『四界の楔 ー永別編 1ー』 彼方様作 |
《お読みになる前に、一言♪》 ・ポップが女の子です。 この四点にご注意の上、お楽しみくださいませ♪
ポップの不在は、当然の事ながら「戦死」として処理された。世界を滅ぼそうとした大魔王との最終決戦だ。死者が一人も出ない方がおかしいともいえる。 ゴメちゃんの力もまた、ポップ本人も知らない間に彼女の存在自体に影響を受けて底上げされていた為、あの時世界に拡散された状況も、より鮮明だった。 最も大騒ぎになったのは、故郷のランカークス。 ただ、ランカークスに限って言えば、平和そのものだった。 一人娘を喪ったジャンクとスティーヌの心境はいかばかりか。 ポップは実家に寄っていた。 ある程度世界が落ち着いてから、招集がかかったメンバーがいた。 そして、まるで形見分けであるかのごとく、ポップにアイテムを渡されていた者。 “いや、でも…” 親衛騎団の一員だったヒムや、ノヴァは会った事はないがラーハルトという、あの場に現れるまで敵だった者も参加するという。 “ポップ…” 彼女が本当は何者だったのか。 その会合は、パプニカではなくカールで行われた。 ただ、パプニカに比べてクロコダインやヒムと言った「異形」に対する抵抗感が大きい為、場内でも余り目立たない場所が選ばれた。 「さて、皆さん。良く今日まで待っていてくれました」 場を仕切るのは、当然のごとくアバン。 遺言ともいえるそれは、殆どが戦後の世界や仲間を案じるものばかりで。 「では、大前提である四界の楔について」 持って生まれた運命。 「ポップは…」 暫く経ってから、口を開いたのはダイだ。 「どうしてあんなに、明るくしてられたんだろう」 自分と比べてみても不思議に思う。 それも、事が起きない限りは普通に生きられる余白がある竜の騎士とは違い、その時は必ず来る。その上、役目を果たした後も普通に生きる事は不可能。 「生来の性格もあるでしょうね。ですが、一番は今までの七人の事があると思いますよ」 「それって、どういう事ですか?」 竜の騎士にも、紋章を通しての記憶の継承があると言われるが、ダイ自身にはその実感はまだない。 「ポップ以前の七人は、運命に負けて絶望の中に生きていた、という事ですから」 ポップはそれに猛烈に反発した。 「あの日、ポップを迎えに来たキルヒース…最初に彼が運命を告げに来た時に、あの子『幸せに生きてやる』と言い切ったという事ですし」 「凄い、な」 小さく呟いたのは、ダイではなくヒュンケルだった。 「―――ポップのあの知識量は、疑似太陽を作る理論を構築する為、か」 「そうね。きっとあらゆる文献を読み込んだんでしょうね」 ヒュンケルの問いに答えたのはレオナ。 「その中で、薬草類のレシピや暗黒闘気、竜の騎士についてのあれこれを学んだんじゃないかしら」 「でも、どうやってそんなに多くの文献を手に入れたの?」 その答えに、今度はマァムが疑問をぶつける。 「私もそこまでは聞いていませんが、恐らくヴェルザー達だと思いますよ」 更に答えたアバンの言葉に、ラーハルトが反応する。 「ええ。永い時を生きている彼らなら―――そう言ったものを持っている、何処にどんな書物があるか把握していてもおかしくはないですものね」 アバンの言葉を、フローラが補う。 ポップの最後の感情をダイレクトに受け取っていたメルルは、何も言わない。もう、彼女にとっていうべき言葉はないのだ。 だが絶望はしない。 “私の力はとても小さい。でも、ゼロではない。ポップさんの理想の実現に少しでも貢献できるよう、頑張ります” きっとそれが、自分に「生きる」事を教えてくれた彼女へ出来る、唯一の恩返し。 “先生。貴方の直感は当たっていました” 師と仰ぐロンが、自分のポップへの感情に気付き、ただの魔族の勘だと言いながら話してくれた事。 “ポップ…” また、そっと胸元に触れる。 アバンは知っていて当然だと言える。 つまり、本当に彼女が自分から進んで話したのは、アバンとマトリフ―――二人の師だけだと思えば悔しいという気持ちは湧いてこない。寧ろ、「話して貰えなかった事」でショックを受けているのは、関係性の深さで言えば、ダイとヒュンケルの二人だろう。 “ボクだけが貰った言葉も、確かにある” あの夜、泉の畔で。 「あの賢者、ポップがどんな存在で、どんな考えを持ち、何を成そうとしていたかは大体解った。だが、何故そこにヴェルザーが関わってくる」 二人と同じように、今まで黙っていたラーハルトが口を開いた。 「―――知らなければ納まらない、という事かしら」 「当たり前だ。15年前、地上を侵略しようとした冥竜王が、何故…」 言ってみれば、バーンと大差ない存在の筈だ。 「15年前。ポップ君が生まれた年ね」 「それが何か関係あるのか」 非常に険悪な空気が流れ始める。 「姫」 「レオナ」 アバンとフローラが、少しばかり咎めるような声を出す。 「ええ、解っています。ですが」 レオナがラーハルトへ冷えた視線を向ける。だが、当然ラーハルトはその程度では引かない。 「どーしても知りたいのカナ」 そこへいきなり、軽い声で黒い影が割って入った。 「キルバーン!」 ダイを始めとして、数名が殺気立つ。瞬時に戦闘態勢に移行できるのは、流石というべきか。 「お止めなさい」 だが、この場で唯一キルバーンの正体を知るアバンが、静かに制する。それにダイ達が踏みとどまった。 「フフ。やっぱり君の言葉には力があるネェ、アバン君」 「お前」 その違和感に最初に気付いたのは、ヒュンケルとクロコダインだった。現れたキルバーンの手には、彼の象徴ともいえる大鎌がなかった。 「そりゃ、ボクの『死神』としての役目は、もう終わったしネ」 ちなみに、名前ももう違うんだヨ。 「秘女の最後の言葉を伝えに来たんだケド、随分楽しそうな話をしてるじゃないカ」 その笑いを納めて、やや冷えた声で言葉を綴る。 |