『四界の楔 ー杜門編 1ー』 彼方様作 |
《お読みになる前に、一言♪》 ・ポップが女の子です。 この四点にご注意の上、お楽しみくださいませ♪
固く、冷たい音を立てて、幾つかの宝玉のような物が床に転がった。そしてそれと同じ人数が減っている。 「ダイ…姫さんもあの中か?」 「うん」 ダイが出来るだけの説明をする。 「何と言うか、まぁ」 バーンからすれば、大した戦闘力もないのにウロチョロされるのが鬱陶しいという所だろうが、こちらとしても悪い話ではない。 「どういうこったよ」 ヒムが不機嫌そうに尋く。 「バーンが戦うまでもないと判断したって事は、それだけ戦闘力が低いという事だ。言い換えれば死亡確率が高い奴が瞳ってのにされたと考えれば―――親切だとも言えるんじゃないか?」 奴の魔力で作られたものなら、そりゃ頑丈だろうしな。 「相変わらず、面白い考え方をする奴よ」 「…あんたと会ったのは、まだ二度目だけど」 冷ややかなポップの返しに、バーンはクツクツと笑った。 「どうだ?余の許に来んか?」 それはポップ達が来る前、ダイとレオナにもかけられた誘いだった。どうやらバーンは、気に入った相手は一度は勧誘しなければ気が済まない性格らしい。 「相容れない、と言ったよな」 「余は二心を持っていようと構わんぞ」 “ふうん” 成程、キルバーンの事はとっくにバレているらしい。 最初からそうだった訳ではないが、裏切ったクロコダインやヒュンケルの行動にも、大して思う所はなさそうだ。ハドラーに関してはバーンの方が裏切った。尤も、ハドラーにも魔王としての矜持はあっただろうから、下剋上を狙っていたとしてもおかしくはない。 バランもまた、バーンに忠誠を誓っていたというよりは、自分の目的の為に魔王軍を利用していたと言った方が正しいだろう。 “改めて考えると、魔王軍ってバラバラだよな” だからこそ、こっちは何とかやってこれたのだが。 「主義主張以前の問題でさ、俺は『自分だけが大事』な奴と一緒にいたくはないね」 そんな魔王軍の中で、唯一バーンに全身全霊の忠誠を捧げていたのは、恐らくミストだけだろう。それも何千年という、気の遠くなるような長い時間を。 「そうか。惜しいな」 バーンもまた、ダイやレオナに誘いをかけた時と同じく、執着はしなかった。 “まぁ、今でなくとも構わん” レオナとは違い、実際の戦闘力があり。 「俺達は、あんたを倒す為にここまで来た」 ポップがスゥ…と戦闘モードに入る。 尤も、バーン自身はそんな事をする必要がないので、やってみようと思った事もないが。 “やはり面白い” 「ならば来るがいい」 他のメンバーどころか、ダイですら置き去りにして、バーンと真っ向から対峙しているのはポップだった。 「焦んなよ。俺一人であんたとやりあえる訳ないだろ」 薄く笑ったポップに、バーンもまたニヤリと笑った。 「あれは」 それを見たダイが飛び出しそうになったのを、ポップが引き止める。 「ポップ。バーンがあの構えをとった時はヤバいんだ!」 「だからだ」 反発したダイに、短く答える。 「ポップ!」 「闇雲に全員でかかって、どうにかなる相手じゃないだろ」 「それは、そう…だけど」 ポップの拘束など、ダイにとって何の意味もない。振り払うのは簡単だが、目に入ってきたポップの表情に息を呑んで…動きを止めた。 けれど、それだけではどうにもならなかったのも事実。ならば、今まで何回も絶望的な状況を打破してきたポップに任せて、作戦を練って貰うのが得策だろう。 “何だ、あれ…” 技の威力もさる事ながら、驚くべきはその反応速度だ。 “方法は、一つ” 「ポップ…」 「ああ。お前も解ってはいたんだろ?」 「うん」 その短いやり取りの後、バーンの嘲笑混じりの言葉にポップは反射的にそちらへ向かった。 「先生!」 「…後は頼みましたよ、ポップ」 全幅の信頼を置いた笑みを向け、アバンも瞳の中に封じられた。ポップはほんの一瞬だけ俯くと、勢いよく顔を上げてバーンへと視線を向けた。 「ポップ」 ダイが心配げに声をかけるが、ポップはダイの頭に軽く手を置き、不敵に微笑ってみせた。 「心配すんな」 やる事は、決まっている。 自分の最強の呪文、メドローアすら見せ技に使い、必殺のタイミングを教えてくれたポップ。そのポップの呼びかけに応じ、命までかけてくれたヒムとラーハルト。 更にポップは、三つの技全てを受ける役を引き受けるという。 「俺達は二人で戦ってるんじゃない」 ポップの声がダイに届く。 「愚かだな。絆や魂などで余は倒せん」 「言ってろ」 ポップが床を蹴り、バーンへ飛び掛かる。 「何!?」 「跳ね返せえぇ―――っ」 余りの魔力の大きさ故に、反射した瞬間にシャハルの鏡は砕け散った。 “バーン。これも絆の一つだぜ” 自分達は憎しみで敵対していた訳ではない。 “やってくれたぜ、シグマ” 今度はバーンが炎に包まれる。 “ま、誰にも見られちゃいないだろ” 全員、バーンの方へ注目していた筈、だ。 “けど…これで勝てるんなら苦労はないよな” ポップがそう思うとほぼ同時にバーンが炎を蹴散らした。 「ダイ!」 これで天地魔闘はもう使えない。 「な…っ」 ダイが選んだ攻撃方法に絶句する。 止めた方がいい。 “くっそ。考えろ、考えろよ!手が全くないなんて事、絶対にない!” どれ程バーンの戦闘力が高かろうと、生命力が強かろうと、完全無欠ではない筈だ。それを見つけてダイを援護できるのは自分しかいないのに。 “あの柱にそんな意味が” そして最後の一本を、この真下に落とすのだという。 (続) |