『魔法使いのいない勇者 2』

  
 

「え? おれ?」

 名指しで聞かれ、ダイはきょとんとした顔になる。それでも、聞かれた質問にはきちんと答えようとした。
 年齢の割には太い眉を寄せて悩みながら、真剣に答える。

「そりゃあ……やっぱり……」

 誰もが最も期待する勇者の意見ともなれば、当然聞き捨てなら無い。ノヴァだけでなく、全員が彼の口から続く言葉に期待した。
 が、その期待に反して、言葉はひどく短く、あっけらかんとしたものだった。

「困ったなって思うよ」

「バーカ、そりゃ『考え』じゃなくって『感想』だろ!? この先どうするかって話をしてるんだろうが、今は!」

 ダイのすぐ隣に座っているポップが、すかさずツッコむのを誰もが咎めなかった。内心、ノヴァもそうしたいと思ったぐらいだ。
 どうやら戦いの場と違って、会議では勇者の活躍はあまり期待できないらしい。

「しかし、この先っつってもなぁ……。船を壊されてしまったのは痛いよなあ」

 誰かの、途方に暮れたような一言は、その場にいる多くの人間の総意でもあった。

 大魔王バーンの本拠地があるとされる、死の大地。そこは、生き物どころか草木すらろくに生えていない不毛の地であり、そこの土地を訪れる人間などいない。

 当然、そこに行くための手段も存在してはいない。激しい海流は、そんじょそこらの小船などは受けつけない。だからこそベンガーナ国王の多大な助力を受けて、この場所に造船所を築き、密かに軍船を造りあげていたのだ。

 ほぼ完成していた船を壊され、造船所を使用不可能なまでに壊された意味は大きい。
 だが、各国の勇者達を打ちのめしたこの事実さえ、ダイ一行にとっては致命的な問題とはならなかったようだ。

「死の大地なら、おれやダイのルーラで行けるぜ」

 そう言ったのは、ポップだった。

(……!)

 軽い屈辱感が込みあげるのを、ノヴァはどうしても抑えきれなかった。
 冷静に判断するなら、船を再建するまで手詰まりになるよりも、瞬間移動呪文で行った方がいいに決まっている。魔王軍の進行はあまりにも早く、一般の人々の被害は日を追うごとに大きくなっていくのだから。

 だが、最北の大陸で暮らす自分でさえ行った例のない危険な地に、遥か南方で暮らす勇者ダイ達が先んじていると知るのは、いい気分ではいられなかった。

「前に一度、行ったんだよ、トベルーラで。あの場所になら、飛べる。ただ……あんまりやりたくなかったんだけど。あの場所は、敵さんにもバレてるからなー」

 あまり気が進まない口調で、ポップは言う。なにしろ、以前、敵におびき寄せられて待ち伏せをくらった場所だ。

 魔王軍としても、勇者一行の動きに注意を払っているだろう。
 他の生き物の侵入を拒む死の大地――そこに辿り着ける可能性を持つ人間がいると知っていて見張り番をつけないでいる程、彼らは自惚れてもいなければ、間抜けでもない。

 魔族の中には、長時間同じ場所を見張り続け、しかも通信能力に長けた種族も数多く存在しているのだから。
 最悪の場合、瞬間移動呪文で移動した瞬間に敵にばれ、逆に総攻撃をかけられる可能性さえあるのだ。

「それに、これだけの大人数だと一度に運ぶのはちょっとなあ」

 と、ポップは自信なげに周囲を見回す。
 瞬間移動呪文は本人以外も移動させられるとはいえ、人数が増えれば増える程、難度が上がる。十数名程度ならばともかく、それ以上の人数を運んだ経験などポップにはない。

 だが、それに文句を言える人間などこの場にはいまい。
 ダイにしろノヴァにしろ、瞬間移動呪文はやっと使える程度の腕前であり、一人二人ならまだしも、大勢の人間を移動させられる程の力は無い。

「他にも、瞬間移動呪文が得意な奴がいるといいんだけど……」

 ポップの言葉に釣られて、皆の視線が自然にロモス出身の魔法使いの目に集まる。と、痩せぎすの魔法使いは、慌てて手を振った。

「い、いや、私にはそれ程の力は無い! 残念だが……こんな時に、アゾート殿がいてくれればよかったんだが……」

「アゾート?」

「ああ、君達は知らないかもしれないな。北の探求者アゾート……ここら辺りでは、有名な魔法使いだよ。その知識の深さと、魔法道具の研究の腕前においては、あの世界一の魔法使いであるマトリフ師にも肉薄すると言われた程の魔法使いだ」

 アゾートの名は、リンガイア生まれのノヴァにとっては耳新しい物ではない。数十年前から伝説的な名声を獲得している地元の魔法使いの名は、リンガイアにとって誇りでもある。

 だが、彼もまた、北の探求者と表現される。その実力を表現するのに、魔法使いの中では最高の知名度を誇る大魔道士マトリフの名を引き合いに出す紹介が、なんとなくノヴァには気にいらない。

「へえー、すごい人なんだね。なら、その人に協力してもらえないのかな?」

 素直に感心するダイに、ノヴァはついついきつい口調で言い返した。

「無駄だ。すでに助力を頼んだが、断られた。あの方は、俗事には関わりたがらない」

 魔王軍と戦うために集まった者達は、基本的に自分の意思による有志隊だ。だが、国王や重臣より推薦を受け、志願を決めた者も少なくはない。

 元リンガイアの宮廷魔道士のアゾートはノヴァの父、バウスン将軍が真っ先に推薦し、勧誘した魔法使いだった。
 だが、彼は推薦を辞退した。

「マジかよ。俗事に関わりたくないって言ったって、このままだったら魔王に世界が滅ぼされちまうってのにさ」

 呆れたようにポップが口を差し挟む。
 それはその通りだが、ここまで俗っぽい魔法使いに言われたくもないとノヴァは思う。年齢のせいが大きいのかもしれないが、ノヴァはポップほど魔法使いっぽくない魔法使いを見たことはない。

「……彼には彼の、考えがあるんだろう。それに、今から助力を頼むのは事実上不可能だ。探求者アゾートはめったに人前に出てはこないし、連絡は彼の方からでなければ取れない。そもそも、彼の住居すら我々にははっきりとは分からないんだ」

 バウスン将軍のその説明に、ポップはなおも食い下がる。

「でもさ、協力を頼んだってことは一度は会ったんだろ?」

「いや、面会すら許可されなかったんだよ。アゾート様は大変な人間嫌いで、連絡を寄越す時は向こうから伝書鳩を飛ばしてくるだけでね」

 元宮廷魔道士の特権というべきか、アゾートはリンガイア王宮に随時連絡を取れる伝書鳩を数羽飼っていた。

 リンガイア側からアゾートへの連絡を送ることは出来ないが、鳩を彼の元に返す際、簡単な書簡を預けるぐらいのことはできる。
 それに返事が戻ってくるかどうかは、アゾートの思惑次第だったが。

「時折、助言や協力を求める手紙を送ってはいたのだが、最近は返事もほとんど来なくてね。一ヶ月ほど前に、向こうから手紙がきたのが最後に、連絡が途絶えてしまったんだ」

「その手紙には、なんて書いてあったんですか?」

 レオナの質問に、バウスン将軍は苦笑した。

「それが、残念ながら我々には読解不能な暗号めいた文章でね。この文を解き明かした者になら、出来る限りの助力しても構わないと書いてあったんだが……恥ずかしながら誰にも解読できなかった」

 気を利かした部下の一人が、バウスン将軍の言葉が終わるか終わらないかの内に、一通の手紙を取り出してきてレオナの前へと運んだ。

「あら……これは」

 直接手紙を見たレオナも、隣の席にいるエイミも見た瞬間に顔をしかめる。全然変化がないのは、レオナの左隣に座っているダイくらいのものだ。

「どうしたの? レオナ、そんなに難しい暗号なの?」

 ダイにとっては、字はみんな同じだ。
 どんな難解な文章だろうと、逆に簡単な文章だろうと、まったく読めやしないのだから。対照的な反応を見せるその二人に興味を引かれたのか、ダイ一行の連中が席を立って彼女の後ろに回り込み、手紙を除き込む。

 彼らの邪魔をしないようにしながらも、ロモス武闘大会の決勝進出者達も興味ありげな様子で遠巻きにそれに習った。

 しかし、ノヴァは席から立とうとしなかった。
 除き込むまでもなく、ノヴァはさんざんその手紙を見た。何が書いてあったのかも、だいたい覚えている。

 対魔王軍への誘いを固辞した後、ただし真の勇者にならば助力も辞さないとも書いてあった。真に勇者たる資格を持つ者は、ここに来られたし、と。
 だが、その後に書かれた文章は――。

「真の勇者とは、智に秀でし者……真の勇者とは武に秀でし者……でなければならぬ。……北の外れの洞窟を……訪れよ……閉ざされし扉を開ける……ものならば、汝は勇者の資格あり……」

 とぎれとぎれながらその文章を読みあげたのは、ポップだった。ノヴァやレオナ、バウスンなど、その文章の意味を知りつつも読めなかった者はそろって息を飲む。

 だが、文を見事に読んだポップだけが、その驚きの理由を理解していなかった。

「なんだ、すっごく偉そうでタカビーだけど普通の文章じゃん。詳しい場所もちゃんと書いてあるし、これのどこが暗号なんだよ?」

「普通の文って……これ、古代語じゃない!? ポップ君、読めるの?」

 レオナの驚きに、ポップはかえってとまどった顔を見せる。

「読めるのって……普通、字ぐらい読めるだろ? ダイじゃあるまいしさ」

「そりゃあ普通の字ならね。でも、こんな古代語なんてとても無理よ」

「へ?」

 ポップの目が、まんまるく見開かれる。
 驚きのせいか口までぱっくりあけながら、ポップは相手が嘘をついているかどうか見定めようとするように、レオナやエイミ、それにその他の魔法の使い手達の顔を忙しく確かめる。

「古代語、読めないって……。古代語って、魔法使いや僧侶なら読めなきゃ恥ずかしいぐらいの、超初歩的な必須課目じゃなかったのか!?」

「なに、それ?」

「……そんな話、初耳ですけど? ……っていうか、そんな無茶な話、誰から聞いたんですか?」

 かっきり1分ばかり沈黙した後、ポップは絶叫じみた声を上げる。

「あーっ、先生に騙されてたぁーっ!? ちくしょーっ、先生の嘘つきーっ」

 わめき立てる魔法使いの少年を、ノヴァはいささか冷めた目で眺めやる。

(……こいつ、利口なんだか抜けてるんだか……)

 あっさりと嘘に騙されるところは抜けているとしか言えないが、古代語は少しばかり教えを受けたぐらいで即座に読解できるような文章じゃない。

 歴史に関わる秘文書を記述するために使われるための字は、かつては王侯にしか読み書きを許されない特殊な言語だった。現在でこそ機密性は薄れたものの、読解を拒むかのような難度の高さが、読み手を極端に選ぶ。

 高位の王族か、相当な知識を持つ賢者でもない限り、完全な読解は不可能だろう。
 実際、ノヴァも貴族の端くれとして相当に勉強した方だが、それでもいまだに自力で読めるまでには至っていない。

 難解なことでは折り紙付きで、完全習得までに少なくとも十数年は要するといわれる程の難しさだ。
 それを思えば、どう見ても庶民出身であり、この年齢なのに曲がりなりにも古代語を読めるポップの知性は称賛すべきだろう。

 ――ただ、古代語の貴重さや特殊さに気づきもしない間抜けっぷりもまた、そうめったにいない逸材っぷりだが。

「よく今まで気がつかなかったわね、ポップ君……」

 仲間であるはずのレオナ姫でさえ、感心しているよりも呆れている色合いが強い。

「だって、先生はスラスラ読めてたし、師匠もそうだったから、おれはてっきりみんなそうだと思って……! くそっ、師匠も師匠だ……っ! 絶対、気がついたくせに黙ってたなっ、だから信用できねーんだっ!」

 仮にも先生と師匠に対してボロクソに文句を言うポップを無視して、レオナは地図を広げて話を続ける。

「さて、暗号の意味を紐解く者がいるのなら、北の探求者に助力を願わない手はないわね。この際、協力者は多い方がいいもの。ではさっそくメンバーを絞って、彼の助力を依頼に行く方向に進めましょうか」








 その洞窟は、他人を拒絶するかのように、険しい山肌の麓にひっそりと存在していた。
 元リンガイア王宮からの距離としては遠いが、現在の隠れ家からはそう遠くもない場所。

 幸いにも無事な馬車は残っていたので、それを利用してダイ、ポップ、マァム、ヒュンケル、ノヴァの5人でそこに向かった。
 最初はごく当然のようにダイ達だけが行こうとしたのを、食い下がって自分も行くと言いだしたのは、ノヴァだった。

 ノヴァにしてみれば、この役割は譲れない。
 北の探索者の存在は、北方では有名だ。真の勇者のみに力を貸すと広言し、人前に姿をだそうとしない孤高の魔法使い。

 勇者に一度でも憧れたこの地方の少年ならば、彼に認められ、勇者と晴れて名乗る夢を抱くものだ。
 かつて、勇者アバンに大魔道士マトリフという魔法使いが補佐についたように、勇者には魔法使いが付き物なのだから。

 勇者は一人でも戦うべきだという持論を持つノヴァでさえ、彼に認められたいと思う気持ちが全くないとは言えない。

 いや――もし、アゾートが自分を差し置いてダイを勇者と認めたのなら、それはひどいショックだろう。
 そう思えば、何がなんでも一緒に行かずにはいられなかった。敗戦後のショックや、身体のダメージなど問題ではない。

 だが、せっかくやってきたというのに、目の前にある洞窟は、拍子抜けするぐらいに小さなものだった。
 古ぼけたその洞窟は入り口は扉で厳重に閉ざされてはいるものの、一見特に貴重な存在とは思えない。

 だが、洞窟の周囲には魔法がはりめぐらされているのか、青白い光に覆われていた。
 ヒュンケルやマァムの様に、魔法を得手としない戦士系の者にさえはっきりと見て取れる、並ならぬ魔法の輝きに満ちた光だ。

 そして、これみよがしに入り口の前に佇んでいるのは、二体のゴーレム。クロコダインにも匹敵する巨体のもの言わぬ戦士は、石像の様に動かない。

「うかつにこの中に入らない方がいいぜ。あのゴーレム、近寄ると動きだすぜ、多分。これ……なんか、すんげー厄介な仕掛けみたいだ」

 魔法の光の外側にご丁寧に設置された、細かな文字を書き込まれたプレートを眺めながら、ポップは顔をしかめた。

 ノヴァや一般人から見れば、大きな文字で書かれた立ち入り禁止の文字しか読めないが、ポップにはその下に書かれた小さな古代語の意味も理解出来るらしい。

「えーと、これによるとだな、魔法が使えて、なおかつ強大な力を持つ人間しかこのほこらの入り口は開かれないみたいだ。つまり、要は勇者様ご専用の扉みたいだな」

「それって、どーゆーこと、ポップ?」

 考える様子もなく、ダイは素直に疑問を口にする。

「ん? よーするにこの中に入りたきゃ、あのゴーレムを薙ぎ倒しつつ、あそこの入り口の宝玉に魔法力を注いで開けろってことらしいぜ」

「そうなの?」

 分かったような分からないような顔をしたまま、ダイが頷く。

「じゃ、とりあえず、おれ、試してみるね!」

「あっ、こらっ!?」

 ポップが止めるより早く、ダイがひらりと光の中へ飛び込んだ。
 途端に、今まで彫像のように固まっていた左のゴーレムがぎこちなく立ち上がった。そしてその豪腕を、躊躇なく侵入者の少年に向かって振り下ろす。

「ダイッ!?」

 心配そうに叫んだのは、ポップただ一人だった。
 彼以外の目には、ダイが余裕を持った動きでその腕を回避する様が、はっきりと見えたのだから。
 軽くゴーレムを避けながら、ダイは腰の後ろにさしたナイフを抜き放つ。

(あんな、小さなナイフ一つで何をする気なんだ?)

 ふざけているのかとノヴァは一瞬思ったが、ダイはそのナイフを手にしっかりと身構えた。
 無論、ダイのその行動が見えているだろうが、ゴーレムの動きは変わらない。先程避けられた攻撃と全く同じタイミングで、再び拳が振り下ろされる。

 が、今度はダイは避けなかった。
 姿勢を低くし、そこから一気に爆発するような勢いでナイフを振り上げる。
 固い激突音が響き、ゴーレムの腕が跳ね上げられた。
 その時、もう片方のゴーレムの目が輝いた!

「ダイッ、避けて!」

 今度は、マァムが鋭い声を上げる。
 微動だにしないままの右のゴーレムは、その目の輝きと共に魔法の光をダイに向かって放っていた。

「……ッ!?」

 到底、避けられるタイミングではない――だが、魔法の光弾の直撃を受ける瞬間、ダイの拳に竜の紋章が浮かび、身体が光の被膜に包まれた。

 派手な爆発音とは裏腹に、ダイにダメージが与えられた形跡は全くない。しかし魔法の着弾余波の煙が消える前に、もう左のゴーレムの攻撃が寸前に迫っていた。

 動きが鈍かったのは起きあがるまでで、一度動きだしたゴーレムは滑らかに途切れることなく動いている。
 今度は魔法のせいか避けるのが遅れたダイだが、拳が当たった瞬間にその勢いにあわせて自ら後ろへと飛んだ。

 見た目は派手に吹っ飛んだように見えるが、ダメージはほとんどない。それどころか、その勢いを利用して、うまく扉の前にまで移動している。
 片手でナイフを身構えたまま、ダイはゴーレムから目を離すことなく宝玉に触れ――困ったような顔をして、ふり返る。

「ポップ〜? そう言えば、魔法を注ぐってどーやればいいの!?」

 ――今更、緊迫感台無しの、真の抜けた質問である。

「バ、バカかおまえはっ!? そこまで行っておいて、何を言ってやがるっ!?」

 半ばコケかけながら怒鳴るポップに、誰一人として言葉が過ぎるとは言わなかった。

「とりあえず魔法を打つつもりで、手のひらに力を込めてみろよ!」

「えーと、じゃあ、メラっ!」

 あげく、ダイが選んだ呪文のあまりのレベルの低さに呆れたのは、ノヴァ一人だけではなかったようだ。
 扉が一瞬だけ光り、ゴーレムがぴたりと動きを止める。
 そして、重々しい声が響きだした。

『汝は、真の勇者に非ず。なれば、引き取られよ』

 その言葉と同時に、魔法円そのものが強烈な光を放ちだしたかと思うと、扉の前にいたダイの姿が消えた。

「!?」

 瞬間、全員の驚きが重なったが、消えたはずのダイは魔法円の外側に忽然と現れ、どさっと地面に落ちる。

「あ、あれれ?」

 最初、魔法円を飛び越えた所に戻ってきたダイは、不思議そうにキョロキョロと周囲を見渡すが、特に異常があるようには見えなかった。

「これ……バシルーラの変形呪文がかかってんのかよ? 厄介だなあ」

 今はもう収まった魔法の光とダイをしみじみと見比べたポップが、溜め息混じりにぼやく。

 バシルーラ――強制移動呪文。
 本来なら呪文にかかった人間を強制的に本拠地まで送り返す呪文だが、どうやらこの場所にかかっているのは条件に合わない者を強制的に敷地内から弾き出す効力の魔法のようだ。

 見た目とは裏腹に、高度な魔法の張り巡らせられた洞窟を前にして、一同は顔を見合わせるばかりだった――。


                                    《続く》
 
 

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