14 ダイ一行VS親衛騎団戦(9)ダイとヒム |
ヒュンケルへの敵愾心を隠しもせず、彼と戦う意志を最初から見せていたヒムだが、リーダーであるアルビナスはヒムに対して勇者ダイと戦うように命じた。 それに対してヒムは反発し、文句を言い返しもしたが、それでいて彼はすぐさま気持ちを切り替え、ダイとの対決に当たっている。 ヒムは親衛騎団のメンバーの中で、もっとも感情を表に出すタイプであり、好き嫌いもはっきりとしている。だが、それでいて彼は感情に引きずられず、プラスマイナス抜きで戦いに挑めるだけの理性を持ち合わせている。 ヒュンケルを特別視していながら、ヒムは一度戦うと決めた後は、ダイに全神経を集中させている。 武器を持たないヒムの戦いは、拳を相手に叩きつけるというもの……所謂ボクシングスタイルだ。敵への距離を一気に詰め、オリハルコン製の豪腕で殴りかかっていく。 ボクシングと考えれば当然かも知れないが、左右どちらの手でも攻撃可能であり、しかもその腕は敵の攻撃に対する盾代わりとして使用することもある。更に言うならば、ヒムは時折足技を攻撃に含めてくる。 また、彼は相当に動きも素早い。攻撃を回避する際、わざわざダイのナイフの刃の上に立って見せるなどパフォーマンスじみた行動も見せている。 ダイがすぐにそれに気づかなかったところを見ると、これは純粋な体術ではなく、トベルーラを利用して体重を一時的に消して刃の上にのってみせた、と見るのが自然なのではないだろうか。 相手と距離を詰めて殴り合うのがヒムの好みの戦闘スタイルのようだが、彼がトベルーラを体得しているのであれば、距離を置きながらの戦いも可能だということになる。 しかし、この時のヒムはダイに徹底した接近戦を挑んでいる。そして、その戦いにはどこか余裕が感じられる。 ナイフの上に立ってみせたように、自分の力を見せつけるような動きを取るヒムは、同時にダイの力を引き出そうとするように度々挑発的な台詞を投げかけたり、様子見をするように一歩後ろに退いてみせたりしている。 ヒムの関心が、ダイの剣にあるのは明白だ。 アルビナスの命令で、ハドラーのために勇者一行の偵察をするのを最優先したヒムは、粗暴な言動の裏できっちりとダイの観察を行っているのだ。 だが、そんなヒムに対し、この時のダイは今ひとつ冴えがない。 この時のダイは、必死ではあるものの空回りしている感が強い。集中力が著しく掛けているのである。 ポップのピンチに気づいたり、倒れている人達が苦しそうなのを見て、ダイはひどく焦っている。その焦りは、剣を抜きさえすれば解決できると思う気持ちから発生している。 実際、ダイのその考え自体は間違っているとは言えない。 厄介な物事を解決しようとすること自体は、悪いことではない。が、解決策が一つだけと思い込んでしまうのは、決していいことではない。 金策に困って、直情的に犯罪に走り一生を棒に振ってしまう人達がいるように、解決策が一つしか無いという視野狭窄に陥るのは危険だ。冷静に考えれば複数の解決策が思い浮かぶだろうし、心にゆとりが生まれれば新たな手を打つことも出来る。 が、この時のダイは完全に思考が固定され、目的と手段がごっちゃになってしまっている。ポップやみんなを助けたいという気持ちと、そのためには絶対にダイの剣を抜かなければならないという思いが固定化され、がんじがらめになってしまった。 言わば、思考の袋小路に入りこんでしまった形だ。 しかし、ここでダイを助けたのがノヴァだった。 その際、ポップがノヴァの側に居て、彼と会話するだけの余裕があったのが、ダイにとっては幸運だったと言える。 ダイの反省は、ひどく素直だ。やたらと自虐的になりがちなヒュンケルと違い、自分の間違いを素直に認め、それを気づかせてくれたノヴァに感謝と仲間意識を抱いている。 戦いとは直接関係ないが、この素直さこそがダイの真骨頂と言えるだろう。 ダイ『きっとある! おれの剣が抜けないということは、おれたちの力だけでやつらを倒す方法がきっとあるってことだっ!!』 ダイのこの発言は、論理的とは言えないし根拠もない。 実際、この直後、再び襲ってきたヒムに対し、ダイは背中の剣を抜こうともせず、パプニカのナイフも使わず、竜闘気を全開にして殴りかかっている。 拳同士の真っ向からの打ち合いは、ダイが上回っている。伝説の金属よりも、伝説の神の兵器の方は性能は上の様だ。 ヒュンケル「ダイ! そいつをこっちへ落とせ!!」 それを聞いて、ダイは空の技が使えるのが自分一人ではないことを思い出す。自分だけで敵を倒そうとしなくても、仲間と連携すればいいと気づいたダイは素直にヒュンケルに従い、ヒムを殴り飛ばして落下させた。 そこを狙い澄まして、ヒュンケルが虎空閃を放つ――空の技を極めた兄弟弟子同士が連携するシーンは実に印象的で、じわりと感動が込み上げるシーンである。 |