11 過去に囚われた魔剣戦士、ヒュンケル!!

  

 数ある登場キャラクターの中でもっとも複雑な過去を持つのが、このヒュンケル。
 彼は旧魔王軍との戦いの際親を亡くし、魔王軍最強の兵士バルトスに育てられた。

 ヒュンケルはバルトスを父のように慕っていたが、アンデットの怪物だったバルトスはハドラーが死ぬのと同時に死亡。残されたヒュンケルは父を殺した勇者アバンを憎み、正義そのものを嫌うようになってしまった。

 その後、復讐のためアバンに弟子入りし、剣技を磨いたあげくアバンに切りかかるが失敗し、間の悪いことに急流に落ちアバンと離れ離れになってしまう。
 溺れかけていた彼を救ったのが、魔王軍魔影参謀ミストバーン……ヒュンケルはこの男に教えを受け、さらに剣の腕に磨きをかけることになる。

 彼がダイ達と出遭うのは21歳の時――既に復讐の対象者であるアバンが死に、目的を見失ったまま不死騎団団長として、人間をすべて滅ぼそうとしていた時のことだった。
 幼い頃に強いトラウマ(精神的障害)をおったヒュンケルの心の傷は深く、アバンの弟子であるダイ達にさえその復讐心が向けられた。その彼の心の傷を癒し、憎しみを拭い去ったのはマァム――。

 ヒュンケルの深い悲しみを見抜き、それが心を歪めていることを気付かせたのは、マァムの限り無い優しさ。
 マァムはヒュンケルにバルトスの本当の最後、そして彼の残した思いを告げ、ヒュンケルの誤解を解き、その優しさで彼にぬくもりを与えた。

 しかし、九死に一生を拾い生き延びたヒュンケルだが、改心したのはいいものの彼は過去の過ちを責めるあまり、自分には生きている価値がないと思う傾向が強い。
 完璧主義なところがあるせいかとかく自分に厳しくなりがちなのが、ヒュンケルの欠点でもあり長所でもあるところ。

 同じく、ダイ達によって改心したクロコダインの説得によって、ヒュンケルは過去を償うためにダイ達に力を貸す決意を固めたのだ。ヒュンケルは自分が戦いの中でしか生きられないと思い込んでいる観があり、命を粗末にしている節さえある。

 どこか孤独でいつもみんなから一歩離れた所にいるヒュンケルは、過去を完全に捨て切れず罪悪感に苦しみ、それゆえに正義のために戦うことで少しでもそれを癒そうと戦いに挑んでいく。

 常に冷静でいつもは感情をぐっと押さえているが、本当はかなりの激情家。
 対バラン戦でポップを痛めつけた敵に見せた怒りや、その敵にポップを人質にとられ迷わず武器を捨ててしまうなど、無愛想な仮面の下に隠した思いの激しさにはしばしば圧倒されてしまう。

 それに、ヒュンケルは驚くほど仲間思いで繊細な面がある。
 ポップを人質にとられた時、冷静に判断するなら魔法力が尽きたポップと、まだ気力、体力を残したヒュンケルではどちらが戦力になるかは明白だった。

 ポップもダイやマァムのためにヒュンケルが生きることを望んだのだが、それでもヒュンケルはポップを見殺しにはできなかった。また、敵とは言えバランやラーハルトの過去を我がことのように受け止め深く同情するなど、ヒュンケルの優しさは目立たないところでちらほらと見ることができる。

 かつて敵だったラーハルトの思いを受け止め、得意の剣を捨ててまで彼の形見の槍を使うヒュンケルは、そうやって人に対する思いを深くしていくことによって、少しずつ人間らしさを取り戻してきたようだ。また、物語終盤ではそんな彼の孤独さ、秘めた繊細な心に惹かれたエイミが、ヒュンケルを愛するようになった。

 結局、愛を打ち明けたエイミにヒュンケルは応えることはできなかったが、しかし、それによってヒュンケルに生きることへの執着心が生まれるなどいい方向への影響があった。

 いつか過去を自然に忘れ、人を幸せにしたいと願い、また自分をも幸せにする――そんな風に人生を生きて欲しいものである。
 
 

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