『四界の楔 ー再会編 1ー』 彼方様作


《お読みになる前に、一言♪》

 ・ポップが女の子です。
 ・元々長編としてお考えになったストーリーの中の一部分なので、このお話を読んだだけでは解明されない謎めいた伏線が多めに張られています。
 ・メルルが女の子ポップに対して憧れの念を抱いているという設定ですが、恋愛感情ではありません。
 ・キルバーンの設定が大幅に変更されています。善人風キルバーンが苦手な方は、ご注意を。

 この四点にご注意の上、お楽しみくださいませ♪














 


ダイ達がいる場所についたポップとヒュンケルは、その光景に目を疑った。

「ポップ、ヒュンケル」

「あれは」

「私が来た時には、もうあの状態だったわ」

最初から見ていたレオナにも、こうなった過程の説明は出来ても、その原因までは解らないらしい。

「闘気流だな」

「ああ。二人の闘気がぶつかって起きた現象だ」

だが、尋ねた当の二人が答える。
状況を見極めたのだろう、二人の視線はひどく厳しい。

「解るの?」

「真竜の戦いって言ってな、両者の実力が高いレベルで拮抗していた場合に、稀に起こる現象だ」

“ヴェルザーとバランの戦いでもあったって言ってたか”

説明しながら、ふと思い出す。

“て事は、今の二人はそれに近いレベルになってるって事か”

実際の所、ポップもヴェルザーの正確な戦闘力は知らない。知りようがないからだ。だがヴェルザーとバーンが長い間、危ういバランスで魔界の均衡を保ってきた事は事実。
そして戦闘力そのものではなくても、ヴェルザーの力強さのようなものは肌で知っている。

“なら、ダイはこの2〜3日でそこまでレベルアップした?”

これも竜の騎士の特性なのだろうか?敵のレベルを知る事で、それに応じることが出来る、と言う。だが、それは何処かで酷い反動が出るような気がしてならない。

“止めた方が良いのか?いや、でも…”

ハドラーの望みはともかく、ダイはどうだろう。
死の大地では即応じていたが、状況が全く違う。ただその時ハドラーに言われた「一騎打ちする男の気持ち」とやらも気にならない訳ではない。

“男…ね”

何度もダイにされた告白。
仲間や弟のような存在ではなく、一人の男として見て欲しいと訴えていた。

“いや、今考える事じゃないだろ”

先刻のヒュンケルの告白も相まって、“そっち”方面に流れそうになった思考を押しとどめる。
そんな事を考えている間に、ヒュンケルが真竜の戦いの説明を続けていたらしい。

「だから、決着は一瞬の筈だ」

「ポップ君も同じ意見?」

「ああ…けど、ダイの方が不利だ」

あの空間にいるだけで体力は削られて行く。あの場は一種の異空間だ。
ダイの体力も人並み外れてものではあるのだ。
けれどまだ子どものダイと、魔族の中でも巨躯を誇り、更に超魔生物となったハドラーではやはり比較にならない。

“どうする…?”

メドローアなら、あの熱エネルギーの塊りを全て吹き飛ばせる。いや、ハドラーの意識がダイ一人に向かっている今、うまくすればハドラーもろとも、も不可能ではない。
シグマに邪魔をする気はないと言ったものの、こうしてダイが不利な場面を目の当たりにするとその思いが揺らぐ。

“ああ、これが駄目なのか”

ダイの自分への不満。
過保護で、子ども扱いだと。

「―――姫さん、これはダイも望んだ事か」

「ええ。避けられない、避けちゃいけない戦いだって言ってたわ」

「そう、か」

ポップはふ、と力を抜いた。
霧のように淡いものとはいえ、両手に集まり始めていた魔法力が散っていく。

「ポップ君」

「甘いとは思うさ。バーンとの決戦を考えれば、余計な一戦だとも。だけど、それがダイの意志なら」

「そうね。それにきっとダイ君の魂の力は…」

ポップの魂の力が“勇気”なら、「勇者」であってもダイの魂の力は別のものとなる。
レオナの推論を聞いていたポップは、小さく息を吐いた。

“純粋、ね。確かに俺にはないな”

四人が固唾を呑んで見つめる中、事態が大きく動く。
両者がそれぞれ剣を構えたのだ。材質は同じオリハルコン。ならば勝敗を分けるのは、二人の力量とこの一戦にかける思いの強さ。そして、もう一つ。

“ノヴァとの特訓で、何を身に付けた?”

やれるだけはやったと言っていた。
ダイは、今レオナが言ったように心がまっさらなだけに、特に自信家でもないし、自分を過大にも過小にも評価しない。
そんな彼があれだけ満足そうに言ったのだ。
何かを掴んでいると期待してしまうのは、仕方がないと思う。

「動くぞ」

ヒュンケルが小さく呟く。
ハドラーが繰り出すのは、やはり超魔爆炎覇。
そして、ダイは。

「…ストラッシュ・クロス」

ポップも理論だけは知っている。だがだからこそ、その難易度の高さも知っている。それを僅か数時間でものにしたと言うのか。

“竜の騎士…戦いの申し子、か”

余りそちら側に傾いて欲しくはないのだけれど。
―――けれど、今はその力が必要で。
そのポップの横で、ヒュンケルが技の説明をする。それが終わるとほぼ同時に、全員がダイへと駆け寄る。

その様子をハドラーも見ていた。
全員が無事な姿を見て、部下―――いや、今となっては「仲間」と言った方が正しいか―――全てが敗れた事を知った。

ならば余計に、自分はただの一撃で敗れる訳にはいかない。
彼らの忠誠に、その思いに応える為に。
そんな中、黒髪の少女が目に留まる。
自分が「こう」なるきっかけの一つとなった存在。もしも彼女が戦士系であったなら、自分はダイより彼女に拘っていただろうか。

“今更だ”

自分が宿敵として選んだのはダイで、それは今も変わらない。ただ自分の中に僅かにある戦士以外の部分が、人間としては少々特異な存在であるポップに向かっているのだ。

一瞬後、ハドラーは雑念とも言えるその思いを振り払った。
最早、時間どころか、力も残り少なくなったとは言え、親衛騎団のことを思えば一矢も報いずには終われない。
何の為に、退路を断ったのか!

「ハドラー…!」

ストラッシュ・クロスを受け、更にあのエネルギーのダメージも全て受けたにも拘らず立ち上がったハドラーに、驚愕の声が上がる。
競り勝ったとはいえ、かなり消耗しているダイもそれに呼応する。

「ダイ」

「まだ…終わってない」

「それは…だけど、お前」

ダイにも解っている筈だ。いや、こう言う事に関しては、自分よりダイの方が遥かに敏感な筈なのだ。
あれは執念だ。
親衛騎団の思いも背負った上で、燃え尽きる寸前のロウソクが一際明るく輝くように、この瞬間のハドラーの力は計算が出来ない状態で上がっていると考えていい。

「解ってる。でも、それはおれだって同じだ」

いや、背負っている思いの大きさは、寧ろ自分の方が上だ。
だから負けない。
負ける訳にはいかない。
自分の言葉にそう返したダイに、ポップは軽く肩を叩いて一歩下がった。

「ポップ?」

「いいさ、行って来い。回復魔法の使い手が三人いるんだ。死にさえしなきゃどうとでもしてやるよ」

我儘とも言える、自分の意地・意思を認めてくれたポップにダイは小さく微笑った。

「そんな事になる訳ないだろ」

「ああ…『お前』の戦いだ。貫け!」

「うん!」

ポップの後押しを受けて、ダイは飛び出した。 b
何故だかこの瞬間に、ポップに一人前の男だと認めた貰えた、そんな気がした。

ポップの隣にヒュンケルが立つ。

「何だよ」

「止めたかったんじゃないのか?」

「否定はしない。けど、それをやったら俺は『勇者の魔法使い』なんて言えなくなる」

そう言いながら、漆黒の瞳には不安と心配が浮かんでいる。
ヒュンケルにもハドラーの決死の覚悟は解る。そして二人の戦闘力には、差と言える程の違いはない。だからポップの不安も解らないではないが、それでもポップは目を逸らす事はない。
そんな中、ポップが微かに苦笑した。

「ポップ?」

「あいつの成長スピードって凄いよな」

先刻のストラッシュ・クロスもそうだが。
視線の先にはライデインを使い、魔法剣を完成させたダイの姿。

「最初は俺のサポートがなきゃ使えなかったのに」

ふと浮かんだ柔らかな表情に、逆にヒュンケルはどう反応していいか解らなかった。あれはヒュンケルにとっては、黒歴史の一部だ。

「――――待つのか」

驚きを含んだ小さな呟きに、ヒュンケルも思考を現実に戻す。
鞘の中で、ライデインがギガデインへとヴァージョン・アップを果たす10秒間、絶好のチャンスだろうに、ハドラーはその時間を悠然と待っている。

“男の一騎打ち…これが、そうなのか”

理解出来るような、出来ないような、不可思議な気持ちになる。
きっとこれが最後の激突になる。
ポップはここでもう一度ハドラーに目をやった。

“初めに会った頃のまま、だったら…心置きなく憎悪も軽蔑も出来たのに”

一体、何がどうなって、こんな尊敬にも値するような「男」になったのか。

“俺の言った事がどうとか言ってたけど”

それはあくまできっかけの一つで、最大の理由はやはりダイに違いない。ハドラーにとって「勇者」とは、それだけ拘る相手の筈だ。

“ダイ…”

アバンの正統な後継にして、戦闘力のみに関して言えば既にアバンを越えている彼。

“ギガブレイクを撃つのか”

剣技ではバランの最強の技だった、それ。ダイにとっては父の遺産ともいえるもの。
そしてそれは恐らく、この場にいる誰もが考えた事だろう。
そう、相対しているハドラーも含めて。
だがその予想は大きく裏切られる事になる。

―――――――勝負!
                               (続)

            

 

2に続く
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