13 ダイ一行VS親衛騎団戦(8) クロコダインとブロック

 

 ハドラー親衛隊との戦いの際、マァムの次に戦いの意思表示を見せたのはクロコダインだ。
 マァムはポップからの頼みで戦う相手を決めたが、クロコダインは自分の意思で戦う相手を選んでいる。

クロコダイン「……オレはあのでかい奴をやる!!」

 クロコダインが見定めた敵は、城兵(ルック)のブロックだ。初登場時、船を担ぎ上げて登場した際、クロコダインは未到着だっただけにその剛力ぶりは知るはずもない。

 だが、親衛隊の中で最も巨体である敵に対して闘志を燃やし、ブロックと戦うと宣言している。
 ここでクロコダインがブロックを選んだ理由は、自分と同じタイプのパワーファイターだと見抜いたからだろう。

 正々堂々とした勝負を好むクロコダインにしてみれば、同タイプの戦士と真っ向から戦いたいという希望があったと思われる。だが、ブロックとの対戦でクロコダインはほぼ惨敗してしまっている。

 まず、体格自体がブロックの方が一回り以上大きい。
 格闘技では10キログラムの体格差があれば、あらゆる攻撃が無効化されると言われているが、ブロックとクロコダインの対戦も一方的な展開になっている。

 ブロックの攻撃でクロコダインはあっさりと倒され、さらには足で踏みつけられてしまっている。
 その際、クロコダインが信じられないとばかりの表情を見せているのが非常に印象的だ。

 続いて、クロコダインはブロックにアルゼンチン・バックブリーカー……日本語で言うなら背骨折りと呼ばれる技を決められている。この技は自分の両腕と平行になる形で相手の身体を自分の肩の上に乗せ、手足を拘束しつつ、背骨や腰にダメージを与える大技だ。

 これは、相手を完全に持ち上げるという技なだけに、筋力、体格で相手を上回っていなければ仕掛けることさえ難しい。
 逆に言えば、この技を決められたクロコダインは、ブロックに力で劣っているとはっきりと証明されてしまったわけだ。

 バックブリーカーを仕掛けられている際、鎧にヒビが入るほどのダメージを受けているクロコダインは苦痛に呻いているが、この時も彼の目は驚愕に見開かれている。

 これは、単なる苦痛のせいだけとは思えない。
 クロコダインは六団長の中で最も力に特化しており、腕力だけならハドラー以上との自負もあった。他の軍団長もクロコダインの剛力や体力には一目置いており、本人もそれを誇りに思っていた節がある。

 しかし、ブロックとの戦いでクロコダインのその誇りは木っ端微塵にされてしまった。
 大げさに言うなら、クロコダインにとってのアイデンティティーが崩されてしまったのだ。

 アルビナスが親衛隊に一時集結を呼びかけたため、ブロックはクロコダインを地面に叩きつけてその場を去っているが、そうされなかったのならおそらく自力脱出もできなかっただろう。

 辛うじて止めを刺されなかっただけで、クロコダインは勝負としては完全敗北してしまっている。

 しかし、クロコダインの強みが発揮されるのはこれ以降だ。
 ヒュンケルの治療のために一時集結したダイ達だが、クロコダインは相手の強さを認めた上で、違う作戦を立てるように提案している。

クロコダイン「やつらは個々の能力では、オレ達よりはるかに上だ!! 力に力、速さに速さでは対抗しても絶対に勝てんッ!!
 むしろ、異なった能力で立ち向かっていくべきだ!!」

 敗北のショックから即座に立ち直り、仲間達との協力を持ちかけている柔軟性に、クロコダインの戦士としての成長が見て取れる。
 ダイと初めて戦った時は、敗北に憤り、荒れ狂っていたことを思えば、見違えるような成長ぶりだ。

 ダイ達との敗北で大きく成長したクロコダインに、敗北による思考停止はもはやない。そして、同じくダイ達の戦いから、仲間同士で力を合わせて戦う利点を実感した彼は、躊躇なく共闘を持ちかけている。

 バランとの戦いで、格上の相手へ挑む心構えを鍛えたクロコダインは、これ程の惨敗にも全く心折れることなく、ごく当たり前のように戦いを続行できるだけの精神力を鍛えたのだ。

 しかも、クロコダインの台詞の中で『速さ』について言及しているのにも、注目して欲しい。

 ダイやヒュンケル、ポップなどは仲間達の戦いぶりに目を配っていたが、マァム、クロコダインにはその描写はなかった。

 だが、この台詞から察するに、クロコダインはマァムがシグマとの戦いで速さで押し負けていたのを見ていたのだろう。あれだけの苦戦の最中、マァムが敵に速さで劣っているのを見て取り、このままの方針で戦うのは危険だと判断したのだとしたら、たいした目の配りっぷりだ。

 度重なる敗北を経て、クロコダインは武人としての誇り高さはそのままに、決して折れないしなやかな柔軟性を身に着け、いつでも協力し合える仲間との絆を獲得した。

 自分だけで戦うのではなく仲間達全員を気遣いながら、勝利を得るためサポートする立ち位置を自然に取れるからこそ、クロコダインはその実力以上に評価されているのだろう。

 惨敗しているとは言え、クロコダインの成長と頼もしさを改めて見直すことの出来るシーンである。

014に進む
012に戻る
10章目次に戻る
解析目次に戻る

inserted by FC2 system