『青葉の木の下でうたたねを』 |
「ポップーッ。ポップ、どこだよー?」 声を張り上げながら自分の魔法使いを探していたダイは、中庭でやっと目的の人物を見つけた。 「なんだ、ポップこんなとこにいたのか、探しちゃっ――」 言いかけた言葉を慌てて止めたのは、ポップが単に寝転んでいるのではなく、眠っているのだと気がついたからだ。 (なぁんだ……、つまんないなー) 正直、ダイはがっかりせずにはいられない。ポップと遊びたいと思って城中をさんざん探したというのに、やっと見つけたら眠っているだなんて。 ポップは、いつも忙しい。 ダイが見てもよく分からない書類とにらめっこいていたり、じゃなかったら国内外の偉い人と難しそうな話をしたりと、一日中途切れることなく仕事に追われている。 時にはその仕事が終わりきらないのか、自室に戻らないで執務室にこもりっぱなしになることもあるぐらいだ。そのせいかポップは時々、眠そうにしている時がある。 ここ数日もそうだった。 今日だって、そうだった。 食事を食べに行ったのなら問題はないのだが、ポップは食事を抜いてでも昼寝を優先する時がたまにある。ダイならたとえ少しぐらい眠くってもご飯だけは何が何でも食べるところだが、ポップはどうもそうではないらしい。 (遊んでくれないのはガマンするけど、ご飯は食べて欲しいんだけどなぁ……) ダイはため息を一つついてから、考え込む。 (えっと、どうしよう?) さっきまではとりあえずポップを探すことを優先していたが、いざ実際に目的を見つけてしまうとかえって迷ってしまう。 ダイ的には、ポップと会えたのならまずお昼を食べたかどうかを聞くつもりだった。ちゃんとお昼を食べたのなら、一緒に遊ぼうと誘うために。 だが、こんな風にポップが眠っていることなど、全く考えてもいなかった。全くの想定外なだけにどうしたらいいのか分からなくて、悩んでしまう。 (えーと、えーと、どうしよ? なんかお腹空いてきたけど、でも、ポップは起こしたくないし〜) ポップの疲れを気遣うのとは別の意味でも、ダイはポップを起こしたくは無かった。 ポップはとにかく、寝起きが悪い。 昼寝の邪魔をしたりしたら、ポップがいかにむくれるかは想像に難くない。ヘタをすれば一緒にご飯を食べるどころか、当分の間は顔も見たくないと言いだしかねない。 それを思えば、ポップを起こさずにこのままそっと立ち去ってお昼を食べに行く――それが、一番無難な解答なのかもしれない。 (あ、結構、気持ちいいかも) 手入れが行き届いていないせいで伸びっぱなしの芝生はふかっとしていて自然のクッションのようでなかなか寝心地がいい。旅先で野宿していたときよりも、よほど上等な自然のベッドだ。 上にかける物がなにも無いのではちょっと肌寒くはないかと心配だったが、日差しを吸い込んだ地面は柔らかい熱を放っているように暖かだ。 うららかな春の日差しは、格別気持ちが良かった。風もないし、太陽の暖かさを実感できる。そして、頭の部分は梢が優しい影を落としてくれているおかげで、日差しの眩しさを感じずに済む。 絶好のお昼寝ポイントに、ダイは目を細める。 (あー、これも悪くないかも……) 走り回って遊びたいと思っていたが、こんな風にじっとしているのも案外悪くなかった。少しばかりお腹が空いているのが切ないが、それも我慢できないほどのものではない。 こうやってポップと同じ場所で、一緒に横になっている方が、ずっといい。 《後書き》 筆者は若葉となった桜の木なども好きですが、あれ、毛虫がつきやすいから下でお昼寝するにはいささか不向きなんですよね(笑) |