11 郵便について

 

 便宜上『知り合いに手紙を送ること』を郵便と呼んでいますが、この世界で一般市民が使っている郵便はずいぶんと未発達なものであり、国家によってきちんと管理されたシステムではありません。
 複数の民間企業が行っているだけの、ただの社会事業です。

 基本的には、受け取った手紙を宛先の方向に行く隊商に預けるというのが郵便屋の仕事になります。つまり郵便屋はただの仲介屋であって、責任持って手紙を相手まで届けるわけではありません。あくまで知り合いの隊商に手紙を渡し、運んでもらうようにプロデュースするのが郵便屋の力量というわけです。

 郵便を受け付けているのは、実は隊商本体ではなく馬車屋や大手の商店だったりします。また、ベンガーナ王国ではデパートが最大の郵便受付大手です。

 知り合いの隊商が多くコネがあればある程有利な商売なので、隊商と接する機会の多い職業が行っている副業にすぎないのです。副業なのは隊商としても同じであり、荷物を運ぶついでに行うサービス的な仕事でしかありません。

 実際に郵便をだす際、差出人は宛先をきちんと書いた手紙を用意した上で大きめの町に行く必要があります。小さな村などでは、そもそも郵便の副業を行っている者自体が稀だし、行っていたとしても行く先が限られている場合がほとんどだからです。

 郵便を副業として掲げている店に行き、宛先に配達してもらえるかを交渉します。
 基本的に遠ければ遠い程値段が高くなり、また、届かない事故率も高くなります。というのも宛先が遠い場合、隊商が旅先で別の隊商に預けるという形になるので間違いが発生しやすくなるのです。

 基本的に手紙を出す際、郵便屋が紹介料を含めた上で代金を請求し、その証明として払った金額に値する切手を手紙の上に貼るのが決まりです。
 そして、紹介料を除いた代金を隊商に渡し、その隊商もまた、別の隊商に手数料を抜いた代金を渡して手紙を預けるというシステムをとっているのです。

 しかし、この方式だと数度別の隊商の手に手紙が渡った場合、赤字になりかねません。隊商の方も商売ですので、手数料不足になり儲けがなくなった手紙は受け取るのを拒否する場合が多く、そういう場合は手紙は旅の途中で捨てられてしまいます。

 良心的な優しい隊商に当たった場合は赤字であっても手紙を届けてくれる場合もありますが、商売とはシビアなものですから。
 また、距離だけの問題ではなく、時期も手紙の値段を変化させます。手紙は治安のいい時期ほど安く、戦争などが起り隊商の動きが不活発になると高くなります。

 季節も同じで、旅に向く季節の方が安いです。一般的に冬の手紙は春よりも高く、届く確率も悪いと言われています。
 そんなわけなので、遠いところから郵便を利用して手紙を出す場合は、それなりの大金を使う上に確実に届くという保証もないため、郵便を使う人間はまだまだ少数派です。

 それだけに遠方から手紙が届くというのは、田舎の村の人間にとっては一大イベントになります。
 アバン先生の様に、旅先から遠い故郷へと手紙を送るのは実に珍しい例です。

 事故も怖い上にお金がかかるので、普通は2、3度別の隊商に渡る距離ぐらいが手頃な手紙の距離とされています。
 また、郵便は目的地の家に直接届けられることは、稀です。

 目的地の街や村の町長か村長、もしくは神父に届けられ、彼らがボランティアで手紙の受け取り手に渡すのが普通です。そのため、意地の悪い町長や村長に当たった場合、なかなか手紙が届けられない場合もあります。

 基本的に郵便は、人が歩いて移動するのとほぼ同じ速度で差出人から受け取り手へ移動すると考えてください。その期間でつかなかった場合、途中でなんらかの郵便事故が発生しています。

 こういった隊商型郵便とは別に、数は少ないですが馬などを利用して、手紙を専門に送り届けるのを役目としている郵便屋も多少はいます。彼らは主に短距離を移動するための郵便屋であり、王都のような大きな街にだけ存在しています。
 主に貴族や裕福な商人などが連絡を取り合うのに利用されます。

 また、王族の場合は訓練を積ませた兵士達の連絡網を用意していますし、ほとんどの王国では伝書鳩もそなえています。
 数は少ないながら移動呪文の使い手も抱えている国もありますし、王族達は連絡に不自由する事はありません。 

 

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