『四界の楔 ー再会編 2ー』 彼方様作 |
突進しながら、ダイが剣の持ち方を順手から逆手へ変える。 「ギガストラッシュ!」 先刻見せたストラッシュ・クロスをも上回る威力に、全員が瞠目する。 “ダイ” 何て奴だ、と思う。ハドラーとの会話で、それがたった今直感で―――つまり即席で撃ったものだと解ると、全身が総毛立つような感覚に襲われる。 “こんなものを、その場の思い付きで?それを完璧に決める?” ヒュンケルはストラッシュ・クロスをダイだから出来る技だと言ったが、これはもう、そんなレベルを越えている。 “紋章の継承はされていない筈” ダイは「竜の騎士」としては、異端…突然変異種とも言える存在だ。彼が持つ紋章は血統により発現しているもので、代々受け継がれてきたものではない。 “ダイ…!” 解っている。 “強すぎる力は、争いの火種になりかねない” レオナを始め、サミットに参加した各国の王がダイに好意的でも、民を無視して国は治められない。 “許さない。そんな未来、来させない” 瞬時に想像してしまった、けれど実現性の高い未来を認める気は、ポップには毛頭ない。それはきっと、ここにいる者達は勿論、直接ダイと言う存在の「人間性」を知った、ロロイの谷で戦っている者もそうだろう。 “なら、俺に出来る事は一つだけ” どう頑張っても、そんな状況になるまで時間が経った時、自分はもうこの世界にいる事はない。 “ダイ、ハドラー” 少し離れた場所で、二人が握手をしようとしている。そしてハドラーの体は、もう所々崩れ始めている。 “最期なんだ” 正直、男同士のどうこうと言うのは、やはり今一つピンとこないが、流石にこの場面で二人の邪魔をしようと言う気にはなれない。他の三人も同じ考えなのだろう、誰も動かない。 “―――――っ!?” 覚えのある、けれどそれより遥かに不穏な気配を感じて、ポップは瞬間的にトベルーラを発動させた。 魔力の炎が三人を襲う。 “あの―――バカ!!” 「死神・キルバーン」としては、当然の行動なのだろうとは解る。けれどダイを狙えば、自分が動く事位解らなかったのか? “いや、死の大地の時だけでは、判断つかない、か?” だがヴェルザーやキルヒースから、情報は受け取っている筈だ。とはいえ、今はそれを考えている場合ではない。どうすれば、この状況を切り抜けられるかだ。 「ポップ…」 「何か仕掛けてくるとは思ってたが、随分なタイミングだぜ」 「予想してたのか?」 「魔王軍の中心部だからな。今のハドラー達が信用出来たとしても、魔王軍全体がそうな訳がない」 この言葉に、ハドラーが目を瞠る。 “魔界の炎、とは少し違うか?けど、これって” カイザー・フェニックスとまではいかないが、かなり濃密な魔力を感じる。この炎を魔法以外で消すとなると、相当骨が折れるだろう。 “マァムの拳圧じゃ、まず無理。ヒュンケルのグランド・クルスだって効くかどうか…” 残る一人、レオナは賢者だ。 “無理だよなぁ…” そもそも彼女が前線に出る事自体、想定外だったのだ。「王族」と言う非常事態において生き残る事が最優先される存在なのだから、使用魔法が回復系重視になるのは必然だ。 “て、事は自力で何とかするしかないって事だけど” そうすぐにいい考えが浮かぶ筈もない。 その「外」では、仮面の下でキルバーンが顔面蒼白になっていた。 “何て事をしてくれるのサ、秘女ってば!” ポップが動く事を想定していなかった訳ではない。だが、罠の真っただ中に取り残されるなんて、思ってもみなかった。 それで「バーンの側近」としての役目は一応果たした事になり、バーンにも、下にいるミストバーンにも言い訳が立ち、自分の役目を果たす為の土台を守れる事になったのに。 “怒られる、怒られる、怒られる〜〜〜” ヴェルザーやキルヒースに何と言われる事か。 それでは彼女の望みに支障をきたしかねないし、ヴェルザーが堕天した理由にも反する事になる。 “あああぁ。御免、秘女。自分で何とかして!” 結局、当の本人に丸投げと言う形をとってしまい、キルバーンはその場を後にした。 一方で、レオナ、ヒュンケル、マァムは何とか二人を助け出そうとしていた。 “さぁて、どうする?” こうしている間にも、魔法力も体力も削られて行く。 「…っ」 「ポップ!」 ポップの膝がガクリと崩れる。 「マヒャドなら押し勝てない?」 「それだけじゃ無理だ。通り道を作るには…足りない」 ギリ、と奥歯を噛み締める。このままでは魔法力が尽きた時点でジ・エンドだ。 「これしきの事で諦めると言うのか」 「何を」 「貴様らが戦ってきた中では、これより厳しい状況など幾らでもあっただろう」 これに二人が瞠目する。 「それでも一度も諦めなかったからこそ、ここまで来たのではないか!」 諦めるなど言語道断。 「ポ、ポップ?」 その反応に、ダイがまた驚く。一体どうしたと言うのだろう。 「ったく、そんな、だから…」 ただ憎むなんて出来なくなってるんじゃないか。 「ああ、見せてやるよ、ハドラー。あんたが理想とする『アバンの使徒』の姿!」 何処か笑みを含んだ言葉と共に、ヒャダルコが勢いを取り戻す。同時に、胸元を彩る淡い緑の光が灯る。 “こう言う時こそ…” ポップが持ち直したのは勿論喜ぶべき事なのだが、どうしてそれをしたのが自分じゃないのか。これまで何度もポップが自分にしてくれたように、力になる事をしてやれないのか。 「――――ダイ」 そんな、場にそぐわない事を考えていると、声をかけられる。 “やっぱり、ポップは凄い” どんな時も、最終的に活路を開くのは彼女だった。 「ぐ…っ」 ヒャダルコを中断した瞬間、ポップは大きく体勢を崩した。片手だけでは落ちてくる炎を防ぎきれないのだ。ポップはすぐにまたヒャダルコに戻した。 “ここまでするかよ、あのバカ!” 内心で舌打ちしながら、キルバーンに悪態をつく。いや、別にこの為に仕掛けた罠ではないのは解っているのだが。 「ダイ?」 「ポップから貰った水晶。あれ、使えば」 「いや…駄目だ」 だが速攻で却下され、ダイは首を捻った。 「言ったろ、普通に魔法を使う感覚で、て。使うのにはお前自身の魔法力が必要なんだよ」 「そう、なんだ」 また少し落ち込む。 「く…」 炎の天井を見上げながら、あらゆる可能性を考えているだろうポップに何もしてやれない。 「ハ、ハドラー!?」 「何でっ」 驚愕する二人に、ハドラーが叫ぶ。己の矜持と親衛騎団への思い。 「早くしろ、ポップ。長くは保たん」 不敵な笑みを向けてくるハドラーに、ポップは思い切り叫び返した。 「カッコつけんな、馬鹿――――!」 命の、重み。
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