『四界の楔 ー覚醒編 2ー』 彼方様作 |
ひ弱な魔法使い。 “バーン様” 唯一絶対の主が、何故あんな小娘に興味を持ったのか。いや、確かに言葉は聞いたが、「ミスト」バーンとしてはどうしても納得しかねるし、したくない。 “所詮はその程度…” ミストバーンは、ス、と静かに右手を上げた。伸縮自在の凶器の指・ビュートデストリンガーが、真っ直ぐにポップへ向かっていく。そのままなら、それは間違いなく背後からポップの心臓を貫いただろう。 「させる、かぁ!」 谷中に響くような衝撃音と共に、その凶刃は遮られた。 「ノヴァ」 「ポップ、皆、早く!」 「ああ、サンキュ。お前も負けんなよ」 「当然」 テンポ良く言葉を交わしながら、ノヴァは剣の柄を握り直した。彼の服の下には、ラッキーペンダントがある。 名前の軽さとは裏腹に、状態異常に対する耐性が上がり、尚且つ回避率も上がると言う優れものだ。 “少なくとも、「その他大勢の一人」ではない、と思っていいのかな” 昨夜、いきなりポップが部屋にやって来た時は驚いた。 だから、このアイテムを渡された時はもっと驚いた。 “勝率はゼロじゃない” 先刻のを見る限り、一番の強敵はヒュンケルか。 “ボクはボクの役目を果たす” 彼女達が勝利して帰ってくる事を信じて。 次の瞬間、五人の姿が消える。 五人がついた先はバーンパレスの一角。 「さて、ここからどう進むのか、だな」 「前の時はどうだったの?」 レオナの質問に、ポップが前回の戦いを順を追って説明する。 「内部構造は全く解らないって事だよ」 「じゃ、とりあえず」 「ああ」 メンバーの頭脳である二人の少女が、高くそびえる塔へ視線を向ける。残る三人もそちらへ目をやる。 「上?」 単語で尋いてきたダイに、ポップは頷いた。 「大体、玉座ってのは上にあるもんさ」 威厳と言う点でも、護衛と言う点でも。 「まあ、そうよね」 「バーンに護衛なんていらないけどな」 それに加えて、あれ程“太陽”に焦がれているのだ。少しでも近い場所に設えてあると考えるのが普通だろう。 「何が…」 愕然とする二人の前に現れたのは――――ハドラー。 “そうか…” もうハドラーには時間がないのだ。 ダイの意識が、ス…ッと戦闘モードに切り替わる。 そしてヒュンケルはヒムと対峙していた。 「てめぇ…」 戦う為に生まれたヒムが、それに気付かない訳もなく。 またヒュンケルは今でこそアバンの使徒の一人、その長兄としての立ち位置で戦っているが、元々は孤高の戦士だ。 またマァムは、アルビナスといた。 サババでの一戦で、マァムを「取るに足りない相手」と判断済みなのだ。そして時間的に見て、危険視しなければならない程のレベル・アップなど出来る筈がない、と。 「それで、私に何のメリットがあるのですか?」 「え?」 「貴女にハドラー様の延命が出来ると?」 「そ、それは――――でも、ポップなら」 「あの娘は魔法使いでしょう」 「賢者になったわ」 「それはそれは。ですが、貴女は貴女の望みを叶えるのに、自分は何もせずに仲間を利用すると?」 「利用だなんて」 「何が違うと言うのですか」 アルビナスは、増々冷たくマァムを見下す。そして更に追い詰める為の言葉を紡ぐ。 「あの娘・・・ポップが力及ばなかった場合、彼女は無力感と罪悪感に傷つき、貴女は彼女をけしかけただけで『出来る事をやった』と満足するのでしょう」 「そんな事!」 酷い侮辱だと憤るマァムを、アルビナスは歯牙にもかけない。 「貴女に私の言葉は通じないようですね。ですが、これだけは覚えておきなさい。自分の正義が絶対だなどと自惚れない事です」 アルビナスが臨戦状態に入ったのを見て、マァムは思わず一歩引いた。だが、引く訳にはいかない。 ――――正義の意味だって変わる あの時のポップの言葉が甦る。 “ポップ…貴女の勇気を私に貸して!” 過酷な宿命を背負いながら、決して折れずに真っ直ぐに生きてきた一つ年下の妹弟子。彼女に恥じない自分でありたい。 最後はポップとシグマ。 「俺にはもう、あんたと戦う理由はないんだけど」 「…どういう意味だね」 「黒の核晶の一件からでも解るけど、バーンにとってハドラーは捨て駒に過ぎなかった。そしてハドラーもバーンから離反した。そしてハドラーが超魔生物になった理由」 そこから導き出される答えは一つ。 勝敗よりも、自分の全身全霊をかけて「勇者・ダイ」と戦う事が全てなのだろう。 「あんた達の役目は、俺達にその邪魔をさせない事」 違うか? 「魔法使いはチームの頭脳とはいえ、君の推察力と思考力には恐れ入るよ」 そこまで解っているのなら、何故戦おうとしないのか。 「邪魔をする気がないからさ」 何を当たり前の事を、と言うポップに、シグマは首を捻った。 「何故?君達にとってハドラー様は師の仇。敵以外の何物でもない筈だろう」 「先生の仇ってのはその通りだけど…俺は今のハドラーをただ憎むとか、軽蔑するとか出来ない」 「―――解らんな」 困惑するシグマに、ポップは小さく肩を竦めた。多分これは、シグマだけでなく大抵の者には理解されないと解っている。 「だから、」 戦う理由がない。 「例えそうだとしても、それとは別に私自身が君と戦ってみたいのだよ」 言葉と共に槍を構えたシグマに、ポップは一度目を閉じて、その後苛烈に見据えた。 「ったく。好戦的なのは、やっぱハドラー譲りかよ」 「光栄だ、と言っておこう」 ブラック・ロッドを取り出したポップへ、シグマは不敵な笑みを浮かべて見せた。 ダイVSハドラー。 そして彼らの戦いを、遥か高みからバーンは王者の余裕で見物していた。 “まぁ、シグマ位なら、シャハルの鏡があったとしても、レベル・アップには丁度いい感じカナ” 力の消耗もあるだろうが、それはある程度彼女達も対策を立てている筈だ。 “ミナカトールなんて、殆ど化石みたいな物まで持ち出して来ているし” 主導権を握っているのは魔王軍だから、時間に追い立てられ、完璧とは言い難いと思うが、出来得る限りの準備はしているだろう。 “ホント、こんなにアクティブな秘女は初めてだヨ” だからこそ。 “頑張ってほしいヨネ” 他のメンバー達に目をやる。 彼方様から頂いた、素敵SSです! 覚醒編、と銘打った割には、ポップが賢者になるシーンよりも、ヒュンポプルートのフラグが気になって仕方がありません(笑) ノヴァ君も、すっかり恋敵はヒュンケル設定でダイには目もくれていないし。……しゅ、主人公、がんばれっ。
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