『四界の楔 ー覚醒編 1ー』 彼方様作 |
・ポップが女の子です。 この四点にご注意の上、お楽しみくださいませ♪
“理屈は解るさ。解る、けど…でも…っ” 光と闇。 “ポップ君…” そんなポップの様子に、隣にいたレオナが気付く。 血が滲む程きつく唇を噛み締めながら、それでも動かないのはヒュンケルへの信頼か。それとも、他に何かあるのか。 ―――そして。 「…行こう」 地面を掘り始めたポップの言葉に、全員が決意を込めて頷く。 それと同時に、周囲に控えていた指揮官たるフローラ、ノヴァやバウスン、アキーム達を中心とした軍が姿を現す。
「ポップ?」 怪訝そうに自分の名を呼ぶヒュンケルに構わず、ポップは大きく手を振り上げた。 「ちょ…ポップ君!」 鎧の魔槍を宝物の如く大事に抱き締めていたエイミが、思わず声を上げる。だが次の言葉を言う事は出来なかった。 「―――っこ、の…バカが!」 抑えようとして抑えきれなかった、悲鳴染みた罵倒に、一瞬全員の動きが止まった。 「すまん、だが…」 あれ程暗黒闘気の危険性を言っていたのだ。 「解ってる!理屈は解ってる。お前にはお前なりの勝算があったんだって事も!だけどっ」 それとこれとは違うのだ。 「ポップ…」 まるでそこだけ、今の状況から切り取られたかのような二人―――いや、ポップを見てレオナはそっと目を伏せた。 それがどういう事か。 相手がヒュンケルだからここまで顕著な反応になったのだと思うが、そもそも暗黒闘気を体内に取り込む人間など、彼の他にはいないだろう。「扱う」事とは全く別問題なのだから。 ただ――――。 嫉妬があるのは間違いない。けれどヒュンケルも大切な仲間で、兄弟子で。更にヒュンケルが今まで捕まっていて、とんでもない無茶をしたのも本当で。 “ねぇ、ポップ君。やっぱり残酷だわ” 誰にも、どうにも出来ない事だけれど。 ―――俺には無理だから 変えようのない運命。 “天界にいる神様?犠牲になるのは「楔」一人ではないのよ?” 確かにポップは今までの楔とは違う行動を取っているのだろう。 “力は待っていたって、手に入らない” 「たかが人間」が出来る努力を、何故神ともあろう存在がやらない。いや、寧ろ「神」だからこそやらないのか。 その力を失いつつあるからこその、楔のシステムだろうに。 「え―――?」 柔らかな緑の光が辺り一面に広がっていく。それはポップの魔法力の色。だが、これは―――。 “回復魔法…!?” ポップが言った“きっかけ”は、恐ろしくハードルが高かった。バーン戦ですら発動しなかったものが、今ここで発動するのか。だがこれは恋愛感情云々からではない筈だ。 “しかも二フラムの同時発動って…” 暗黒闘気の影響を少しでも抑える為なのは解るが、とんでもない技術だ。違う魔法を同時発動させると言うのは、伝え聞いたメドローアと初動は同じだろう。 けれど今まで使い慣れてきた攻撃魔法と、全く使えなかった回復魔法を同じレベルで扱える事が驚きだ。 “その上、これってベホマズン…よね” 伝説級の回復魔法。 “掛け値なしの天才だわ” そうしている内に、光の波が消えていく。 「ポップ、お前…」 最もその恩恵を受けたヒュンケルが、呆然とその名を呼ぶ。 「何時の間に、賢者に」 「―――今だよ、バカ」 ポップはヒュンケルから離れると、勢いよく目元を拭いた。そこが赤くなっているのは、恐らく羞恥もあるに違いない。 「ん」 そのまま無造作にマントの下から何やら取り出すと、ヒュンケルの目の前にそれを差し出した。 「これは?」 薄紫の小さな宝石があしらわれている指輪。ただの装飾品ではないのは確かだが、石周りの繊細な意匠と細身のリングは女性向けではなかろうか。 「命の指輪。お前に取っちゃ、これ以上の物はないだろ」 身に付けているだけで、微々たるものだが一定に体力を回復させ続けてくれる奇跡のアイテム。 「何処でこんな物を」 「師匠からだよ。――――生き残れ」 無茶をするなとは言わない。言えない。そもそもこれからやろうとしている事自体、無茶なのだから。 「ああ。お前も」 見詰め合ったまま交わされる会話に、その雰囲気に、ダイと共にエイミもまたきつく唇を噛んだ。 ギュッと魔槍を抱く腕に力を込める。 ポップがずっとヒュンケルに恋愛感情を持たないままでいれば、その間愛情を示し続ければ、何時かは振り向いてくれるのではないかと言う、微かな希望。 “こんなのって” けれど今の様子を見ていると、二人の間に入る隙などないのではないかと思えてしまう。 “諦めるしか、ないの?” 理性ではそうした方がいいと思う。 しかし感情は納得しない。 「ヒュンケル」 誰もが場の空気に呑まれ動けない中で、エイミは一歩踏み出した。 「エイミ?」 「これを」 エイミが鎧の魔槍を差し出すと、ポップはスッとヒュンケルから離れた。瞬間、ヒュンケルの視線がポップを追った。 「私も、もう戦うなとは言わないわ。でも、お願い。最後まで命を諦めないで」 「ああ」 魔槍を受け取り、頷く。 “結局、ポップ君が言った事と変わらないじゃない。私のバカ!” 何か違う事を言いたかったのに、二番煎じもいい所だ。 「……そろそろいいかしら?」 そこへレオナが少しばかり呆れた風に声をかける。 「は、はい。すみません」 レオナに一礼して、エイミは慌てて処刑台から降りた。その後、レオナはポップに声をかけた。 「ああ、悪い」 「クロコダインにも?」 「そ。豪傑の腕輪」 いわゆる鬼に金棒状態か。 ダイはすぐ近くに立つポップを見上げた。 “大人、だろうけどさ” 少なくとも、自分よりは。 “あー、もー!!” 真剣にポップを好きだけど。 “おれは勇者で竜の騎士で、ダイだ” ポップの隣に立つのに、相応しい人間でありたいのだ。
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