Chapter.12 全ての鍵、タスクの剣 |
「後1つ……残るはドラゴン岩か」 ドラボアの洞窟を出たぼく逹は再び同じ道を登り進み、最後の鍵の在処を捜した。 「ここしかないな」 ミュアを見ると、奴も黙って頷く。 「あれか」 ぼく逹は息を飲んだ。 「ドラゴンが霧を吐いている……!」 信じられないとばかりに、ミュアが呟く。
「わっ、なんだ?」 毒か いや、ぼくもミュアも別になにも感じない。 「……なんっか気持ち悪いよなー」 精霊の力で、なんとかなるかもしれない。ぼくはロッドを取り出して、なんの精霊に呼びかけようか、ちょっと迷った。 「よし……カトゥラブーラ、善き土の精霊グノーメよ、聞け。 ロッドの輝きがともる。土の精霊は答えてくれた。 膝まで覆い尽くすもやの海はしだいに退き、やがて地面があらわになった。亀裂が生じ、もやはそこに流れ込んで、消えた。 「へへっ、どうだい、さっぱりしたろ、ミュア?」 肩にいるミュアに話しかけると いつの間にか、ミュアは下に降りていた。……あのな、これじゃあぼくがバカみたいじゃないかっ。 「…………なぜ……分かるのだ?」 「へ?」 今の声は――ミュアか? 「ミュア、おまえ、今なんつったの?」 おどろいで聞き返すと、ミュアはきょとんとぼくを見上げた。 「なに言ってんのさ、ボクは何も言ってないよ」 「? だって、今、誰かの声が」 「聞き間違いじゃないの? ボクには何も聞こえなかったよ」 ミュアの真顔を見ると、ぼくをからかおうとしているわけじゃないらしい。 「まあ、いっか」 気にはなるけど、とりあえずはそれよりも5つ目の鍵が優先! 『汝が力を示せ』 「どう示せってえの?」
「わっ、えっ? ぼっ、ぼく、何もしてないよっ?!」 焦って、思わず飛ぶずさると、割れかけた石碑がまた戻っていく。 「バカっ、何やってんだよ?! インディ、もう一度石碑に触れるんだよ」 ミュアがぼくの足をひっかく! 「痛っ! 何すんだよっ、ミュアっ?」 「キミがあまりにもおバカなこと、するからだよ! いいかい、この石碑は……多分、手を触れた者の魔力をはかる働きがあるんだよ。キミはなんとか認められたのに、自分から手をはなしちゃったりしてさ! これをバカと呼ばずに、何をバカと呼べってえの?」 皮肉たっぷりに、ミュアがポンポンわめく。 「しょっ、しょーがないだろっ、知らなかったんだからっ!」 ミュアにこれ以上なにか言われる前に、ぼくはもう一度石碑に手を置いた。再び、岩が割れる。 中の空洞部分に、3つの物が浮かんでいた。 「これは……オニキスだ」 ミュアがちょいと触って断言する。正直、オニキスだのダイヤモンドだの、宝石っぽい名前はぼくにはまるで区別がつかないけど、ミュアがそう言うんなら、そうなんだろう。 2つ目は、剣。 「なんだか……牙みたいな形だな」 思わず、ドラゴン岩を見上げてしまう。 細かな模様が浮かび上がっている。透かしてみると……それは、模様じゃなくって字だった。 「ヨギの碑文だ!」
聖櫃に宿りしは 力の精霊なり 5つの鍵にて求むるものを示せ 「すごい……すごいよ、インディ!」 ミュアは興奮のあまり、ぼくの肩をかきむしる。でも、ぼくも同じぐらい舞い上がってるせいか、そんなのちっとも痛くない。 「この剣には、ドラゴンを操る力があるんだ。今はその力は封印されているけど、ヨギの聖櫃を開ければ剣に力が宿る。 興奮しているミュアは、ぼくの返事も待たずに言葉を続けた。 「この世で最も力在りし生き物――すなわち、ドラゴンのことさ。つまり、これはドラゴンを自由に操る力なんだ!」 知らず知らずのうちに、ぼくは生唾を飲み込んでいた。 「こいつが……蘇るんだって?」 手にしたタスクの剣と、ドラゴン岩を見比べずにはいられない。 「大魔術師ギィの力は、それだったんだ。確かに、これ程の力を封印できるなら、大魔術師と呼ばれるに値する……」 ミュアが恭しいと言ってもいい態度と口調で、ドラゴンに一礼する。 「だから、異端の魔術師ギィが狙い、守護僧セミヤザが先手を打った……」 そして、ぼく逹は期待に応えたってわけだ。 「じゃあ、早いとこ僧院に戻ろう」 「だけど 」 ミュアが、なにか気にかかることがあるように、口ごもる。 「ん? なんだよ、ミュア」 ミュアは今度も何かを言いかけ――やはり思い直した。 「……ん、いいんだ」 「いいんだってこともないだろ。なんなんだよ?」 「じゃあ……インディ、帰り道は行き以上に気をつけると約束してくれる? 魔術師ギィが襲ってくるかもしれないだろ」 そういえば、すっかり忘れていたけど、魔術師ギィもこの鍵を探しているんだっけ。ぼくは浮かれていた気分をひき締めた。 「分かったよ、約束する。気をつけるよ」 ぼく逹は何度も振り返りながら、ドラゴン岩を後にした。
――リィン! 突然、氷のタルモが鳴った。 「? なんだあ?」 紫の霧の層にすっぽりと入り込むと、その理由が良く分かった。 「くそっ、やっぱり毒だったんだ……!」 足だけの時はなんともなかったのに、吸い込むと体の力が抜ける。 「……!」 ミュアを掴み、ぼくは比較的なだらかな斜面に体を滑らせた。あっと思うまもなく転がり落ち、ぼく逹は霧の層を抜けて岩棚の上へとすっころんだ。 「いてて……」 「インディっ、いきなり無茶しないでくれよっ」 いーじゃんか、毒の霧から早く抜け出せたんだし。 『汝 大いなる力の鍵を手にしたり』 そう刻まれた扉は、ひとりでに開いた。
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