が言っていたように、弱点が分かっていても正確に当てる技術がなければ意味はないと考えている――それは、親衛隊メンバー全員の共通認識だということだ。

 最初からダイ達と戦う心積もりで襲撃しに来た親衛騎団は、戦いに対してなんの迷いもない。

 それに対してダイ達は、この時は微妙に噛み合っていない。
 その原因は、明白だ。

 指揮系統が明確であり、戦いの目的が微塵もブレていない親衛騎団に対し、この時点でのダイ達には指揮をとる者が不在のままだ。そして、この戦いの目的も、勝利のための必須条件も、微妙に共有されきっていない。

 ノヴァ達を助けるためには、親衛騎団を倒すか、追い払う必要があると認識している……この点は、メンバー全員の共通事項だから問題は無い。
 しかし、各自の考える勝利への方法が合致していないのである。

 まず、ダイの中では勝利条件として、ダイの剣の使用が必須条件として叩き込まれている。
 自分がダイの剣を使うことで、戦況を有利へ傾けられると確信しているのだ。

 ポップの場合は勝利条件がメドローアだと考えているのが、ダイとの差だ。シグマのシャハルの鏡を封じて、敵を一箇所に集めれば逆転可能だと考えている。奇襲こそ失敗したが、まだ自分の手の内がバレていない今こそが最大のチャンスだと認識しているのである。

 そして、ヒュンケルはポップのその考えを、知らない。
 クロコダインがポップの服の焦げ具合から、ポップが相当に強い呪文を習得したことを予測したように、ヒュンケルも同じような予測は立てているだろう。

 が、ヒュンケルはポップの魔法を全く当てにしていない。
 むしろ、自分とダイの空の技が親衛隊への切り札になると考えている様子だ。

 マァム、クロコダインの考えは明らかにされていないが、すでにこの段階でダイ、ポップ、ヒュンケルの思考にずれがあるのに注目して欲しい。そして、メンバー全員がその認識を擦り合わせる前に、真っ先に作戦を口にしたのがポップだった。

 自分では親衛騎団を相手に牽制はできないと考え、シグマの盾を封じる役をマァムに託している。極大消滅呪文で勝負を付けるための布石として、マァムの力を借りようとしたのだ。

 その意見を、マァムはあっさり承知している。
 迷いもせずに即座に頷いたところを見ると、マァムはこの戦いでは回復要員としてではなく戦闘員として参加する気が強いのだろう。ノヴァの手当てよりも、戦いを優先している。

 僧侶戦士だった頃のマァムは、倒れている人の手当てや救助を優先することが多かったが、武闘家に転職したことで思考がより戦闘へ傾いたようだ。

 クロコダインは巨体のブロックを敵と見定めているが、それほど深い考えがあるようには思えない。自分よりも巨体の敵に対抗心を燃やしているという風にしか見えない。

 そして、ヒュンケルはダイにリーダーが誰かを問い、アルビナスだと知ると彼女との戦いを決意する。

 一見、スムーズにまとまっているように見える連携だが、実際には戦う相手を個々の判断で勝手に決めているだけであり、お互いの認識や目的意識は微妙にずれている。

 この時のポップの提案は、パーティーに対して行われたものではない。
 飽くまでマァム個人に対しての要求であり、ヒュンケルやクロコダインとの連携は出来ていないのだ。

 これには、ヒュンケルやクロコダインに対して、対等だという認識をポップが持ちきれていないのが原因と言えそうだ。

 まず、ポップはクロコダインに対しては強い信頼感を抱き、頼っている部分がある。バラン戦の時も、クロコダインが助っ人として駆けつけてきてくれた段階で安堵し、喜んでいたことからも、実力以上にクロコダインを信頼しているのが窺える。

 実際には、クロコダインは戦力的にはバランに明らかに劣っていたし、クロコダイン自身もそれを自覚していたのだが……。

 同じ事が、ヒュンケルに対しても言える。
 ヒュンケルへの反発心から文句を言う事の多いポップだが、心の奥底では彼の実力を認めているし、兄弟子として信頼もしている。

 つまり、ポップにとってはヒュンケルもクロコダインも目上の存在だということだ。
 信頼と言えば聞こえは良いが、言い換えれば、これは大人に対する甘えとも言える。

 相手を自分以上の存在と思っているからこそ、無意識に判断を相手に委ね、その意見を尊重してしまう。日常生活ならば別に問題は無いが、戦場ではいささか問題のある思考と言える。

 そして、ヒュンケルもまた、アバンの長兄としての意識が強すぎて弟弟子達を庇ってしまっている。

 ヒュンケルは、自分で相手のリーダーを引き受ける決意をした。
 集団で戦うのならリーダー格を狙うのは定石とは言え、自分が一番厄介な敵を進んで引き受けるという思考が強すぎるのである。

 勇者一行の中で最大の戦力を持つのは紛れもなくダイなのだから、ダイとアルビナスをぶつけた方が勝率は高いだろう。

 しかし、ヒュンケルはそれを良しとしなかったし、ダイもどうしても自分がリーダーと戦うとは主張はしなかった。ポップ同様に、ダイもヒュンケルの判断を信じ、素直に従ってしまっているのだ。

 だが、ヒュンケルは敵リーダーと戦おうとしただけであり、勇者一行のリーダーとはなっていない。

 リーダーの役割は、メンバーの動向に目を配り、各自が最適の活動をとることができるように計らうことにある。そのためにリーダーには指揮権があり、それを駆使することで戦況を有利に傾けることができる。

 しかし、ヒュンケルは指揮権を全く発動させてはいない。ダイやポップも、やはり指揮は執ってはいない。リーダー不在のままなのだ。

 逆に、アルビナスは部下達の掌握も指揮権も完璧だ。
 ヒュンケルに対抗意識を感じて血気に逸るヒムをなだめて、ヒムにダイと戦うように仕向けている。反抗的な態度を取っていたヒムも、アルビナスの命令には従っているところからも、彼女のリーダー気質の高さが窺える。

 そもそもアルビナス達は人間達に散発的な攻撃を仕掛けつつ、ダイ一行が揃うのを待っていたことからも、予め計画を立てて襲撃をしかけてきたことが分かる。

 彼女の目的――言い換えるならハドラー親衛隊の目的は、ハドラーのためにダイ一行の戦力分析をすることにある。

 そのためにダイとの対決は必須だが、それはリーダーであるアルビナス自身が戦うことが必須ではない。接近戦に強いヒムとダイを戦わせて、その様子を客観的に観察するのが目的だったのだろう。


 指揮系統が固まりきっていないダイ一行と、アルビナスをリーダーとして共通の目的のために一致団結している親衛騎団――人数こそ同じでも、戦う前からすでに明暗が見えているような、なんとも不安な戦闘開始である。

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